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ポツダム宣言を要約する

 ポツダム宣言といえば超一流の歴史的資料です。みなさんは当然知っていると思いますが、読んだことはありますか。意外と面白いですよ。ネットで検索すれば、簡単に読めます。
 ポツダム宣言は条文にして13条あって、日本語版英語版 もそれぞれ全文でちょうどA4用紙1枚に収まるくらいの分量です。日本語版の原文はちょっと古めの日本語で、漢字とカタカナだけで書かれていて、句読点もなくて読みにくいのですが、決して古文というわけではないし、古文を勉強している高校生が読めないわけもありません。一方、英語版は現代英語とほとんど同じなので、英語を勉強中の高校生には英語版の方が読みやすいかもしれません。いずれにしても日本語版も英語版も要は同じことが書いてあるわけですから、どっちを読んでも同じです。
 ここで、第5条の書き出しの部分だけ紹介しましょう。

五、 吾等ノ条件ハ左ノ如シ
5.  Following are our terms.

 日本語版の「吾等」、英語版の「our」は「連合国」のことです。もちろん日本に向けてのものです。また、日本語版の「左」というのは、縦書きの文書で「左」ということですから、「それに続く部分」ということです。英語版でいうところの「Following」も同じです。この場合は、第6条から第13条までの条文を指します。
 さて、日本語版にある「条件」に注目してください。つまり、ポツダム宣言は第6条から第13条までの間に「戦争終結のための条件」が書かれているのです。文面通り読めば、そういうことになります。

 そこで、情報科の授業でこんな課題をやらせています。まずポツダム宣言の 日本語版 と 英語版 をA4用紙の片面ずつに印刷したものを配布して、次のことを生徒たちにワープロで打たせます。

(1) まずは「要約する」練習です。
 配布した資料はポツダム宣言の条文(日本語版および英語版)です。各条文(1条~13条)をそれぞれ 1行で わかりやすく要約してください。ただし全体を通して、ポツダム宣言の内容がよくわかるように要約すること。

(2) 次に「説明する」練習です。
 ポツダム宣言を受諾することは「無条件降伏」にあたると思いますか、それとも「条件付き降伏」にあたると思いますか。どちらかの立場に立って、その考えを 3行で 説明してください。
 ただし、次のように書くこと。
  1行目:どちらの立場に立つかを明確にする。
  2行目:そのように考える理由を1つあげる。
  3行目:反対の意見を想定して、それを批判する。
 どちらの立場に立ってもよいですが、全体としてまとまりのある文章を書くこと。

 俗に「日本はポツダム宣言を受諾して、無条件降伏した」と言われていますが、ポツダム宣言を読む限り「条件付き降伏」のようにも受け取れるわけです。
 念のため申しますが、私には政治的野心も思想的野心も何もありません。単純に、各条文をそれぞれ1行で要約すること、それをもとに考え方をシンプルに示すこと、その練習をさせたいということです。
 「無条件降伏と条件付き降伏のどちらが正しいか」を考えさせる意図もありません。ただ「どちらの受け取り方もできる」ということを知ってほしいのです。
 これまでの学校教育では「正しいか、間違いか」あるいは「どちらが正しいか」を判定するような機会が多かった。でも大事なのはそこじゃない。その前に「いろんな見方ができる」ことを知ることの方が大事なのです。その一例として、ポツダム宣言の原文に一度は当たってみるのも面白い。
 ところでこの課題、(1) でうまく要点を抑えないと、(2) を書けませんよ。(1) , (2) の文章例は以下をご覧ください。

◇      ◇      ◇

 ポツダム宣言(日本語版)は全文で1200字ほど、A4用紙1枚に収まる分量です。(英語版も同様にA4用紙1枚に収まる分量です)
 ですが日本語の原文は、漢字とカタカナだけで書かれていて、句読点もなくて読みにくい。そこで、ポツダム宣言の各条文を、思い切りシンプルに要約してみました。

1条  アメリカ・イギリス・中国が話し合って、日本に戦争終結の機会を与えることにした。
2条  米英中3ヶ国は、日本に対してさらなる攻撃を加える準備を整えた。
3条  このまま戦争を続ければ、日本軍と日本国土は完全に破壊されるだろう。
4条  今が日本が決断するべき時である。軍国主義者に従うのか、それとも理性に従うのかを。
5条  我々の条件は、以下の通りである。他のものではその代わりにならない。
6条  日本国民をだまし、世界征服の挙に出るという過ちを犯した者の権力を除去する。
7条  日本に新秩序が生まれ、戦争遂行能力がなくなるまで、日本の一部を占領する。
8条  日本の領土を本州・北海道・九州・四国、ならびに我々が決定する一部の島とする。
9条  日本政府は、日本軍の兵隊に、家に帰って平和的に生産活動を営む機会を与えよ。
10条 日本政府は、日本国民の言論・宗教・思想の自由ならびに基本的人権を尊重せよ。
11条 賠償責任を果たすために、経済を立て直してよいが、再軍備につながる産業は認めない。
12条 それらの目的が達成され、平和的な政府が樹立されれば、占領軍は直ちに撤収する。
13条 日本軍の無条件降伏と、政府が上記に誠意を持って対応することを、我々は要求する。

 1条~4条は、いわば3ヶ国の心意気をうたったものといえます。第5条以下(6条~13条)で、降伏の条件を具体的に述べています。そこには、特に降伏の条件には、ずいぶんまともなことが書かれていると私は思いました。
 さて問題は、このポツダム宣言を受諾することが「無条件降伏」といえるのかどうかです。
 第5条を原文のまま書くと、次のようになります。

(日本語)
  五、吾等ノ条件ハ左ノ如シ
    吾等ハ右条件ヨリ離脱スルコトナカルヘシ右ニ代ル条件存在セス
    吾等ハ遅延ヲ認ムルヲ得ス
(英語)
   5.  Following are our terms. We will not deviate from them.
     There are no alternatives. We shall brook no delay.

 俗に「日本はポツダム宣言を受諾して、無条件降伏した」と言われていますが、ポツダム宣言を読む限り「条件付き降伏」のようにも受け取れるわけです。
 どちらの見方もできるでしょう。そこで上に書いた書式 (2) に則って、2つの立場から考え方を説明してみました。

《例1》
(1行目) 私は、ポツダム宣言を受諾することは、条件付降伏にあたると思う。
(2行目) ポツダム宣言の文章では、第6条~第13乗に降伏のための条件が具体的に書いてある。
(3行目) 13条の無条件降伏という記述は、軍隊に対してであって、国家に対するものではない。

《例2》
(1行目) 私は、ポツダム宣言を受諾することは、無条件降伏にあたると思う。
(2行目) 一方的に条件(要求)を突きつけてられていて、交渉の余地がない。
(3行目) 文中に「条件」と書かれているが、これは連合国側の「要求」に他ならない。

 こうしてたまには真面目に読んでみるのも面白いですね。

◇      ◇      ◇

1行作文
▷ 問題と解決をセットで挙げる + 問題解決とは?
▷ コンビニって便利だよね           
▷ ポツダム宣言を要約する           

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