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リンゴと梨、どちらがお好き?

最近、知財界隈ではApple社が梨のロゴを商標権侵害で訴えた!と話題になっている。

詳しく見てみたところ、Super Healthy Kids社の出願商標(Serial Number 87315348、以下梨のロゴ)に対して、Apple社が異議を申し立てていた。アメリカの異議申立ては訴訟に近いことと、分かりやすさからか、ニュースでは「商標権侵害の訴訟」という文言が際立っているが、正確には「商標登録に対する異議申立て」であって、商標権侵害の訴訟ではない。英文のニュースでは"Apple has filed a notice of opposition"(アップル社が異議を申し立てた)と記載されている。

今回はこの異議申立ての経緯とApple社の戦略について簡単にまとめてみたいと思う。

1.異議申立ての経緯

この異議申立ての経緯は以下の通り

2019/11/26 梨のロゴが異議申立てのための公告となる(※アメリカの異議申立ては公告日より30日以内)
2019/12/26 Apple社が異議申立て期限の延長(30日)を申請する
2020/01/27 Apple社が異議申立て期限の再延長(60日)を申請する(※延長できる最大の期限)
2020/03/25 Apple社が梨のロゴに対して異議申立てをする
2020/05/04 Super Healthy Kids社がApple社の異議申立てに対して回答書を提出する

このような経緯がアメリカ特許庁のTTABVUE. Trademark Trial and Appeal Board Inquiry Systemからは確認ができる。異議申立ての事実やそれに対する回答から数か月たった今になって話題になっているのはco-founderのRussell Monson氏がChange.orgで署名活動を開始したからだろう。(通常、異議申立て期限の延長がされた時点、つまり2019/12/26時点で異議申立てをされる可能性があることに気が付いているはず。)

2.Apple社の戦略

非常に興味深いのがApple社が異議申立て期限を最大まで延長していること。登録までの期間をできるだけ遅らせるための手法なのだろうか。他の異議申立てに対しても同様に期限の延長をしていた。
アメリカは異議申立て期限が公告日から30日と、諸外国に比べて比較的短いため、異議申立て書の準備のための時間を要したとも考えられるが、Apple社ほどの規模であればおそらくある程度ひな形を用意しており、いつでも異議申立てができる準備を整えているはずだ。
実際、異議申立て書は300ページを超える内容になっているが、そのほとんどがApple社の所有商標やその著名性を証明する内容になっているため、どのケースでも使えるものである。

また、Apple社がほかにどのような商標に対して異議を申し立てているのかにも着目してみた。

まず、件数で言うと2020年に入ってすでに100件を超えている。アメリカの異議申立ては訴訟に近い手続きであり、本気で戦うとなると双方数千万円の費用が発生する。たいていがApple社のような企業に異議申立てをされた時点で戦う気力も体力もなく、本格的な訴訟に発展するケースは少ないと思うが、異議申立ての延長にも異議申立てにも印紙代や代理人費用はそれなりに発生するので、よほどの体力のある企業でないとできないことだ。

異議申立てをした商標を見てみると、「Apple」「Mac」「Pod」などApple社のブランド名と類似する商標やこの文字列を含む商標に対して機械的に異議を申し立てているであろう様子が伺える。
例えば「PINEAPPLE REPORT」(Serial Number 88789816)。まだ異議申立て書は提出されていないが、梨のロゴと同様に30日の期限延長後に60日の期限延長を申請しているため、おそらくこのまま異議を申し立てられるだろうと思われる。パイナップルにはアップルが含まれてしまっているので、パイナップルを含む商標にはすべて異議を申し立てることになる。(他にも「FRANKI PINEAPPLE」に対して異議申立てをしている履歴があった)

アメリカ合衆国エネルギー省 (United States Department of Energy)の「PAGES」という商標に対して異議を申し立てている履歴もあった。国の機関にまで異議を申し立てるとは・・・Apple社のブランドを守る本気度が伺える。

3.まとめ

おそらく、ブランド保護のための厳格な規定があり、ある一定の基準を満たすものについては機械的にすべて異議を申し立てることになっているのだろう。

梨のロゴはその基準に引っかかってしまったため、異議申立ての対象となった。世間一般の人の感情的には梨への同情が集まりやすいが、Apple社の努力も並々ならぬものがあるのだ。権利の濫用という見方もあるかもしれない。実際にはApple社のリンゴのロゴはあまりにも有名であるため、梨のロゴを見てApple社の関連商品だと思う人はいないと思う。
しかし、こうした企業努力があってこそ、Apple社のブランド価値や商品に対する信用度は増していくのだと思う。

リンゴと梨は似て非なるもので、私は梨が好きですけどね。

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