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【第2章】サッカー選手を目指すフリーターと元ギャル。 アルバイトスタッフの意外な本音

社員の指示にも平気で反論する異能のアルバイト

 新宿駅から小田急線の急行電車に乗り、帰宅ラッシュに揉まれながら約40分。かつては「日本で最もデパートが密集している地帯」とも言われた町田駅周辺に到着する。大丸などの撤退後も新たな大型商業施設が入って相変わらずの盛況ぶりだ。
 駅から人ごみを抜けて線路沿いに横浜方面へ歩くと、5分ほどで目的地のミーナ町田に着く。ミーナはユニクロの経営母体であるファーストリテイリングが経営する商業施設であり、福岡県福岡市、千葉県習志野市、京都府京都市、そして町田市のそれぞれ駅前に出店している。目玉テナントしてユニクロが入ることで高まる集客力を、他のテナント誘致の口説き文句にしているのだろう。
 屋上と地下を含めると10のフロアがあるミーナ町田は、1階の食料スーパー富士ガーデンを筆頭に「安さ」を売りとするテナントばかりが入っている。3階にはユニクロのライバル店であるはずのライトオンとワケあり本舗byジーンズメイト(※閉店済み)まで入居していることに驚く。
 そして、上層階である6階と7階はユニクロが広々と使っている。「ユニクロは上の階でも客が来る。その一部をシャワー効果で下々に分け与える」という余裕の構えだ。
 現在の「町田店」は、自社が経営する駅前の商業施設の上層階を陣取っている。成瀬街道(都道府県道140号線)沿いにある倉庫型の小さな店舗であった旧町田店からは想像もできない。
 2002年にスクラップされた小さな町田店には20人弱のスタッフがいたと記憶している。そのうち正社員が店長を含めて4人、「準社員」と呼ばれていたパート社員が7人ほど、残りの約10人がアルバイトスタッフだ。大学生もいたが、大半がフリーターだった。
 町田店の正社員比率は、当時のユニクロ店舗の基準からしても異常に高かった。僕が2000年の秋に異動した先の青葉台東急スクエア店では、100名ほどの登録スタッフのうち社員は店長を含めてたったの4人。現在、社員比率はさらに下がっているはずだ。
 フリーターのアルバイトスタッフの1人、石本(35歳)とはとりわけ親しくもなく、かといって仲が悪いわけでもなかった。仕事はきちんとこなすものの、人をおちょくったような発言が多く、それでいて陰険な悪口などは言わず、飲み会などにはあまり顔を出さない石本。つかみどころのない男という印象が強い。
 僕と同い年の同性にして先輩スタッフで、職階は2階層下という石本とどのように付き合えばよいのかわからなかった。
 現在も町田に住み続けているという石本の連絡先は杉山から教えてもらった。電話をかけて取材趣旨を話すと、「宗教の勧誘じゃなくてよかった。会いましょう」と相変わらずの皮肉を言いながら快諾。
 待ち合わせ場所をミーナ町田店にして、「ちょっと商整(商品整理)を手伝ってやりましょうよ」と冗談めかして提案してみた。すかさず「大宮さんの商整を待っていたら時間がかかって仕方ないのでやめましょう」と返された。石本、本当に変わってないな。商整はあきらめて、ミーナ近くのチェーン系中華料理店・万豚記に入った。
 町田店のスタッフは仕事を真面目にやる人が多かった。しかし、良くも悪くも野心は感じなかった。与えられた業務をしっかりとやって給料がもらえれば満足し、店長をはじめとする社員を適当に立てる。店舗業務に不備があった場合、SVなどから激しく追及されるのは常に社員であり、準社員とアルバイトスタッフが責任を問われることはないからだ。
 石本はそんな暗黙の棲み分けを破ることが多かった。社員の指示にも平気で反論し、納得しないとなかなか動こうとしないのだ。作業自体は迅速で的確なので文句のつけようがないが、上意下達の軍隊的な組織であるユニクロ店舗においては異彩を放っていた。
 そんな石本がフリーターという道を選び、町田店で働くようになり、スクラップを待たずに退職した経緯を知りたい。正社員になろうとは思わなかったのか。そして、いま何をしているのだろうか。高校卒業後の足取りを聞くと、意外な答えが返って来た。

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