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なぜ人間は走るのが遅いのか?

 人間は実は走るのがとても遅いのです。ウサイン・ボルトだってチワワに勝てないんですよ。もちろんスズメにもサンマにも負けます。大きさ比でいったら、間違いなくハエよりアリより遅いでしょう。まず、その訳を解明します。
 では、人間が得意なスポーツは何なのでしょう。人間ならではの動きとはどんなものなのでしょう。そう考えたときに思い至るのは、投げることです。それこそが、人間と他の動物との最も大きな違いなのではないでしょうか。

なぜ人間は走るのが遅いのか

 子猫だって子犬だって、人間よりずっと速く走る。あんなにちっちゃいヤツに、人間は勝てないのだ。嘘だと思うなら、試しに追いかけてみればいい。絶対に追いつかないから。
 人間様はな、スズメよりサンマより遅いんだぞ。身長比でいったら、間違いなくハエよりアリより遅い。さて、なぜ人間はこんなにも遅いのか、それが今日のテーマである。
 動物であれ乗り物であれ、人間以外のものは、頭の方向に進む。犬は頭を前にしてその方向に進む。スズメもサンマも、ハエもアリも同じである。科学的に言えば、そういうことだ。
 そのことは「体の長い方向に、あるいは尖った方向に進む」と言い換えてもよい。槍や弓矢はもちろん、ロケットや船など乗り物もすべて長軸方向に進むのだ。それが動く物体の道理である。

走る

 人間だけである。「頭の方向=長軸方向」から角度にして 90 度ずれた方向に進むのは。人間は直立歩行をするようになり、手を移動以外の目的で使うようになり、頭の方向に進めなくなってしまった。そして、スピードを失った。これは運動力学的には当然の帰結であろう。
 ところで、カニはなぜ横に歩くのか? 理由はもう明らかだろう。横方向が最も長いからだ。ペンギンは陸ではよちよち歩くが、水に入った途端にスピードが上がる。その理由は簡単。頭の方向に進むからだ。氷の上を腹ばいになってツルンと滑りながら移動するときも同じである。カニもペンギンも、長い方向あるいは頭の方向に向けて進めば、人間よりよっぽど速い。
 もちろん人間だって、頭の方向に進めば速いに違いないのである。ところが、人間にはそれが出来ない。手が、移動手段として使い物にならないからである。そして、あろうことか、高さ・幅・奥行のうち、最も短い方向に進もうとする。だから、人間は走るのが遅いのである。

 さて、人間は自転車を発明した。自転車は野生の動きそのままに、長軸方向に進む。自転車のおかげで人間は、自分の体の大きさと自分の筋力に見合うスピードを回復した。
 自転車の良さは、野性味にある。自転車に乗って、体を前傾してスピードを出すと、ライオンになったような気分になる。

競馬と陸上競技の違い

 僕は、競馬が好きだ。「馬って速いなぁ、カッコいいなぁ」、そんなことを想いながら、テレビで競馬中継を見ている。お金は賭けない。僕は職業柄すぐに期待値計算をしてしまうから、そうなると絶対に馬券は買えない。馬券は買わないけれど、馬が走っているのを見るのが好きなのだ。「ウチの陸上部の部員もこうやって走ればきっと速い のに」、そんなことを想いながら見ている。
 そして見ながら、僕は競馬と陸上競技の違いを発見した。違いといえば「人が乗ってる、乗ってない」とか「お金を賭けてる、賭けてない」の違いもあるが、そんなことではない。走っている馬と人とに、もっと決定的な違いがあるのである。
 それは何かというと、馬はスタート地点で「これから何メートル走らされるのか」、走っている途中で「あと何メートル走ればいいのか」を知らないということだ。
 人は当然知っている。「自分が何メートル競走に出るのか」、「あと何メートルでゴールなのか」ということを。だから人はペース配分を考え、ゴール手前ではラストスパートをかけ、力を出し尽くしてゴールする。
 けれども馬は何も知らずに、何も考えずに走っているのだ。だから馬は力を出し切ってゴールすることもないし、倒れ込むようにゴールすることもない。だからこそ人が乗って馬を操るのだろうが、馬は疲れたり、嫌になったりしたら、きっと走るのを止めるのだろう。
 どうりで馬は、顔色一つ変えず、涼しい顔で走っている。人のようにぜいぜいはぁはぁしたりもしないのだろう。一着の馬もビリの馬も気持ちよさそうに走っている。一方、人はみんながみんな全力を出し尽くす。顔をゆがめ、息を切らし、へとへとになってゴールする。
 競馬の馬と陸上競技のランナーはこんなにも違うのである。そしてその違いは、自分が走る距離を知っているか知らないかに由来する。さて、バカなのは、馬だろうか、人だろうか。

自転車には野生の香り

自転車には野生の香りがある、ふとそう思った。
人間は移動スピードが非常に遅い。おそらく大きさ比でみると、哺乳類の中で最も遅いのではなかろうか。

動物であれ乗り物であれ、人間以外のものは、頭の方向に進む。
犬は頭を前にしてその方向に、ペンギンだって水の中では頭の方向に進む。人間より圧倒的に速いスピードで。
そのことは「体の長い方向に、あるいは尖った方向に進む」と言い換えてもよい。
槍や弓矢はもちろん、飛行機や船など乗り物もすべて長軸方向に進むのだ。

人間だけである。「頭の方向=長軸方向」から角度にして 90°ずれた方向に進むのは。
人間は二足歩行をするようになり、手を移動以外の目的で使うようになり、長軸方向に進めなくなってしまった。
そしてスピードを失った。 これは力学的には当然の帰結であろう。

しかし人間は自転車を発明した。自転車は野生の動きそのままに、長軸方向に進む。
自転車のおかげで人間は、自分の体の大きさと自分の筋力に見合うスピードを回復した。
自転車の良さは、野性味にある。
自転車に乗って、体を前傾してスピードを出すと、ライオンになったような気分になる。

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