見出し画像

週刊 表の雑記帳 第一七頁_チャイナの海軍力が海上自衛隊を圧倒している説_その二

 今週の目についた報道はtwitter参照。

数字の上では海上自衛隊の完敗

 さて、今回は以前の記事で紹介した米国のCSBA(Center for Strategic and Budgetary Assessments:戦略予算評価センター)のToshi Yoshihara氏による報告書、その第2章について要点を抽出する。海軍力の比較は数字だけでするものではないだろうが、少なくとも数字の上では我が海上自衛隊は完敗しているというのが厳然たる事実のようだ。

 2章の要点は以下の通り。

経済の発展に伴い軍事費も爆増

・2010年に、チャイナは四十年以上その地位にいた日本を抜き世界第二位の経済大国となった。購買力平価の観点ではチャイナが日本を抜いたのはもっと早く、1999年のことだった(Figure 1参照)。この経済的地位の入れ替わりは、日中の軍事バランスを根本的に歪めた。30年前、日本の防衛予算はチャイナのそれの二倍近くであった。以来、日本のそれは横這いが続く一方、チャイナのそれは急騰した(Figures 2a and 2b)。

画像5

画像6

・一説では、2015年から2030年の間にチャイナ海軍の水上艦隊は331から432へ、潜水艦は66から99へと急増する。又、別の研究では、2030年までに人民解放軍の最新鋭の艦隊戦力は巡洋艦が16から20へ、駆逐艦が36から40へ、フリゲートが40から50へ、強襲揚陸艦が最低10へ、航空母艦が最低4へ増加すると予想されている。そして更に10年で原子力潜水艦が最低16、弾道ミサイル潜水艦が最低8、水中戦力として加わるとみている。それに対して海上自衛隊の戦力は2019年時点で、軽ヘリ空母が4、巡洋艦が2、駆逐艦が34、フリゲートが11、強襲揚陸艦が3、高速戦闘艇が6、従来型の潜水艦が21であり、2030年にこれらが大幅に増強されていることはないと見られている。

・重要なことに、人民解放軍の艦数が60%以上減少する中でトン数は急激に伸びており、戦闘員あたりの平均トン数が大幅に増強され、より大きな能力向上が達成された。実際、チャイナの水上戦闘員あたりの平均トン数は1990年から2019年にかけてほぼ7倍に膨れ上がっている。

・艦隊の力の代替指標となる火力は、海上戦闘艦に搭載できるミサイルの数と種類によって推察できる。現代の軍艦は、船体に構築した垂直発射システム(VLS: vertical launch system)でミサイルを保持・発射する。VLSは対空、対艦、対地ミサイルを収容できるセル(室)のグリッドから構成される。従って、表出しているVLSセルの合計数が敵艦隊に対して解放される潜在的な攻撃及び防御火力として解釈される。1990年代を通じて、人民解放軍はVLSを搭載した軍艦を一隻も有していなかった。2000年代初頭にVLSが艦隊に導入されたことを皮切りに、垂直発射セルは爆発的に増加した。2005年から2020年までの15年のうちに、VLSセルの数は128から2,000へと15倍近くに爆増した。

・2020年時点で、人民解放軍は海上自衛隊の2.5倍の主要水上戦闘艦を有している(Figures 5a及び5b)。

画像1

画像2

・人民解放軍のVLSセルの増加率は2010年代初頭に加速し、2017年までには海上自衛隊のそれを追い越した(Figure 6)。2019年には人民解放軍は海上自衛隊より60%多く、2020年にはその数字が75%になり、僅か一年で大きく水をあけていることが分かる。

画像3

ミサイル射程も人民解放軍が海上自衛隊を圧倒

・同様に心配なのは、人民解放軍のミサイルは日本のそれよりも射程が長いことだ。特に、超音速YJ-18対艦巡航ミサイルは290海里の射程を誇っていると伝えられる。日本でこれと比較可能な武器は、亜音速の、40年前のハープーン対艦ミサイルと同じく亜音速の、30年前の90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)しかなく、それぞれ射程は70海里と80海里であると伝えられている(Figure 7)。この射程の非対称性は、海上自衛隊の射程外から人民解放軍が対艦巡航ミサイルの雨を降らせることを可能にする。

画像4

最後に、人的資源の不足は、日本の艦隊を拡張する能力に構造的な制約を課している。

・日本がヘリコプターを搭載するひゅうが級やいずも級の大型艦を建造するにつれ、慢性的な人員不足のため人員配置に苦労してきた。更に悪いことに、日本の長期的な人口減少は自衛隊員に適した年齢層を劇的に縮小させている。

抜本的な戦略の見直しが急務

・海軍力の多くの指標において、日本は既にチャイナに取って代わられつつある。数字だけでは海軍力のバランスを完全には説明できないが、これまで見てきた数字は、チャイナの全体的な国力が、日本がかつて誇った海軍力にどのように変換されてきたかを物語っている。

・チャイナの勃興と日本の相対的な衰退はアジアの安全保障環境を大きく変えかねない。日本が独力ではチャイナに抗しきれないと感じ始め、更に米国のこの地域における軍事的プレゼンスの減退をみるとき、ありえないと考えられていた日本独自の核による抑止力の保持も視野に入ってきかねない。

・チャイナの海軍力の台頭、地域の海軍力のバランスが北京寄りに傾いてきたこと、これらは米国主導の自由主義の構築と第二次大戦以降米国がアジアで主導してきた長い平和への根本的な挑戦を意味する。北京が日本に対する自分の立場をどのように評価しているかを理解することは、これまで体系的かつ厳密に行われてこなかった喫緊の分析課題である。本報告はこの分析ギャップを埋めることを目指している。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?