見出し画像

SNSとの付き合い方:自分を「小さく」する方法

最近、「怖いな」と思うことが時々ある。

例えば誰かが大声で人の悪口を言っている時。
例えば誰かが無知な人に強い口調で怒っている時。
例えば誰かが人の良くない行いをさらし者にしている時。

そんな人、今時中々見ないけど…と思う人も「SNSでね」と添えれば「ああ、確かに」と頷いてくれると思う。
そう。SNSではそんなことは日常茶飯事だし、それが当たり前と思っている人も多いと思う。
けど、ふと画面から一歩引いて、現実世界の一部としてSNSを見た時に、それは本当に普通のことなのだろうか。

例えばあなたは現実の世界…学校や職場のようなパブリックな場所で、人の悪口を大声で行ったり、他人の無知を強い口調で責めたり、良くないこととはいえ人の行為を晒し物にしたりするだろうか。
多分、ほとんどの人はしない。「それはまずいよね」と、心のどこかでブレーキを踏むと思う。頭で善悪や是非を考えて、というわけではなく「何となく」「直感的に」その歯止めがかかる。と思う。

でもSNSではそのブレーキを踏めない、踏まない人が多い。それが私は最近とても怖い。

では、と考えてみる。私たちが現実で無意識にブレーキを踏むのはなぜなんだろう。
現実にあって、SNSにないものとはなんだろう。


◆SNSに足りないもの

一つは「人の目」だと思う。

現実で発した言葉は(独り言でない限り)誰かに向けた、受け手がいる言葉になる。私たちはいやがおうにも、その言葉がどう受け止められ、その人が自分のことをどう思うかを意識する。自然と足は止まる。
けれどSNSは受け手の存在を必要としない。直接目にするのは投稿画面だけだ。そのメッセージが、誰にどう受け止められ、どんな反応が自分に返ってくるか。それに気づくには、ちょっとした想像力が必要になる。大抵はそこに考えが至る前に、投稿ボタンを押してしまう。

それはきっと、想像力の欠如…ではない。足りないのは想像力ではなく、想像力を「思い出す」きっかけだと思う。
現実では目の前に人の姿があることで、私たちの脳は自然と「これを言ったらどうなるか」という想像を巡らせる。おそらくそれは人間の社会的本能のなせるわざで、私たちは長年の進化の中で、集団で暮らすためにそういう機能を培ってきた。

つまり私たちの心のブレーキとは想像力であって、遡ればその源泉は、想像力のスイッチをONする本能的な直感「他人」という形あるものが目の前にいるという事実、そのものなのだと気づく。
つまりこの21世紀、無形の情報が電子の海を飛び交う現代にあっても、私たちには「目に見える形」が…物理的にそこにいる他者なくして、自分という人間ひとり抑えることができないのだと思う。情けない話だけれど。

それを現実の無用な圧力からの解放と見ることも確かにできる。
けど、その解放の結果が2022年のギスギスしたSNSというのなら、少なくともそれを「怖い」と感じる私は、もとの濁りの田沼が恋しい。


◆SNSと上手く付き合うために

ただ裏を返せば、この「ブレーキが中々踏めない環境で、いかに自分を抑えるか」というのこそ、SNSと上手く付き合うためのポイントだと思う。

結局、どうやってもSNSに「目の前の他人」は存在しない。そして本能的な想像力の働きに代わるには、私たちの理性の網目は粗すぎる。けど一方でSNSはもはや生活の一部になりすぎている。

だから私たちは今こそ理性…「考えること」ではなく、むしろより本能的なもの、心によって自分を抑える方法を学ぶべきなのではないか、と思う。

あらゆる場面で自らを完璧に律する鉄壁の理性なんて、人類にはあと1000年経っても期待できない。それよりも、長い歴史の中で私たちが培ってきた「心」にビルドインされたもので、SNSという世界で膨張しがちな自分自身を「小さく」抑えてあげるのが賢いやり方じゃないだろうか。
それはつまり、いわゆる「謙虚さ」だ。

謙虚さとは、人に対する姿勢であると同時に、ある種の想像力をもたらす。自分の「小ささ」を知ることで、相手が自分の知識や理解を超えたものかもしれない、という想像を自然と巡らせることができる。想像力を「思い出す」きっかけになる。
目に見える人の形がもたらす直感と同じ早さで、SNSで「想像力」のブレーキを踏むには、「思考」よりも早い「」こそが役に立つと思う。


ではどんな風にその「謙虚さ」を身につければよいだろう?と考えた時、この自分を「小さく」抑えるという言い回しが、案外的を得ているのかもと気づく。
先ほどの「人の目」の話で触れたように、人は物理的な形を目にすると本能が働く。心が動く。だから自分を「小さなもの」に相対化してくれるような、何か「大きなもの」に触れて、それを刺激してあげるのは一つの方法だと思う。

例えば圧倒されるような何百、何千といった人の群れ。その一人一人に違う考えがあって、それぞれの人生を生きているという現実は、私たちに言葉よりも雄弁な何かを伝えてくる。
海や山、滝のような雄大な自然の景色。この広大な世界の中で、自分という存在があまりにもちっぽけで取るに足らない存在か。そんなことを思い出させてくれる。
あるいはただ見知らぬ土地や物を見て回るだけでもいい。勝手知ったる町内でも、10分も歩いてみれば初めての出会いがたくさんある。その分「世界」は広がるし、「自分」は小さくなる。

こうした要素を全て兼ね備えているのが「旅」なのだと思うと、なるほど、あの旅をした後の、悩みや怒りが薄らいだ清々しい気持ちにも納得がいく。

また「大きなもの」に触れる機会は、物理世界以外にもあると思う。例えば読書だ。
例えば本を通して、自分とは違う色んな人の考えに触れること。触れたことのない分野の趣味や学問を新たに学んでみること。あるいは、ただ好奇心にあかせてWikipediaを乱読してみるのもいい。
自分の想像しないこと、知らないことがこれほど沢山世界にあるのだという事実は、時に雄大な山々を目にする以上に、自分の「小ささ」を思い出させてくれる。

こういう「大きなもの」は、案外と身近にあるのだけれど、茫漠だが縮退された世界であるSNSに入り浸っていると、いつの間にかそのことを忘れそうになる。
健全にSNSと付き合うには、自分の「小ささ」を思い出し、謙虚になれるSNS以外の世界が必要だと思う。


◆一人で世界に向き合う時間の大切さ

もちろん同じような「大きさ」を、他人の中に求めることもできる。話すことで自分の小ささ、至らなさを感じさせてくれるような文字通りの「大人物」と会ったことのある人もいることと思う。
けれどやはりそれは経験したいと思ってできることではないし、一方でそうした人たちと簡単に出会えるSNSでは、それが現実に輪をかけて難しい

というのも、お互いがただのIDとアイコンで対等の立場になるSNSでは、現実だったら思わず身構えてしまう「なんだか偉そうなおじさん」が、ヘンテコなユーザー名とアイコンをつけて気ままにしゃべっている。その人の形を目の前にした時の無意識の、あるいは本能的な、思わず居住まいを正すような緊張感は感じられない。ある種のリスペクトと言ってもいい。

だから現実なら思わず名前と肩書を確認してから、恐る恐る話しかけるはずの相手に、躊躇いもなくため口で素人知識をぶつけてしまう。それがいい方向に働くこともあるけれど、少なくとも自分の小ささを感じさせる経験にはならない。
これも、実際に目の前に他人がいないと想像力のスイッチが入らないという、人間のバグの一つの表れのように思える。


そもそも、自分の「小ささ」を感じる上で、それと比べる「大きさ」を他の人間に求めるのは不都合な点が多い。人は無意識に自分と他人を比べてしまうし、時に嫉妬のため、時にプライドのために心に殻を作ってしまうから
それは本能的な防衛本能だし、役に立つこともあるけれど、やはり心を開いて、自らの小ささを受け入れるには「他人」という存在は不向きに思う

だから自分を小さく戒めるのは、自然であったり、本や文章であったり、「誰でもない他者」からのメッセージこそがいい。できれば一人で、気を張らずにリラックスして、自分の小ささ、世界の大きさに向き合おう。
ひいてはそういう経験こそが、SNS上の相手に対しても自然と自らを律して向かい合い「ブレーキ」を踏める心につながるんじゃないかと思う。


最近、ある作家さんが盛んに言っている。
SNSを止めろ。外に出ろ。熱海へ行け」と。

そういうことだと思う。私たちはSNSと上手く付き合うため、SNS以外の世界に静かに向き合う時間を必要としている
さあ、いつもより少しだけ遠くまで、散歩をしに出かけよう。


--------------------------------------------------------
Twitterへのシェアはこちらから。

--------------------------------------------------------
今回もお付き合いいただきありがとうございました。
引用RT、リプライ等でのコメントも喜んでお待ちしています。

Twitter: https://twitter.com/omoi0kane
Youtube: https://www.youtube.com/channel/UCpPeO0NenRLndISjkRgRXvA
Medium:https://omoi0kane.medium.com/
Instagram: https://www.instagram.com/omoi0kane/
Facebook: https://www.facebook.com/profile.php?id=100058134300434

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?