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号外 表の雑記帳 第二頁_アビガンを脱ランダム化比較試験至上主義の契機とすべき

 さて、五月中のアビガン承認はやはりないようだ。

アビガンの五月中の承認を見送り

 以前のnoteでアビガンの戦略変更について提案したが(こちら)、やはり五月中の承認は断念したとの報道があった(こちら)。この時点では薬事審査に堪え得る有効性のデータを示せず、申請を見送ったということだろう。申請がなければ審査も承認もない。富士フイルム富山化学が実施中の治験結果は六月末頃に出てくるという話であったから、素直に考えればそれまで待って申請するということになるだろうが、ここはやはり機会を最大限活かし、別の方法での承認を模索していただきたい。

本当に有効性を議論するデータがないのか

 医薬品の薬事申請においては、患者背景等を揃えて、効果を見たい薬剤を使う群と使わない群とを比較するランダム化比較試験というデザインの治験データを利用するのが王道である。この方法が最もデータの説得力が高いと言われている。これまでアビガンで治療を施された患者がいて、その周囲からの証言で「アビガンが効く」と言われてはいるものの、今回データ不十分で五月中の承認が叶わなかったのは、まさにこのランダム化比較試験で有効性を文句なしに示したデータが現時点でないからである。しかし第二波が来ることがほぼ確実であり、有効な治療薬が世界で求められている中で、平時と同じような審査をすることが果たして適当だろうか。当然ながら科学を蔑ろにすることは許されない。それはこれまでの業界の歩みを否定するものだ。しかし科学的妥当性を担保しながらいつもより思い切った審査をすることはできるはずだ。リスクは賢くとるべきだ。

アビガンvsアルビドールの試験

 ランダム化比較試験でプラセボ(アビガンを使用しない群)との直接比較をしなくても、間接的に有効性を述べることは可能だ。例えば、まだ査読前の前刷りではあるが、アビガンと別の抗ウイルス薬アルビドールとを比較したランダム化比較試験がある(こちら)。主要評価項目として投与7日目の回復率を比べたところ、アビガンとアルビドールとで有意差はみられなかったが、発熱と咳が改善するまでの期間はアビガンの方が有意に短かったとの結果が得られている。しかもその後の情報として、事後解析にて中等症の患者ではアビガンの7日目の回復率が有意に良好だったとのこと(こちらのp.13-14)。中等症の患者と重症の患者をあわせると差が見えないが、中等症の患者だけ比べれば差が見える。つまり以前のnoteでも書いたように、やはりアビガンは感染初期から服用することが適している薬の可能性がある。

藤田医科大学の観察研究

 更に、藤田医科大学が中心となって実施している観察研究の中間報告(こちら)では、これまでに本研究に登録されている2158名の患者のデータが公開されている。アビガンを投与した患者の臨床経過をまとめた表は以下の通り。

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 ここでいう軽症とは酸素投与を必要としていなかった患者、中等症とは自発呼吸ではあるが酸素投与を必要としていた患者、重症とは人工呼吸やECMOを必要としていた患者である。この表を見る限り、アビガンを投与された軽症及び中等症の患者の多くは症状が改善している。右上の表が分かりやすいが、アビガンの投与を開始して14日後に、軽症の患者のうち87.8%、中等症の患者のうち84.5%が改善している。そして重要なこととして、有害事象(副作用)としては以前から知られていたもの以外に新しいものは確認されていない。

 この観察研究はあくまでアビガンを投与した患者のデータを集めたものなので、アビガンを投与しなかったとしたらどうなっていたかを比べることはできない(本来はそれができると承認に大きく近づくデータとなる)。もしかしたら、アビガンを投与していなくても、これらの患者のうち8割以上の人が同様に14日後までに改善していたかもしれない。

 それを間接的に確認する方法がある。アビガンを投与しなかった武漢ウイルス感染者の観察データを同様に集積し、バイアスを可能な限り排除するようにこの藤田医科大学の観察研究と患者背景等を揃える形で調整し、科学的な妥当性を担保した上で間接比較するのだ。ランダム化比較試験よりは弱いが、アビガンの有用性について十分議論できる質のデータは得られるのではないかと考える。こうした間接比較研究や、上述のアビガンvsアルビドールの比較試験や、来月結果が出てくるような富士フイルム富山化学の治験のデータ等を色々と総合的に検討することで、条件付きでも構わないから承認し国内体制を整備することが肝要だろう。

あらゆるデータを総合的に判断し、ランダム化比較試験至上主義からの脱却を

 結局レムデシビルも、回復までの期間の中央値がプラセボ群と比較して有意に短縮された(レムデシビル群では11日、プラセボ群では15日)ということで米国で緊急使用が認められ、我が国でも特例承認となっている。これと同等かそれ以上の質でアビガンの有用性を議論することは、上記の様々なデータを総合的に検討することで達成可能と思われる。

 厚生労働省はこれをランダム化比較試験至上主義から脱却する契機としていただきたい。

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