詩/悪しき者

悪しき者

体中が痒いので
毛穴を全部ひらいてしまおうと
湯舟につかっている
両手は宙でページを繰っている

ひとを傷つけて
痛みを覚えることで
まだ罪びとであることを確かめている
痛みを感じなくなったあとに
何が残ってるっていうのか

手の甲に浮かんだ汗は
しずくとなって落ちる前の心
引力によって
内側から自分の輪郭を保つ
奥から沁み出してくるものによって太る

自分の命を絶つ力を備えて
なお生まれてくる
ひとはあとから来たが
火を見つけたように
かみを見つけた
自分を許せず
忘れていくだけでは
忘れられない記憶が多すぎるから
暗がりに休んで
いつか死して埋もれる夢に安らぐ
罪という心

かみを思えば かみは動く

1997年9月

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?