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嘘をつく人: 4

 彼の実家はあるお店を営んでいたので、電話番号はすぐにわかりました。しかし、内容が内容で深夜2時半過ぎ。電話をすることを躊躇してしまいます。そんなことでしばらく考えていると、また彼から電話が来ました。

「…今、川にいるんだ。ここに飛び込んで死ぬことにしたよ…」

 なんだかうっとりするような、はっきり言ってかなり芝居がかった口調でそう言いました。例えが悪いかもしれませんが、アニメや漫画のファンの人が好きな登場人物になりきってその台詞を諳んじるような感じです。

「そう…」

 答えてからわたしは電話を切りました。もうご家族に連絡する決心がつきました。


「夜分に失礼します。○○さん(彼に名前が入る)から電話があって、様子がだいぶおかしかったのですが、家にはいますか?」

 彼の実家の番号にかけて、そう切り出しました。夜中にかけたと言うのに、すぐに彼のお父様は電話をとってくださいました。

「いないぞ…」

 電話から一旦離れたのでしょう、少し遠い声でそう聞こえてきました。何を言っているかまではわかりませんでしたが、お母様の声も聞こえてきます。

「すみません、あいつ何か言っていましたか?」

 お父様の声はしっかりとしていましたが、やはり困惑しているのが伝わってくるようでした。

「これから死ぬからって。はじめは歩道橋から飛び降りると言っていたんですが気が変わったみたいで。今度は川に飛び込むと」

「△△川だ…」

 おそらく地元にある川なのでしょう。お父様はすぐに行くと言って、電話を切られました。そしてまた彼からの着信です。出てみると、一方的に電話を切ったことの不満を言い、「本当に死ぬぞ」と続けてきました。

「いいかい? 自殺を止めないのは犯罪…」

「大丈夫、ご両親があなたを迎えに行くよ」

 わたしは同じことを繰り返そうとする彼の言葉を遮ってそう言いました。

「なんだって…」

 素に戻った声でした。

「わたしがそこに行くことはできません。こんな時間じゃ方法もないです。そしてあなたは延々とわたしに電話をしてくる。だからもう親御さんにお願いしました。川だと言ったらそこがどこなのかすぐにわかったみたいです。それでもう家に一緒に帰った方がいいですよ」

「親に、親に連絡する奴があるか! もう、どうするんだよ!」

「一緒に家に帰った方がいいです。それかあなたの決心が本物ならその川に飛び込むかでしょう」

「君は最低だ! 人に死ねって言うのか!」

「そんなこと思っていません。でもあなたの決心は堅いんでしょう? どうしろって言うの?」

「ああもう、またかける!」

 そう言って彼はまた電話を切りました。もうかけてこなくていいのに。でもまた電話してくるのだろうな。と、うんざりしました。時間は午前3時を回るところでした。





 

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