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投げる動物

ミカンをひと房ポォーンと上に投げて、落ちてきたところをお口でパクッ
「やめさない!」 by 妻。
   ・・・ ちゃんとキャッチしたのにぃ 。。。
食べ終わったミカンの皮をフワッと投げて、ゴミ箱にストン
「いいかげんにしなさい!」 by 妻。
   ・・・ しっかりゴミ箱に入ったのにぃ 。。。
「もー、子供みたいなことして ・・・ ってゆーか今どき、子供だってそんなお行儀の悪いことしないわよ!」 妻に怒られました。
そのとき、ハタと気がつきました。「そっか、今どきの子供はこれをやらないからダメなんだ」

 ミカンを上に投げるときの柔らかさ、微妙な力加減。ミカンが手を離れる感触に合わせて、すばやく動く頭。これらがうまく連動しないと、ミカンをキャッチできない。
 ミカンの皮をゴミ箱に投げ入れるときは、方向よりも力加減がポイントだ。ゴミ箱に入れるのはあんがい難しい。放物線の軌道がゴミ箱のすぐ上を通過し、その位置で速度が大きく引力方向に向いていることが条件である。
 子供をスポーツ・クラブに入れても、スクールに通わせても、この柔らかさ、微妙な力加減は身につかない。それは日常生活の中で、あるいは遊びの中でこそ身につくものだ。

 さて、他の動物と比べて、人間に特に秀でた能力はなんだろうか。
 たとえば陸上競技の種目は、走る・跳ぶ・投げるの3種類に分けられる。走るのは100m走からマラソンまで距離は様々で、跳ぶのは走幅跳・三段跳・走高跳・棒高跳があり、投げるのは砲丸投・円盤投・やり投・ハンマー投がある。
 このうち走る競技については、前の記事に書いたように「人間ほど走るのが遅い動物はいない」わけで、跳ぶ競技にしても、人間が他の動物に比べてジャンプ力があるようには思えない。ネコもカエルも、大きさ比でいえば人間よりよっぽど高く遠くへ跳ぶ。トビウオやモモンガにいたっては、なおさらだ。走ることと跳ぶことについては、人間は動物の中で最低レベルと言えるだろう。
 では、人間ならではの運動能力とはなんだろうか。そう考えたときに思い至るのは、投げることだ。よくよく考えてみると、物を投げることのできる動物は、実は人間だけなのだ。
 ところで、物を投げられると「何が良い」のかというと、要するに強い。物を投げずに戦うなら直接体をぶつけるしかないが、物を投げられるなら離れたところから攻撃できる。クマやマンモスなど取っ組み合ったら絶対に勝ち目のない相手でも、石を投げたり、やりを投げたりすれば勝ち目が出てくる。逆に言えば、ゴリラが石を握っていても、オオカミがやりをくわえていても、遠くにいるなら別に怖くない。
 物を投げるということは、一種の遠隔操作みたいなものだ。物を投げられれば、接触プレーを避けられる。その発展形が、ピストルでありミサイルである。
 速く走ることが人間らしさではない。高く遠くに跳ぶことも 人間ならではのことではない。むしろ投げることが、人間の証しなのである。陸上競技の種目でなくても、野球でもダーツでもいいのだが、遠くに正確に投げることが人間ならではの能力と言えるだろう。

 ミカンを一房ポォーンと上に放り上げて、お口でパクッ。食べ終わったミカンの皮をヒュッーと投げて、ゴミ箱にストン。こんなことができるのも人間だけなのだ。
 だから、妻のように「行儀が悪いから、やめなさい!」と言うのは間違っている、たぶん。むしろ子供にこれを奨励し、ときには大人がやって見せることが必要なのではないだろうか。

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