VTuberがいかにスパム攻撃に弱いかという話:朝ノ姉妹プロジェクトの被害事件とその対策

今回は少し残念なニュースについてのお話です。

私も応援しているVTuber、朝ノ姉妹プロジェクトのオリジナル曲「泡沫夢幻」のMVについて、動画のurlを無関係の動画に貼って回るスパム行為が発生したとのことです。

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この結果、スパムを見た人が「なんだこれは!」と殺到し、大量の低評価がついてしまうという事態になってしまっています。現在、当該動画は一時的にメンバー限定公開となっていますが、他の動画まで悪影響が波及しているとのこと。
渾身の一作である好きなMVがこうした事件に巻き込まれたことは、1人のファンとして本当に悲しいです。
(「たかが低評価」と思われるかもしれませんが、後述の通りこれは配信者にとって致命的になりうるダメージです:事件の構図についての考察にて後述)

念のため、このスパム行為はプロジェクトとは無関係の行為であると明言されています。また私としても、朝ノ姉妹プロジェクトは今まで真摯に活動実績と信頼を積み上げてきており、このような軽挙妄動に手を出すことはありえないと、今まで活動を見てきた1人のファンとして、また1人の情報発信者として、わずかばかりの信頼を賭してでも断言したいと思います。

なおこの件に関しては、運営側がファンに対し冷静な対応を呼びかけていることもここに注記しておきます。

この事件についてはこれ以上でもこれ以下でもなく、悲しい事件ではありますが、粛々と然るべき対応をしつつ、これからも変わらずプロジェクトを応援していくしかないと思います。

が、この事件は、VTuberを始めとした動画配信者がいかに不安定な基盤の上に成り立っているかということを今一度見せつけた事件のように思います。
今回はこの事件の本質について深堀りしつつ、この件を受けて私たちに何ができるか、どうしていくべきかを考えたいと思います。


◆事件の構図についての考察

まず最初に、今一度この事件についての事象を整理してみましょう。

①何者かが該当する動画のURLを無関係の動画にコメントして回る(スパム行為)
②スパム行為に気づいた他の動画の視聴者が元動画に詰めかけ、抗議の低評価をつける
③大量の低評価がついた動画(+最悪の場合、その投稿者そのもの)が悪影響を受ける

この際、①のスパム行為が善意(マナーを弁えないファン)によって行われたか、悪意をもった者の荒らし行為であるかは、本質的には関係ありません。それは②以降の結果になんら影響しないからです。事実、この事件が腹立たしいのは、事件を引き起こした人物の関与は①の段階で終了しているという点にあります。

つまり、直接的な被害をもたらすのは②のスパムを見た「義憤に駆られた多数の第三者」であり、彼らとて強い悪意ではなく「スパムを貼るような動画には軽くお灸をすえてやる」という程度の軽い悪意(あるいは社会的正義のためという善意)のもと、低評価を押しているわけです。
こうした例として、たとえば先日YoutubeデビューしたTKOの木下さんが、先のパワハラ騒動の結果10万を超える未曾有の低評価を受けてしまった事件を覚えている方もいらっしゃるでしょう。恐ろしいのは、誰一人直接的な被害など受けていないにも関わらず、義侠心にかられた大衆が詰めかけた結果、これほど大規模な炎上事件が起こったということです。

が、こうした義侠心に駆られたユーザーの「軽いおしおき」が、どれほど当の配信者ダメージを与えるかは思ったより知られていないのが現実でしょう。

Youtubeというのは大きなシステムであり、数字で動く機械です。その一つである「低評価」も当然その中に組み込まれており、どんな理由であろうと、低評価が多数押されるということは「この動画は悪い、危険な動画だ」と判断する材料となります。
低評価によりユーザーエンゲージメントが悪化すると、おすすめ動画に出なくなる等の悪影響があることは検証の結果から確実視されています。また間接的にも、大量の低評価は当然事情を知らない人からの印象悪化に繋がります。これは動画再生数やファンの減少として、金銭的なダメージに直接つながります
またYoutubeの内部アルゴリズムは非公開かつ日々変化しており、大量の低評価により本当にどの程度の悪影響があるか、あるいはいつ深刻な悪影響が新たに生じるかは誰にも分からないのです(最悪のケースが昨今多発している配信BANや、収益化の停止といった例です。こうしたAIの判断基準に対し悪い影響こそあれ、良い影響はまず皆無でしょう)。

何より「大量の低評価」という消えない烙印が、クリエイター自身の心をどれほど傷つけるでしょうか。あなたの応援する人がそのような目に遭ったら、あなたはどう思いますか?そうまでしてその低評価ボタンを押す理由はあなたにありますか?

ちょっとした「おしおき」のつもりで押したボタンは、最悪の場合、誰かの生活や夢を壊すかもしれない…というぐらいの覚悟はしておくべきではないでしょうか。
ちょっとした扇動にのせられた結果、そうした行為の実行犯になってしまう可能性を私たちの誰もが負っています。私たちはそのことを自覚すべきだと思います。

【2020/4/15追記】
大量の低評価により広告や収益化が剥がされるなどのペナルティについて、信頼できる情報ソースが確認できなかったことから本文から情報を削除しました。
記事執筆時点で情報の裏取りをしていなかったのは私の落ち度です。お詫びいたします。


◆この攻撃は誰にでも降りかかる:そして私たちにできること

さて、ここで今回の事件で用いられたスパム行為⇒大量低評価⇒ペナルティというコンボの恐ろしいところは、この手法が誰でも、誰に対してでも悪用可能な点であることにお気づきでしょうか?
この件が善意によるものか悪意によるものかとは無関係に、悪意を持った人間が簡単に使えてしまうダメージの大きな荒らし攻撃なのです。

またこの方法はコメントを経由して大量の義侠心に駆られた第三者を扇動する関係上、犯人のアカウントが削除されたところで攻撃は止まらないのです。往々にして正しい情報は行き渡るのに時間がかかり、また安易な義侠心に駆られた人たちは「何が正しい情報なのか」を取捨選択するところにまでは興味がないことが多いからです。

では、私たちにできる対策はないのか?
根本的な対策は、Youtubeにこうした「低評価システム」を廃止することをリクエストしていくことです。事実、低評価による集団嫌がらせは"Dislike Mobs"としてYoutubeからも問題視されています。

が、当然すぐに対応が期待できるものではありませんし、そもそも私たちの意見が反映されるか?は怪しいです。VTuber、あるいはそれを含む日本語圏というのはYoutube全体からするとごく一部でしかなく、影響力もそれに比例したものでしかありません。
先日、長らく問題になっていたVTuberの収益化剥奪問題が、海外の有名Youtuberの言及があってからすぐに解決した一件は、こうした現実を思い知らせるのに十分な出来事でした。

しかし一方で、私たちにはいますぐ確実にできることがあります。

それは既に述べた「低評価の意味と重さ」を広く知らしめること。そして「おしおき」と軽い気持ちで低評価を押すような行為を慎むことです。
人間は、適切に想像力が働けば軽い気持ちで人を傷つけられるような生き物でありません。「低評価」という曖昧な言葉の中にある本当の意味を誰もが理解し、その上で必要と思えば責任を持って押す。そういう理解をきちんと共有していこうじゃありませんか。

そして、この朝ノ姉妹プロジェクトの一件を教訓として広く共有していきましょう
この事件を多くの人が知れば同じケースでの被害は防げるでしょうし、類似の手口が発見されても「もしかしたら」という想像力が被害者を守ってくれます。

このYoutubeというプラットフォームの脆弱性をついた攻撃を、私たちはウイルス対策ファイルを配布するように、世に広く拡散していくべきだと、私は思います。


◆さいごに

今回の事件で行われたスパム行為(または誤情報の拡散)⇒大量の低評価⇒金銭的ダメージというコンボ攻撃は、非常に悪質で、かつ汎用性のある攻撃手法です。
そして繰り返しになりますが、この攻撃はあなたの応援している全ての配信者に起こりうる被害です。

特に昨今の情勢下では、Youtube側の柔軟な対応は望むべくもありません。誤BANが多発していることからも分かるように、本質的にYoutubeというのは機械的で、事情を斟酌してくれないものなのです。万が一のことを考えると、低評価の扱いについてはことさら注意すべきです。これで数ヶ月収益化が剥奪されたりすれば、特に小規模な企業VTuberはあっさりと運営を終了せざるを得なくなってしまうでしょう。

私たちはこの「低評価ボタン」にそれだけの重みがあることを今一度理解し、共有し、気をつけていかなければなりません。
またこの事件をなるべく多くの人に共有し、ケースとして知ってもらうことで、この「脆弱性」に気づいた誰かの攻撃を少しでも食い止めてほしいと思います。

この記事が、まだ見ぬ誰かの悲しみを防ぐのに少しでも役に立ってくれれば、これほど嬉しいことはありません。
もし賛同いただけたら、ぜひ拡散にご協力いただけたらと思います。

またこの事件をも乗り越えて、前向きに朝ノ姉妹プロジェクトがどんどん発展してくれることを、1ファンとして心から応援しています!


この他にも、VRやVTuberに関する考察・分析記事を日々投稿しています。
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また次の記事でお会いしましょう。

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今回も長文にお付き合いいただきありがとうございました。
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