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好きな人には何でもしてあげて、初対面の人とはフラットに接し、嫌な人には何もせずに距離を置く~ライター仕事で気を付けていること⑨~

写真:東畑賢治

類は友を呼ぶ。公私の両面において「人付き合い」に注意したい

 個人の根本的な性質はあまり変化しない。でも、性質のどの部分が表に出るのかは周囲の環境に左右されると感じている。環境の大部分は人間関係だ。良き人に囲まれていると自分の良い部分が元気になるし、そうでない人たちの近くにいると嫌な部分が漏れ出してしまう。
 僕の場合は環境が文章にも露骨に反映される。残念ながら確固たる意見や信念がないので、身近な人の言動と雰囲気が書く内容に強く影響するのだ。その傾向を自覚しているので何かに否定的な意見は受け売りしないようにしているが、書くときの「気分」までは変えられない。保守的な人たちに囲まれていると保守的になるし、リベラルな人との交流が多いとリベラルになっていく。
 環境を整えるために必要なのは、公私の両面において人付き合いに注意することだ。僕たち自営業者は仕事とプライベートを分けることはできない。友だち付き合いをしている人から仕事を頼まれることは少なくないし、仕事仲間とも親しくなって無駄話をしたほうが楽しい。生活と仕事が渾然一体となったところから良い企画が生まれる気もしている。だからこそ、誰とどのように付き合うのかが重要になる。
 人付き合いという視点から他者を見た場合、尊敬すべき人、見知らぬ人、忌避すべき人の3種類に分かれるだろう。以下は、数え切れないほどの恥ずかしい失敗と後悔を踏まえて僕が立てた方針である。

尊敬すべき人とは無条件で付き合う。その人のために全力を尽くす

 近くにいるだけで背筋が伸びるような美しい生き方をしている人は年齢や職種を問わずに存在する。彼らから仕事を誘われたら、ギャラなどの条件を問わずに即レスで引き受けると良い。そして、なりふり構わず全力を尽くす。
 なぜか。打ち合わせと称してその人と一緒に飲んでいるだけで、自分の「良い部分」が強化されるからだ。もちろん、付き合っていると良質な情報や生きる知恵を得ることもできる。
 尊敬しながらどっぷり付き合う人の思想信条や性格、できれば国籍は多様であればあるほど良い。彼らから受ける影響は強力なので、一部の人たちに偏ってしまうとその傾向に染まってしまいかねないからだ。同じ業界の年上の同性は尊敬の対象になりやすい。むしろ、異業種で働いている年下の異性と敬意を持って交流したい。そうすると、環境の多様性を確保しやすくなる。

見知らぬ人とはフラットに接して、相手の良い面を見るようにする

 メディアの仕事の面白さは多種多様な人と出会えることだと思う。ただし、相手を「取材先」「読者」「顧客(編集者など)」と自分の中で固定してしまうと、せっかくの面白さを味わいにくくなる。
 例えばインタビュー取材をさせてもらう場合。聞くべきことは聞いたうえで相手の時間が空いていれば雑談も楽しみたい。お互いにリラックスして話すと人柄が見えて相手の良き面を発見しやすくなる。この人とは今後もお付き合いしたいな、と思うこともあるだろう。記事を報告するタイミングなどでその気持ちを素直に伝えればいいのだ。別の取材にも協力してくれるかもしれないし、友だち付き合いができることもある。
 僕は若い頃に、あるベンチャー企業の広報誌を作る手伝いをしていた。担当してくれた社員の1人は退職後になぜか農家になった。面白そうなので連絡を取って再会し、今度は取材先になってもらい(記事の一例はこちら)、いまでは家族ぐるみで仲良くしている。こうした公私混同こそが自営業の醍醐味だと僕は思っている。

苦手な人、忌避すべき人、嫌な人。彼らには「何もしない」が正解

 さきほど「尊敬すべき人は多様だ」と書いたが、忌避すべき人は一様だと思う。自分が抱える劣等感や苦しさを世間や他者への無関心や攻撃で解消しようとする人だ。邪悪というよりは精神的に虚弱なのだと思う。関われば関わるほど自分の中にある弱くて愚かな部分が出てきてしまう。文章も暗くねじ曲がっていく。
 社会で生きているとこういうタイプの人に遭遇することは避けがたい。そのときに必要な態度は、「無視などの敵意は示さない。本人に伝わる可能性がある場所では悪口も言わない。その人の危険性を直視しつつ、できるだけ関わらない。悪影響を受けない程度まで距離を置く」ことだと思う。もちろん、相手が犯罪行為に及んだときは放置できない。信頼できる弁護士に相談するべきだ。一人きりで対面しないようにしたい。
 好きな人には何でもしてあげて、初対面の人とはフラットに接し、嫌な人には何もしない。この方針を保っていれば、ライターとしての人生は意外性に満ちた面白いものであり続けると思う。(了)

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