休日朝ごはん
いつもより遅い時間にスマホのアラームで目を覚ます。頭の上で振動するスマホをなんとか捕まえて、停止ボタンを押した。時刻はAM8:30。今日は土曜日だから、いつもよりちょっと遅起きでも良い。
まだ少し眠いけど、休日は有意義に過ごしたい。今日は天気が良いし、布団でも干そうかな。社会人になってから癖づいた朝の通知チェックをしながらカーテンを開けると、暖かい光が部屋に差し込んできた。
「おお……いいね多いなあ」
会社からの通知は特になし。その代わり、SNSの通知がたくさん来ていた。あ、この人またいいねくれてる。
見慣れた実家の猫のアイコンをタップして、自分のプロフィールへ。我ながら綺麗に加工された朝ごはんの写真たちがずらっと並んでいる。昨日のアップ分をタップしてコメントをチェック。美味しそう、かわいい、おしゃれ。お、嬉しいな。まねしてみます、だって。
平日、出社前に朝ごはんの写真をSNSにアップすることは、俺にとってもはや日課。何の気なしにアップしていた朝ごはんの写真があるとき一度バズり、その時の快感が忘れられなくなった。だって、普通に生きていれば、こんなに褒めてもらえることなんてないし。
料理くらいしか取り柄もないし、ちょっと無理したって、続けていきたいのだ。まあ、早起きが地味に辛くていつも寝不足だけど。
さて、来週は何を作ろうか。近所のパン屋で買った柔らかい食パンにアボカドをのせてハチミツとナッツをかけるのは先週やったし、小さいオムライスとラタトゥイユでワンプレートも水曜日にやったな。和食の小鉢をいくつか並べてメインはお粥とかは……たぶんまだやってないはず。
「よし」
平日用の、SNS映えする朝ごはんを考えるのは終わり。今日は休日だ。
社会人になるとき両親に買ってもらった小さな冷蔵庫を開けると、味噌の奥に小さめの瓶が見える。こんな奥にしまってたっけ。ケトルのスイッチを入れて、ごはんは……昨日冷凍したやつでいっか。
レンジに冷凍されたごはんを入れてスタートボタンを押す。オレンジ色の光の中で、四角く冷凍されたごはんがくるくる回っているのがなんだか面白い。
茶碗を棚から出していたら、腹が鳴った。そういえば昨日帰ってすぐ風呂入ったあとそのままベッドにダイブして、疲れて寝落ちしたんだった。夕飯なんにも食べてない。せっかくだし先週実家から送られてきた赤てんも食べようかな。
まだ半分くらい残ってたはず、と思って冷蔵庫のチルドをのぞいたら、懐かしい赤色が2切れ冷えていた。東京には売っていないから、たまに食べたくなるんだよな。ついでに麦茶も用意しよう。
レンジが温め終了の音をたてているのと入れかわりで、トースターに赤てんを入れる。フライパン使っても良いけど、洗い物増やしたくないし今日はいいや。
赤てんを待つ間、瓶から味噌汁の素をスプーン1杯入れてお湯をそそぐ。味噌の良い香りが部屋に広がって、また腹が鳴った。炒めた長ネギと味噌とだしの素を混ぜるだけで作れるし、作り置きの味噌汁の素はやっぱりあるとないじゃ全然違う。
味噌汁をかき混ぜながらレンジを開けたら、庫内が水滴だらけになっていた。拭かなきゃいけないけど、今は朝ごはん優先だから、あとであとで。あつあつのごはんを取り出す。
冷凍ごはんって人によって好き嫌い別れるけど、俺はそんなに嫌いじゃない。茶碗に盛ればこんなに美味しそうな湯気をたてているし、なにより、これも懐かしい故郷の味だし落ち着く。
赤てんもいい感じに温まったし、あとは醤油と、たまご。一番大事な朝ごはんの主役を冷蔵庫から1つ掴む。
ごはんの中央に少し窪みを作って、たまごを割る。よし、今日はきれいに割れた。あとは醤油を垂らして、準備完了。
「いただきます」
黄金色を纏ったごはんをひとくち。ああ、美味しい。とろとろのたまごがいい感じにごはんに絡まっている。箸が止まらない。なくならないでほしいのに、半分以上食べてしまった。
まだ少しごはんが口の中に残っているうちに、温かい味噌汁を流し込む。ちょうどいいだし加減だ。ごま油で炒めた長ネギも良い感じ。
赤てんにも少し醤油をかけて、カリカリに焼けた部分をかじる。ちょっとピリッと辛い感じが懐かしい。トースターでもこんなに香ばしくなるんだから最高。またごはんを口に入れる。
舌に残るピリ辛を冷たい麦茶でリセット。実家に年がら年中麦茶が常備されていたせいか、一人暮らしを始めてからもなんとなく作ってしまうけど、やっぱり麦茶って美味しい。一気に喉が潤った。
平日に作るあざといご飯も好きだけど、やっぱりたまにはこういうご飯も食べたくなる。体が中からじんわり温かくなる、落ち着くご飯。俺にとってはどっちも大事な毎日の朝ごはんだけど、休日くらいは、頑張らないこんなご飯が良いのだ。
残った味噌汁を一気に飲み干し、休日が始まる。