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映像プロット・脚本『臍の緒忘れた』

 山下和樹(27)は千葉にある実家で引越しの手伝いをしていた。リビングを片付けていると、一度も触れたことのない艶のある茶色いデスクが目に留まる。今は物置となっていて、埃をかぶった書類が無造作に広げられていた。鍵付きの引き出しを引いてみるが鍵はかかっておらず、中からは大事そうに包まれた箱が出てきた。その箱には『和樹 01/18 3625g』 と刻まれていた。和樹は父親の目を盗んで自分のバッグの中にしまう。

 荷造りも一段落し、実家の外へ出ると隣の家から幼なじみの藤原優也(28)が出てきた。 たまたま帰省のタイミングが被り驚く二人。優也は今から車で神奈川に帰るところで、和樹も全く同じであったため乗せてもらうことに。帰る道中では、高校時代の話や優也の両親の話や和樹の彼女の話をして、他愛の無い会話をしていた。和樹は後部座席で荷物の整理をし、家の前まで送ってもらう。優也は明日が早いため、和樹の家には寄らずまっすぐ帰っていっ た。

 家に帰ると、すぐシャワーを浴びる和樹。体を洗っていると臍が黑いことに気づき小指でほじくる。その時、実家から持って帰ってきた臍の緒を優也の車の中に忘れたことに気づく。シャワーの途中にメッセージを送るが既読はつかない。シャワールームから物凄い湯気が 出ており、気になった由芽(27)。取り乱す和樹を不審に思った由芽は問い詰め白状させる。 臍の緒を優也の車に忘れた和樹は不安そうな表情を浮かべる。由芽は「明日でいいんじゃない」と説得するが、「でも...」と動揺する和樹。

 和樹の母は、和樹を産んですぐ離婚し家を出ていった。顔もよく知らず、居たのだろうが居ないものとされる母親の存在への興味は薄れていった。しかし、突然出てきた臍の緒の存在は、母への興味を抱かずには居られず、衝動的に持って帰ってしまった。臍の緒は、 母を通して栄養を蓄え呼吸するためのもの、母親と自分の体をつないでいたもの。自分が生まれたことで、母は和樹という存在から離れることができたのではないか、自由を奪っていたものから解放されたのではないか、と話す和樹。臍の緒は子供の成長の一部、いわば乳⻭のようなもので、母親にとって臍の緒は自分と子供をつないでいたもの。
 突然電話が鳴り響き、画面に優也の文字が浮かび上が る。「臍の緒忘れた。」と話し始める和樹に吹き出す由芽と優也。「明日の20 時ならそっち行けるけど。」と言う優也に、「今からそっちに取りに行く。」と返した和樹。由芽は家を出る準備を始める。住所を聞き忘れた和樹に小言を言う由芽。少し安心した顔の和樹は身支度を済ました。


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