見出し画像

百年前の僕の戀。

ずつと昔の夢を見た。大正時代、關東大震災の後の話だつた。
多分大正13年、場所は東京。

彼女はお店をしてゐるおうちの子だつた。
お父さんのお遣ひに、と買ひ物かごを提げて店を出た彼女を追つて、少し遲れて僕も店を出た。
「一緖にお散步に行くよ」
と僕は店から少し離れた地點で彼女に驅け寄つて、隣を步く。
談笑する二人。彼女は三つ編みお下げで僕はスーツにネクタイ。
僕は彼女が次の路地を曲がることを知つてゐたから、隠れんぼか何か悪戯をする顔で、少し走つて先回りをして彼女を待ち伏せする。

角を曲がつてきた彼女の前で僕は片膝をついて
「Xちゃん、僕は貴女を愛してゐます」
と告白をした。
彼女が14歲の時だつた。

「僕が好きなだけです。ただそれだけだから、お付き合ひして欲しいといふわけではないです」「僕の氣持ちを知つてゐて欲しい」
とだけ言つて、僕は走り去つた。
さうしてまた彼女のおうちの店に何事もなかつた顏をして戾つた。

その後15歲になつた彼女に僕は正式に交際を申し込んだ。
場所は多分告白した所と近い場所。
「僕とお付き合ひしてください」
つて言つたら、彼女は滿面の笑みで「はい」と返事をくれて、くるくる回つて踊つて喜んで吳れた。

その後の僕は「15歳とは云へ、男女のお付き合いをしそれなりの関係になるのなら大人と同じだから確りと責任を持つてお付き合いしなくては」と一人で決意を新たにして居た。

後々調べたら、この頃の女子は15歲で結婚が出來ると云ふ事だつた。
僕はその時まで彼女を待つてゐたのかもしれない。

さう氣が付いたら淚が止まらなくなつて、僕は聲をあげて泣いてしまつてゐた。令和のキツチンで。

大人ではない彼女に氣持ちを傳へるだけでそれ以上何も求めなかつたなんて、僕は案外誠實だつたのだなあと思つた。

性感帯ボタンです。