見出し画像

私の卒業〜18【6】 o'clock 2


この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件などには、いっさい関係ありません。

知里side

もうビックリも良い所だった。
レンいやレン先生に再会できるなんて…。

これまで何度か夢では再会したことがあったけれどもう二度と会う事は無い人だと確信していた。でも嬉しい…。

一緒に居た時はまだレン先生も子どもだったはずなのに…凄く大人っぽくて爽やかでイケメンで…もう驚いたことは言うまでも無かった。

絶対にこんなの夢に決まっている
そう思っていたけど覚める事は無かった。何日経っても。

結論から言うとレン先生は1年生の時と3年生の時に担任の先生になってくれたのだ。

本当なら2年生の時も是が非でも担任になって欲しかったけどそこまでだと出来すぎていてびっくりだからね。ちょうどこれくらいで良いんだろうね。

お陰様で私は高校3年間を楽しく過ごすことが出来て、卒業しても会おうと言っている友達もたくさんいる。

ただ皆レン先生が大好きで、レン先生のモテ方はもの凄かった。
私も言動には注意した。
もちろん言うまでもなく私もレン先生の事が好きだった。しかしながら抜け駆けするわけにはいかず諦め、周りと足並みをそろえていた。
友達と揉めるわけにはいかないし、先生と生徒なんて、そんな相手にされるわけがないと思うから。

「知里もレン先生が好きなんじゃないの?」
と友達に何度か聞かれた事はあるが、
「まさかまさか…そんな事ないよ。」
と嘘をついた。私は分かりやすいから見え透いた嘘だったかもだけど。
ただ2人きりの時間はたくさんあったようで短かったように思う。

レンside

桜咲くその時、突如彼女と再会した。直接挨拶どころか何も言えずに去ってしまう事になり遠い昔に離れた知里と先生と生徒という形で再会した。

入学式の時体育館でひときわ目立つオーラを放っている少女が居たのだ。自然に目がいった。派手さは全くなくどちらかというと地味で落ち着いた雰囲気なのだが俺にはすぐに分かった。

その少女が知里だという事に。

真面目で誠実そうな女性に育ってくれて良かった…。そう思ったのと同時に何故か胸の音がが早鐘のように鳴り出したのだ。

俺は今年で24歳。
恋愛経験は普通だ。ただ信じられないだろうが実際にお付き合いした女性は1人で高校時代から大学時代にお付き合いし、プラトニックなまま別れている。

自分で言うのは何だか、出会いはそこそこあった。派手目な女の子が寄ってくる事も少なくなかった。しかしながら俺は真面目で誠実で一生懸命生きている娘が好きなのだ。

どの女の子を前にしても二の足を踏んでしまったのだ。

今となって思うのが、もしかして俺も知里との再会をどこかで待っていたのかもしれない。ずっと長年会っていなかった、そして気になっていた彼女が目の前に居る。

ただ8歳も年下で、相手はまだ中学を出たばかりの子どもだ。
それに幼馴染とはいえ現役の生徒と恋愛は絶対にダメだ。
俺は自らに言い聞かした。

ただ彼女は3年間は学校に居てくれる。それも結果的に1年生と3年生の時に担任になれたのはラッキーだっただろう。

ただ2人きりでゆっくり話すという時間は無いに等しかった。一瞬の神様のいたずらが2度あったくらいだ。

彼女も気を遣っているようで、長話をしかけてくる事は皆無だった。

懇談や課題のチェックなどで彼女と部屋に2人きりになる事もあったがただ淡々と事務的な話をするだけで、
一度だけ
「親御さん、お姉さんはお元気か?」
と尋ねるだけで精一杯だった。

神様のいたずら

知里は1年生のほんの最初だけ1人で居る事もあった。その後レン先生の計らいや周りの協力、本人の努力でたくさんの友人に恵まれる事が出来たが。

そんな時、知里は自分の席で休憩時間に本を読んでいた。

レン先生は授業後ふと足を止め、
「藤本!」
と知里に声をかけたのだ。

知里は何かやらかしたのかと驚きながらレン先生に付いていく。
しかしながらそんな事は全く無く、ただただクラブ活動に入ってみないかという話だったのだ。屋上に上がり、外からは死角になっている場所でレン先生はスマホを取り出し、音楽をかけ、見事なダンスを披露したのだ。

知里は入学後しばらくは帰宅部だったから。
結果ダンス部兼軽音部のようなパフォーマンス部というクラブに所属。レン先生が顧問だったのだ。
レン先生があんなにダンスが上手いなんて…。知里はさらに心をわしづかみにされたのだ。

レン先生のお陰で普通にしていたらあまり話すことに無い明るく元気な子たちとも交流が出来、なんとその子たちと同じグループで普段も生活するようになったり奇跡が起こったのだ。

もちろんどちらかというと大人しめな友達も増え、クラブ活動をきっかけに知里の世界は格段と広がったのだ。気が付くと知里はクラスの中心のような存在になっていったのだ。あんなに大人しくてそれまではいろんな所で浮いてきた事の方が多かったのに。


それに嫌々やっていた勉強やピアノ。ピアノはパフォーマンス部でも弾くようになり、意欲的に取り組むようになったのだ。
勉強も高校生にもなれば、気合を入れていないと原級留置きという厳しい処置を下される。

知里は必死に授業を聞き、試験前は徹夜をする事も多くなったのだ。

そんなある日の事。
知里は階段前で非常に強い眠気に襲われ、ふと気を失い、そのまま階段を転がり落ちたのだ。近くにたまたまレン先生が居て

「藤本!大丈夫か!」
と物凄いスピードで階段から落ちる知里に即追いつき、抱きとめたのだ。そしてしばらく知里はレン先生に抱かれて残りの数段一緒に階段を落ちたのだ。

知里は大人の少しツンとしながらも甘い香水、そして暖かいレン先生の腕の中で気が付いた。

「きゃあ!」
知里は赤面した。

レン先生は姿が乱れただけでけが1つしていなかったのだ。

知里はさらにレン先生の事が忘れられなくなったのだ。ちゃんと後日レン先生には母親に渡された手紙と手土産を渡し、知里も頭を下げたのだ。

卒業まであとわずか。
もう卒業したらまたお互いに会えなくなる。
本当にそれで良いのだろうか?
2人は考えあぐねた。
今目の前に居るのにまたさよならか

住所はお互いに分かったので年賀状くらいは出来るだろう。しかしながらレン先生は生徒とはスマホでの連絡先は交換しない主義だったのだ。
バッタリ会えることを願う?そんな、針に糸を通すような確率だろう。

お互いに考えあぐねてしまっている間に卒業式の日は来てしまった。

卒業
本当にこれで終わるのか?嫌だ…。
レン先生も知里も心の中でもがいた。ただ卒業式は粛々と進められていく。

卒業式では涙したことが無かった知里もさすがに卒業証書を受け取った瞬間涙を流した。

花道でレン先生と目が合った。
「おめでとう」
レン先生は知里に声をかけた。お互いに涙をこらえながら。

そして自然に流動的に友達と集まり、最後にみんなでご飯を食べる事になったのだ。

「またね」
と解散し、知里は1人で電車を乗り継いで帰ったのだ。

大昔レン先生…いやレンと一緒に歩いた場所も、良く見た時計塔の前も通って。

時計塔の時計は18時5分を指していた。

レンと一緒に居た時は、よく18時のまっすぐでシンプルな長針と短針の位置に何故か安堵を覚えていたが、5分ずれる事により、もう本当に本当にレンいやレン先生とは会う事が無いと知里は確信してしまい、その場で号泣してしまったのだ。

そこからどんな風に帰ったか覚えていないくらい。また電車にも乗ったはずだがわき目もふらず歩いていたのか、気が付いたら自宅の前に居たのだ。

6年後
エピローグ~18【6】 o'clock

ワイワイガヤガヤ…。ここはとある音楽イベントの舞台袖。時は夕方の18時前くらいだろうか。知里はここに居たのだ。

知里は社会人になり、社会にもそれなりの居場所を見つけられたのだ。

それにやはり何はともあれ歌手になりたい、音楽をやりたいという思いに背中を押され、知里は某音楽教室に入会したのだ。今日はその教室の発表ライブだ。知里はボーカルで出場するのだ。
歌うのは可愛くも強い女の子が主人公でありながらも少し胸がキュンとするラブソングのロックナンバーだ。

ここまで知里は全く恋をしなかったわけでは無かったが、とりあえず嫌いではないからお付き合いしたとか、自暴自棄になった時に明らかにタイプの違う男性とお付き合いし、最後は別れてしまったりだとか何かが違う恋愛しかしてこなかったのだ。もしくはストーカーまがいの目に遭ったり、実は体目当てであったであろう相手から慌てて逃げたり、ろくな目に遭っていなかったから恋愛は諦めていたのだ。

ちなみに今回一緒に出場する中に高校生や大学生くらいの男女が居て、そこが良い感じになっていたりで知里は蚊帳の外だったのだ。ああもうあかんなあと知里は爽やかに諦めてスッキリしていたのだ。

だからその代わり知里は仕事でレベルアップしたり、叶えるのは難しいかも分からないけれど、歌手や女優になりたい、趣味でも良いから活動したいと思って日々一生懸命だったのだ。

知里たちの番がやってきてステージに上ったのだ。

そして半分歌い切った所だっただろうか

季節はもう11月という事で薄暗くよく見えないが、知里の目に、見覚えのあるシルエットが見えたのだ。そのシルエットの人はどこかへ行こうとしていたはずだが足を止めて知里の方をしっかり見ていたのだ。

そのシルエットの人の横には大好きな時計塔があり、時計の文字盤はもう光っていた。

18時ちょうどを告げる鐘の音が空に響いた。

知里はまさかの事態に心が揺らぎそうになったが、最後まで集中して歌い切ったのだ。

そのシルエットの人は某音楽教室のテントの所で何やら話をしたり資料をもらってその場を後にしていた。


「お疲れ様です」
無事にライブが終わり、バンドは自然解散になった。

見に来てくれていた友達や同じボーカル教室の仲間が知里に
「良かったよー」
と声をかけていった。
しばらく話をし、彼らを最寄り駅まで送り、そのまま知里も帰路についたのだ。

頭の中は例のシルエットの人の事でいっぱいだった。

本当にこんな事、あるの?

そして3日後何故か音楽教室に併設されているラウンジで知里はお茶をしたくなってくつろぎに行ったのだ。
するとたまたまボーカルの先生が現れて、
「藤本さん!この間の舞台、凄く良かったよ。ちょっと待っててね」
と言い、何かを持ってすぐに戻ってきたのだ。手紙だった。

「この方知り合いかしらね?藤本さん宛てに手紙を受け取っていたのよ。彼、藤本さんのファンですって。(^^♪」
知里は手紙を受け取った。なんと差出人にはレン…いやレン先生の名前が書かれていたのだった。
「週末のレッスンにこの方、体験で来られますよ。では失礼します」
とボーカルの先生はさっさと行ってしまったのだ。

知里は物凄い展開についていくのに必死だった。気を抜くと呆然としそうだったのだ。早鐘のように打つ胸の音に負けないように、生唾を飲んで知里は手紙を開封して読み始めた。

「ご無沙汰している。毎年の年賀状ありがとう。
この間たまたま通りかかったところで君が舞台で歌っている所を見たのだ。

俺も趣味を探していた所だ。仕事と家の往復で今も1人暮らしだ。
君と同じクラスでボーカルレッスンを受けたいと思ったのだ。
俺も音楽が好きだ。

君とまた会いたい。

そしてレッスン後、良ければ近くの店で食事と、久しぶりにお話ししたいがどうだろうか?良き返事を待っている。ではまずはボーカル教室で会おう。

レン」

そしてレッスンの日、仲間とラウンジに居たら先生が呼びに来てくれて、レッスンルームに入ったらレンが先に座っていたのだ。

ちょうど時計は18時を指していたのだ。

レッスン後知里とレンはやっと2人きりになり、レストランに入って着席したのだ。

「レン兄ちゃん、いえ、レン先生ご無沙汰しております。」
「レン兄ちゃんで良い。久しぶりだな。」
レンは知里の頭にそっと手を置いた。その手はとてもとても温かく、知里の瞳からつつーっと温かい涙が流れたのだ。
レンもどこか泣くのを我慢しているように見えた。お互いに夢に見た再会が叶い、感慨深くなってしまったのだ。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?