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粘土くさい鶏肉について


突然ですが、鶏肉って粘土くさいことありませんか。

それに気づいたのは僕が高校生のころ。かれこれ15年以上前にさかのぼります。

学生時代はラグビー部に所属していたので、筋肉を作るために高タンパクの鶏肉を好んでよく食べていました。しかし、あるとき急に、鶏肉が「粘土くさく」感じるようになってしまったのです。

この粘土くさい鶏肉、ご理解いただける方いらっしゃるでしょうか。

すべての鶏肉が当てはまるわけではありません。個人的な感覚では、およそ2割程度の確率で、飲み込むことはおろか、舌が痺れて、それ以上口の中に含んでいるのが堪えられず吐き出してしまうほど「粘土くさい」鶏肉がこの世にひそんでいて、油断している僕を襲います。

粘土くさい鶏肉の発見は、高校生活の中でかなり衝撃的な出来事でした。あまりにも衝撃的すぎて、高校の卒業文集は粘土くさい鶏肉について書いたほどです。同級生たちが両親や先生、親友たちに感謝の言葉をポエティックにつづる中、僕は粘土くさい鶏肉について書きました。「おんなじような文章ばかりじゃ読んでる人も面白くないだろう。ここはひとつ、警鐘を鳴らす意味でもオレは粘土くさい鶏肉についての考察を書いてやろうじゃないか」と筆をとりました。あのころ僕は尖っていました。

物置に眠っていた卒業文集を引っぱり出してきたところ、やはり粘土くさい鶏肉について書いてあります。

文章のタイトルは『俺の話を聞け!』。どうにも強気です。

当時の自分に顔を赤らめながら読み返してみたところ、非常に荒削りながら、よくわからない熱意は感じとることができました。

というわけで、鶏肉をくさく感じるようになった顛末を説明するために、卒業文集をありのまま書き写したいと思います。


『俺の話を聞け!』


卒業という日を迎え、親愛なる同級生、先生、学校のみなさんに言いたいことは、鶏肉は粘土くさいということです。

あれにはもうホンマにびっくりさせられました。全部がそうってわけではないんですけども。

初めて気付いたのは高一のとき、晩ご飯が水炊きだった日のことでね、鍋の中に入ってた鶏肉を食べたところ、「あれ?」と思ったんですよ。「おかしいな。粘土食べてもうたんとちゃうん?」って。

それからというもの、食卓に並ぶ鶏肉料理の中に必ずと言ってもいいくらい粘土くっさいやつが紛れ込んどるんですよ!

じゃあ食わんかったらええやんって話なんですけど、そうもいかないわけなんです。僕ね、ラグビー部だったんですよ。筋肉つけるには鶏肉!ってテレビでケイン・コスギが言うもんやから、これ食っとかなあかんのとちゃうん?って思ってたんです。それなのにこんな発見してもうたばっかりに、ホンマつらかったですわ。

僕が思うにあいつらはね、モモ肉とかムネ肉とか部分的にクサいんじゃなくて、百羽に一羽ぐらいの確率で生まれてくるんですよ!くさいやつが!人間でいうワキガみたいなやつが!

みなさん夏にバス乗ってて横の人が味噌汁くさったような異臭を放つワキガやったら気付くでしょ?でもね、ニワトリやったら誰も気付いてくれないんですよ!なんでやねん!

そこで真剣に考えてみたんです。なんで僕だけワキガ…じゃなくて、くさい鶏肉に気付くのかを。もしかして僕にはニワトリ的な何かがあるんちゃうか思ったんですよ。たとえば僕の筋肉とニワトリの筋肉の性質的なもんが同じで科学反応おこしてるんかなぁ、とかね。

まあそれは冗談として、一回どっかの大学の鶏肉に詳しい教授に聞いたろかな思ってるんです。博士、粘土くさいニワトリいますよね?って。

もしこのくさいニワトリが何か大問題になるとするでしょ。実はあの鳥インフルエンザにかかってる個体やったとか。そしたらえらい騒ぎですよ。ニュースとかにもひっぱりダコですわ。ニワトリなのに。

いつかそんなニュースがテレビで流れたら、「あいつ、やりよったな」と声に出して言ってください。それではみなさんお元気で。さようなら。

〈おまけ〉クリスマス句会、幻の一句
「新しい お母さんが プレゼント?」

(おわり)


恥ずかしすぎて、読みながら何度も天を仰ぎました。

なんでしょう。関西弁の口語調で文章を書くという行為が、ダウンタウンの松っちゃんみたいでイケてると思っていたのでしょうね。書く間際に『遺書』を読んだ気がします。

最後のおまけは、実際に国語の授業の一環で行なった句会で披露したものの、担当の教師に怒られてお蔵入りしたものです。「クリスマスに継母を紹介しようとする父に対する娘の皮肉」を見事に言い表している自信作だったのですが。

本題に戻ります。

文章の稚拙さはさておき、主張したい内容はこのとおりです。とにかく、くさい鶏肉の原因は、個体の特性であると考えます。15年以上にわたる粘土くさい鶏肉との抗争でわかったこと。それは手塩にかけて育てたであろう国産ブランド地鶏でさえ、くさいやつがいることです。

はじめは外国産の品質があまり高くない鶏肉に限るのかなと思っていたのですが、国産を謳うケ○タッキーや、地名が冠された有名な地鶏をたべるときにも出くわすことを考えると、そういうわけでもなさそうです。やはりニワトリという種が持つ特性なのか。

ただ、食料品店でよく見かける鶏肉といえばブラジル産がポピュラーですよね。出荷数が段違いに多いだろうから、ブラジリアンニワトリが割合的にいちばん多い気がします。確証はありません。

この15年間、粘土くさい鶏肉がいることを吹聴したことにより、共感してくれる人が増えました。「粘土くさい」とは表現しないものの、独特の臭みを感じていた人がそれなりにいたのです。うれしい。

この文章を読んだ方も、今後、鶏肉をたべて粘土くささを感じる日がきたら「あいつ、やりよったな」と声に出して言ってください。それではみなさんお元気で。さようなら。


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