見出し画像

海幸彦・山幸彦はどちらが浦島太郎か

 古事記の中の「海彦・山彦」の物語は、次の通りである。

 海彦(海幸彦)は海辺に住み、魚を獲って暮らしている(漁師)。山彦(山幸彦)は山に住み、獣を獲って暮らしている(猟師)。
 ある日二人は互いの道具を取り替えて、海彦は山で猟を、山彦は海で漁をした。ところが山彦は魚に釣針を取られ、失くしてしまう。まぁよくある話だ。
 海彦は怒る。山彦は新しい釣針千本で許しを請うが、海彦は許さない。何が何でも元の釣針を返せ、と言い張る。海彦の理不尽な要求に応えようと、山彦は海の中まで探しに行く。このクレーマーとお人好しのやり取りは、現代日本にもよくある光景である。
 山彦は竜宮城(綿津見神の宮わたつみのみや)に着いて、乙姫(豊玉姫)と結婚し、楽しく暮らして、3年後に失くした釣針と土産にもらった魔法の道具を持って元の場所に帰る。山彦は釣針を海彦に返し、ついでに魔法の道具で海彦をやっつけた。・・・そういう話。

 この話は、昔話「浦島太郎」にちょっと似ている。けれども、だいぶ違う。浦島太郎も山彦も竜宮城に行ったが、職業が違う。浦島太郎は漁師で、山彦は猟師。漁師の海彦は竜宮城には行っていない。
 乙姫(豊玉姫)にもらった土産(玉手箱)の役割もだいぶ違う。というより、むしろ真逆だ。浦島太郎はそれによっておじいさんになってしまったが、山彦はそれを使って海彦をやっつけた。浦島太郎にとってはろくなものではなかったが、山彦にとっては素晴らしい武器だった。

 いや、女が手渡したものを武器と考え、その武器が誰を標的にしたものかという目線で見ると、それぞれの物語の本質が見えてくる。
 乙姫が手渡した玉手箱が攻撃する相手は、竜宮城にやってきた浦島太郎その人だった。
 一方、豊玉姫が手渡した土産が攻撃する相手は、綿津見神の宮にやってきた山彦ではなくて、山彦に嫌がらせする海彦だった。
 そうすると、次のような解釈が見えてくる。

 海彦・山彦の話は大和政権のプロパガンダだ。

 薩摩隼人はやとや沖ノ島など海の権力の象徴が海彦で、日向から大和に至る陸の権力の象徴が山彦だ。
 の連中は嫌な奴らで、正義にある。だから、陸の政権が海の政権を打ち破った。その結果、権力が隼人・沖ノ島あたりから日向・大和あたりに移ったのさ、ふふっ。

 浦島伝説にかこつけて、暗にそういうことが言いたかったんだろうなぁと私は思うのだ。
※ 「因幡のしろうさぎ」にも同じテーマが隠されている。
 └→ 「因幡のしろうさぎは何色か

 一方の浦島太郎の話は、不倫話と受け取るとしっくりくる。

 男女が出会うきっかけは、カメを助けることでも、何でもいいんです。二人は恋に落ち、一緒に暮らし始めます。そして、幸せな日々を送りました。それはもう、時が過ぎるのを忘れるほどに楽しい毎日でした。
 けれどもやがて、冷めたのか、飽きたのか、反省したのか、男は不倫生活に終止符を打つことにしました。しかし女としては、男をただ帰すわけにはいかない。女は恨み辛みを詰め込んで、男に最後の贈り物をします。
 結局、男は元の鞘に収まることはできませんでした。家族はもちろん、男は村人からも相手にされませんでした。すべてを失った男は、女を思い出し、贈り物を開けました。途端に男は、老いぼれた醜い姿に変わってしまいました。これでもう男は、本当に誰からも相手にされなくなるでしょう。こうして女の仕返しは、まんまと成功したのです。
 シャンシャン。

海彦と山彦の母親は木花咲耶姫(このはなさくやひめ)。左:@西都原古墳群、右:@青島。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?