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鳥取市鹿野町は”お金のないシリコンバレー” ?- NPO法人いんしゅう鹿野まちづくり協議会-

今回取材した「NPO法人いんしゅう鹿野まちづくり協議会」で勤務している向井さんは、鳥取県鳥取市鹿野町を「お金のないシリコンバレー」だと言います。

お金のないシリコンバレーとはどういうことなのか?空き家活用を中心としたプロジェクトでまちづくりを推進する当団体の活動についてや設立の経緯や鹿野町の現状、ビジョンなどを通して伺いました。

住民の力で地域をおもしろく

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まずは、いんしゅう鹿野まちづくり協議会が設立された経緯について教えて下さい。

向井:「いんしゅう鹿野まちづくり協議会は現在発足20年目になります。いんしゅう鹿野まちづくり協議会が発足する以前、地元の有志の方々が『セクション童里夢(ドリーム)』という団体を立ち上げて、まちづくりに関わる活動を行っていました。

当時、『地域を住民の力で面白くしたい。』という動きが、地域の中に出始めていたと聞いています。

それが段々と『地域を面白くしよう、面白いまちになれば人が集まる。』という思いに変わり、地域外の方々も次第に関わっていくようになりました。」

鳥取県のまちなみ整備コンテストで優勝したことがきっかけで、現在のいんしゅう鹿野街づくり協議会の発足につながったと続けます。

向井:「セクション童里夢が活動していく中で、鳥取県が主催する街なみ整備コンテストに応募する機会があったんです。

そこで、『いんしゅう鹿野童里夢計画』と名付けた計画が見事優勝しました。鳥取県からも支援を受けることができ、より活発に活動ができるようになりました。

また、『いんしゅう鹿野童里夢計画をもっと具体化してみませんか』と鳥取県からご助言をいただき、任意団体ではなく、法人として本格的に活動していくことになります。」

鹿野町での暮らしを通して、地域の魅力を知ってもらう

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(街歩きのイベントの様子)
いんしゅう鹿野まちづくり協議会の現在までの具体的な取組を教えてください。

向井:「活動当初、古民家を改修した和雑貨店『ゆめ本陣』や飲食店『夢こみち』、まちの景観づくり、にぎわいづくりのためのイベントの開催など、鹿野町の魅力を発信するための事業を中心に活動していました。

いま中心的な活動となっているのは、移住支援や空き家のサブリースなど移住や定住に関わる事業です。

移住や定住に関わる事業を行うきっかけとなった出来事は、2009年に大阪と倉吉から鹿野町に移り住みたいという相談があり、その相談者が理事長の旧自宅に移り住んだことでした。

2009年頃の鹿野町周辺は、アパートなどの賃貸物件が少なく、移住を希望しても住むためのハードルが高いという状況でした。

旧理事長の自宅を移住希望者に貸したことがきっかけで、鹿野町にある他の空き家の所有者にも『貸してあげられるような空き家はありませんか。』と声をかけることになりました。

ありがたいことに、『いんしゅう鹿野まちづくり協議会になら貸してもいい。』という声が思っていたよりも多く、サブリースできる物件が少しずつ増えました。」

現在の活動は空き家のサブリースだけにとどまらないと言います。

向井:「現在は空き家活用を柱に、ゲストハウス「しかの宿 本田中家」、鹿野に関わりのある方に向けた滞在施設「しかの宿 殿町」「しかの宿 山根町」の運営、耕作放棄地を活用し果樹の定植を大学生と連携して行う「鹿野町河内果樹の里山プロジェクト」など、時代の流れとともに多岐に渡った活動をしています。

空き家や未利用地などは、管理なしでは現状維持が難しく放置すれば地域の負担となってきます。

それを防ぐために、いんしゅう鹿野まちづくり協議会では、地域資源を活用するという思いをもって、空き家や未利用地の活用に積極的に取り組んでいます。

空き家活用を行う際、基本的に「購入して利用する」か「借りて利用する」の2つの活用策が考えられますが、当協議会では、オーナーから「借りて利用する」活用の仕方を中心に行っています。

これまでに私たちは、30戸以上の空き家を活用してきましたが、その中で当協議会として所有している建物は2戸だけです。

例えば、「ゆめ本陣」という物件は個人の方からお借りしていますし、「夢こみち」という物件は鳥取市からお借りして利用しています。

地域資源の活用が目的なので、空き家の所有は特にこだわっていないのが、いんしゅう鹿野まちづくり協議会が行う空き家活用の特徴です。」

地域の声に耳を傾ける。これまでも、これからも。

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(空き家を改修して作ったカフェの様子)
いんしゅう鹿野まちづくり協議会が空き家活用を積極的に行う一つの理由は、中山間地域が抱えるある課題だと向井さんは語ります。

向井:「同じ空き家問題といっても、市街地の状況と中山間地域の状況は全く異なっています。

市街地は空き家の買い手が見つかりやすく、空き家を解体してから売却をしても利益が出せます。

一方で中山間地域の場合は買い手が見つかりにくく、仮に買い手が見つかったとしても、解体費・家財処分費などの合算が買取価格より高くなり、最終的に赤字になることも多々あります。

このような理由から、所有者としては処分に困り、中山間地域の空き家はどうしても放置されがちなんです。

様々な方から空き家活用についてのご相談を受けますが、手放したくても手放せないという状況が、浮き彫りになっているという印象です。」

そうした地域の問題に目を向け、一緒に解決策を探っていくのもいんしゅう鹿野まちづくり協議会の大きな役目だと言います。

向井:「まちづくりというのは非常に複雑で、総合的に考えていく必要があると思います。

例えば、『空き家があるから、遊休農地があるから、自由に借りたい放題。』という話ではなく、賃貸借契約以前に、人間関係など解決しなければならない問題がたくさんあります。

また、空き家は法律上は個人の財産ですが、景観や災害などにも関わってくるので、地域の財産ともいえると思います。

そのため、所有者にまかせるだけではなく、個々の問題を解消するために最善を尽くすことが大切です。

地域住民が困っていることに耳を傾け一緒に解決策を考えていく。現在の活動もそうですし、これからの活動もそのようにしていきます。

将来にわたり、いんしゅう鹿野まちづくり協議会が組織として、続けていければいいなと思っています。」

地域の内外を問わずリスペクトを持って接する

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メインの空き家活用の事業を含め、いんしゅう鹿野まちづくり協議会として今後どんな活動を行うのでしょうか。

向井:「鹿野町では、『鳥の劇場(※)』で公演が定期的に行われています。しかし数年前まで、鳥の劇場の公演施設がある鹿野城下周辺には、演者が中長期的に滞在できる施設がありませんでした。

なので、改修した空き家を滞在施設として貸し出したり、空き家を活用したイベント『週末だけのまちのみせ』を行ったり、演者が地域にすぐに溶け込めるよう工夫しました。

また、本格的に空き家の状況調査を行っています。実際に調査をしてみて数字として実感することで将来の空き家の状況を予測し、行政などと連携した対策や取り組みを進めたいと考えています。

まちで起こっていることを記録し発信するというのも、私たちの役割のひとつだと考えています。

現在空き家がどれだけあるのか、この先どれだけ空き家が出てきそうか、そういった状況調査は”まちの未来を考える”上で非常に重要な取組だと思います。」

他にも「地域で何かしたい」という思いを拾い上げ、支援する活動も行っていると言います。

向井:「いんしゅう鹿野まちづくり協議会で働いていると、地域活動を行うにあたっての相談を受けることがあり、計画段階から一緒に伴走支援をすることもあります。

例えば、県内外の大学のゼミが鹿野町の地域資源を活用して”何か”したいと言えば、”何か”の部分を一緒に考えてあげるという具合です。

他にも、連携協力関係にある大阪国際大学の学生さんを招いて、鹿野の地域資源の魅力を知ってもらうという体験ツアーもしています。

それらの活動を通じて、地域内外の多様な人々と鹿野町との交流を促進する一つのきっかけになればと思っています。

基本的に相手の困りごとや何か挑戦したいという気持ちを真摯に受け止めることが私たちのポリシー。それを実現していった結果、自然と活動が多岐にわたっているのだと思います。」

(※)鳥の劇場
2006年1月、演出家・中島諒人を中心に設立。鳥取県鳥取市鹿野町の廃校になった幼稚園・小学校を劇場施設へ手作りリノベーション。収容数200人の“劇場”と80人の“スタジオ”をもつ。

挑戦する人を応援するまち

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県外の方々も多く滞在しているという鹿野町。多様な人々が行き交うその姿は、どのようなものなのでしょうか。

向井:「今まで鹿野町に関わってきた人たちの職業や活動を思い起こすと、その活動の領域は多岐にわたっています。

令和元年度は総務省の「関係人口創出・拡大事業」に鳥取市さんとともに取り組みました。

その際にはアーティスト、動画クリエイター、WEBライター、PR会社の方など鳥取にいてもオンラインで仕事をできる方をはじめ、マッサージの施術師など鳥取でお仕事を展開したいと思っている方も滞在をされました。ほとんどの方々が、都会の生活とは違う鳥取の環境を求めて、滞在している印象です。

滞在費を低めに設定するなど、中長期的な滞在がしやすいように環境整備しているという背景もあると思います。ただ受け入れにあたっては、地域の方々の交流や地域の活動に取り組んでいただくことを条件にしています。

地域住民と関わる中で参加者のみなさんにも鹿野町から刺激を受けて欲しいと思ったからです。」

向井さんは、県外の方々と地域住民が関わり合うことで双方にメリットが生じると語ります。

向井:「お互いに交流することで、双方メリットがあると思っています。

以前、地域住民の方々とお話したとき、『県外の方と交流することで刺激がもらえる。その結果あの人と関わってみたい、これに挑戦してみたいと思える。』という声をいただきました。

同じ考えをもった人々だけの集まりだと、関わりが深まっても、できることがどうしても限られてくると思います。

様々な人と関わり、それぞれの考えや得意なことを知るおかげで、地域の方々も刺激を受けている印象です。

一方で、ある大学の先生からは、『鹿野町が大学生にとってサードプレイスになっている。』と言われました。

サードプレイスとは、自宅、学校・職場とは違った第三の場所。つまり自分が居心地がいいと思える場所、そんな場所に鹿野町がなっている。

実際に鹿野町に滞在した大学生は、本人の人生にプラスになった場所、また行きたい場所として鹿野町をあげてくれるようです。

私自身も県外から鹿野町にやってきて、鹿野町の方々の懐の深さを実感します。多分鹿野町は、人の可能性が広がる場所だと思っています。

「挑戦する人がいれば応援したい」という土壌が鹿野町というまち全体にできているのかなと思います。イメージとしては、”お金のないシリコンバレー”でしょうか(笑)

やりたいという思いさえあれば、地域の人々がサポートしてくれる場所が鹿野町であり、地域の人たちは挑戦者たちから刺激を得られる。これこそが、鹿野町の文化かなと思います。」


20年の歳月をかけて、地域内外の方々から寄せられるまちの困りごとを解決してきた「いんしゅう鹿野まちづくり協議会」。積み重ねてきた「自分たちのまちを良くしたい」という思いが、”挑戦できる環境”をつくっています。

鳥取市鹿野町のような、挑戦する人を応援してくれる環境であなたの夢を追いかけるのもいいかもしれません。

NPO法人いんしゅう鹿野まちづくり協議会(いんしゅうしかのまちづくりきょうぎかい)                                                                   鳥取県東部の鳥取市鹿野町にある特定非営利活動法人。「私たちは、先人が歩んできた歴史を深く認識し、生きる活力を後世に繁栄するため、すべての立場の住民が一体となって住んで誇りに思えるまちづくり、心が通う人づくりの振興を行う」を会則として事業を展開し、鳥取市鹿野町を拠点に地域づくりに取り組んでいる。2006年に国土交通省「手づくり郷土賞 地域活動部門」受賞をはじめ、2007年「地方自治法施工六十周年記念式典にて総務大臣表彰」、2008年「国土交通省都市景観大賞「美しいまちなみ優秀賞」受賞」など。

いんしゅう鹿野まちづくり協議会 https://www.shikano.org/

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