マガジンのカバー画像

悪魔、岩、存念

13
何が違うの
運営しているクリエイター

記事一覧

人間に擬態する化け物(2019-12-14)

人間に擬態する化け物(2019-12-14)

山の頂上に小さな墓標がたっていました。
毎年午後6時半、蒸気船がうなりをあげます。
公園の灯りが消えていました。
電池の故障でしょうか?
僕達の空元気が街の光をかたどります。
やはり山の頂上では、鐘の音が響いていました。

僕がいました。
僕の名前はだれかを助けます。
僕の名前には、光、という感じが入っているみたいです。
運河に到着しました。
天頂には魔が差しています。
空気は岩のようにかたく僕に

もっとみる
夕立(2020-4-15)

夕立(2020-4-15)

 裏庭の夕景がひさびさに立っていた。僕の住む丘町には例のごとくのっぺらぼうが軒を連ねているが、何百メートルか先に見える、ピンセットで摘んで置かれたように整然と叙情されたちいさなちいさな大通りは、まるで、あらかじめ設えられた運命が世界の終わりを暗示しているかのようだ。ふざけた炎色の空から降ってくる滴が夏の夢をバラバラ壊している光景はまた耽美的で、一切の色づきに欠けた周辺の住宅街も、ダリとかデ・キリコ

もっとみる
終わりの鐘と等高線に降り積もる白石灰(2020-5-4)

終わりの鐘と等高線に降り積もる白石灰(2020-5-4)

いつかあのゴミ置き場で見たCDみたいな光の粒が
ゆがんだアスファルトの上で気化して
僕らの街に雹を降らせくれればそれでいい
僕らが寝て起きるこの街ではいつもこんなにもわからず屋たちが燃えるような愛を散乱させているけれど
大丈夫いつか冬が来て僕らの真実だけが枯れ残るから

都市(2020-5-23)

都市(2020-5-23)

揺れるひかりが鼓動するたびに、鮮血のように舞いあがる滞留する街の体温
黒々しい雑踏は流体のように回遊運動を続け、のぼせ上がった空気を外に外に吐き出そうとしている

ルービックキューブの狭間に小宇宙を拵えたたんぽぽが、ゆらゆら揺れて真っ赤な街に放たれるころには
まるで神様に並べられたかのように身を横たえるジオラマたちも眠りから醒めて、自分の美しさを知るために光を放ちはじめる

あの都市がいちばん輝く

もっとみる
灯火(2020-7-6)

灯火(2020-7-6)

7月9日の夜のことだった。あたりにちらつく、小雨というには少しばかり強すぎる雨はまだ耐えきれるくらいで、もっていた傘をささずに少し小走り気味で走る男がいる。濡れそぼったアスファルトにタイヤを擦りつけるときに生じるあの独特な、衣擦れのような音は、まだまだ静けさに覆われるには早いだろう夜の繁華街を演出するには十分すぎるほどだ。汚染された街と汚染された人々はそれでも誇りを失っていないように見える。矜恃と

もっとみる
紫(2021-5-14)

紫(2021-5-14)

不意に世界が暗転した後に残るあの綺麗な朝日の輪郭をもう一度掴みたい気がして僕は町を歩いていた。木洩れ日に町が揺れる音を体感して、光るビルの隙間の奥を慈しむ君の目が好きだった。木立は死んであとには何も残らない。紫色の匂いの不定形さを隣におけなくなったのは僕のせいだ。

星降るまではどうか手を繋いでいてくれないか。(2021-5-14)

星降るまではどうか手を繋いでいてくれないか。(2021-5-14)

手に透かして触れようとした瞬間に、風船のように、銃で撃ち抜かれた頭部のように拡散する、昼間時の光を見ていた。滅びが顔を覗かせる真昼の真白に揺れる空。星降るまではどうか手を繋いでいてくれないか。

ふざけあう川辺で突然に湧いてくる、あなたの笑顔の裏に隠れた深い深いからっぽ。真っ赤に染まった水に足をとられるその一歩前に思ったのはそういう類の光だった。星降るまではどうか手を繋いでいてくれないか。

焦点

もっとみる
へり

へり

歩いているうちに都市はだんだんその背丈を低くしていった。巨大な摩天楼、建ち並ぶ古びた団地、ケーキのように叙情された住宅たち、セイタカアワダチソウ。僕を拒絶する意味合いがだんだんと消え失せていき、緩やかに、しかし確実に僕は一人になっていく。

あとは全部なくなった山だけが続く。砂一面に少しずつ足が沈んでいく。僕は寂しさに呑み込まれないため足早に前へ向かう。

世界のへりには優しさだけが残っているらし

もっとみる
Untitled

Untitled

痛みが来るまでの間耳を塞いで待っていた
世界はまるで雲が流れるように流れ、俺は消える光の螺旋をつかむ
あの墓碑は誰のものだろうか?
誰のものでもないことを祈り俺はそっと花を手向ける

もっと深く伸びていく階段を降りると、行き止まりがあった
行き止まりを壊すと道が現れた
薄暗い一本道を、俺はだんだん降りていく より深くへ降っていく
きっと底では何もなさがあるだけで、俺はその何もなさを抱き締められるの

もっとみる
ペリドット

ペリドット

あなたのことを本当に愛していました。それだけが全部だったんです。それだけが本当に全部で、まばゆく光る何もかもがあなたの前では嘘でした。罪はだんだんと重なり続けるもの。道はだんだん狭まっていき、残像が消えていって、あとは黄緑色のペリドットとあなたのいた痕跡だけがわずかな灰となって地面に転がっています。私はいっしょに寝転がろうと腰をおろしただけなのにそれだけでもう身体の節々が痛んで、せり上がる罪悪感に

もっとみる
あれがいまでも

あれがいまでも

誰もが寝静まった夜に街頭の電源を一つずつ切っていくと俺だけが光源のようで最高の気分だった。だってまるで立たされていた俺はたくさんの怒りを背負ってこう立っているだけのように見えたから。

深く呑み込んでいくは夜のひかり。ひかりは黒く何も映しはしないが俺はたしかに迫ってくる墓標の群れを感じていた。その横でだんだんと悼む弱者たちの群れに俺も加わらなければならないのか。

周りを見渡せば何もないがもっと身

もっとみる
さようなら僕らの8月

さようなら僕らの8月

さようなら事後の沈澱した部屋の薫りへ
ゲレンデに悪夢を全部連れて行ってよ
押し花のすえた匂いはもう忘れてしまったかい
今でもくちはてない西瓜はなんだったんだろうね

さようなら椅子にはもう汗なんて染みてないけど
もう悪夢を見ることはないかい
顔が見えないからつらいのはなんでかな
ゴミ箱をいつまでも撫でていた

さようなら僕らの不安と8月のぬるい風
部屋を切り取る午後の陽の光
くちはてない追憶のかけ

もっとみる
歩い

歩い

同じモチーフばかり繰り返して全てが摩耗していく
すり切れた想い出に戻ってくるたびに、だんだんほんとうになっていくような気がしている(気がする)
馬鹿はもう失望を囲えないことに気がついた
十字路のまん中に立っている

さようならはもう言えない
賢すぎて終わりに気がつかなかった森の賢者
彼の家を囲うのは兵隊の群れ、鼠の一匹も逃げ出さぬよう張り詰めているから、逃げ出すことはもうできなかった
捨てられなか

もっとみる