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せんちめんたる・なんせんす

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嘘吐きは夜の海を散歩する。嘘吐きの僕の日常のことです。
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2023年5月の記事一覧

前の人生を思い出したと云う友人の話(1)

「僕の產まれる前の人生は、明治生まれの男で閒違ひないやうだ」 さう言つた幾野君は手に持つた白いマグカップに口を付けた。 「小さな弟たちが居たり姉が居たりとそんな夢を見る事がある。皆んな着物を着て居たよ」 「突然呼び出したと思つたらそんな話かい?」 僕は首を些か右に傾けて、彼に向かつて歎息とも笑ひともつかない聲を溢す。 「否、それだけでは無いんだけどね。ここ最近、生まれてこの方體驗した筈が無い事を思ひ出し續けてしまひ、氣持ちを持て餘して居るんだ。けれど此樣な事を誰彼構はず話した

前の人生を思い出したという友人からの手紙

長い付き合いのある友人からこんな手紙が届いた。 ××× 僕が前の人生のことをはっきりと思い出したのは去年の3月28日だった。 奇しくも僕の愛する小説家・渡辺温の四十九日に当たる日で、一人戦慄したものだが。 閑話休題、前の人生をはっきりと思い出した僕を襲ったのは激しい感情だった。 僕には愛する恋人が居たようで、その彼女が確かに存在した!ということをはっきりと手応えを持って思い出したのだった。 喩えるなら、保育園の時に仲良かった友達とのことを急に鮮明に思い出したような、小学

僕は猿股ボーイ

1927年のモダンボーイの生まれ變わりである僕は、當時のモダンな文化や風俗は見れば大體直感で判るもので、建物なんかも大筋外した事がない。 明治時代と大正初期、それから1923-1930と昭和6年ー昭和16年頃迄。この區分で大體區別が付く。 少し前まで僕は江戶時代や明治初期を舞臺にした話を書いてゐて、その際に褌や下履きの歷史や、どの階級や職業が何時頃迄どんな感じでどのタイプの褌を履いてゐたのか調べまくつてゐたのだけど、昭和初期も褌だつたといふ記述を、地方の歷史資料館のやうなサ