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どっちでも良い 2022/8/14

背の高い先生の授業後とか苦労した。

そうです。日直の時黒板消すの時間かかる人間こと、私です。


昨夜妹とテレビを見ていたら、『昭和の遊び』みたいなものが特集されていた。

ゴム飛び、竹馬、牛乳瓶のフタを裏返す遊び……昭和の遊びか……うん。昭和ね。でもおかしいな。私達小学生の頃全部やってたよね……?あれ?2人とも平成生まれのはずなのだが……。田舎は時代さえも凌駕するのか。いや、たぶん古い遊びが今に残ってるんだよね。そうだきっと。

ちょっと混乱したから早めに床につくと、さっきまで降っていた雨のせいかいつもより涼しい。今日はエアコンも扇風機もつけなくても眠れるぞ!なんなら寒いくらいだし。いつもはお腹だけ冷やさないように掛けている掛け布団をしっかり被って眠りについた。そして3時間後、暑くて飛び起きる。自律神経~~~!

そんな愉快な感じの体調で朝起きても、やっぱり頭はぼーっとしている。もうどうにかしてくれないかこの状態。生活に支障が出る。洗顔クリームかと思って手に取ったチューブ状の何かは、顔の角質をこするジェルだった。朝イチでこれは顔の皮膚いかれるわ。

いっそ男性に生まれていれば良かったのだろうか。いや無理だな。私に男性として生きられるような根性はない。というかファッションとか思考とかの観点からしても女性として生まれて特に不満はない。似合う似合わないは置いておいてスカートとかまあ好きだし。男性として生まれていたらまた考えも違っていたのだろうか。あ、こんな私でも度々受けているセクハラとか変態行為にはうんざりしています。それと月イチのあいつだけは女性って難儀だと思う。

今はもうほとんどないけど、小さい頃から男の子に間違えられることが多かった。運動大好きで髪が短く、男友達が多かったので女の子扱いされて遊びに入れてもらえないのが嫌で常にズボンをはき、女の子らしい服装をしてほしい母の思惑とは反対に、小学校6年間は入学式と卒業式の2回しかスカートをはかないような子供だった。

服装の効果もあってか、小さい頃は男の子に間違われることが本当に多く、公園で会った見知らぬおばあさんに「ちょっとそこのボク」と話しかけられ、あの、私女です、と言うと「嘘つくな!」と何故か怒鳴られたこともあるし、英語の試験を受けたときは、会場で順番を待っていると係員のお姉さんに「蔵さん~蔵さんいますか~」と呼ばれ、はい、と返事をしたら「やだごめんなさい蔵くんね。名前だけ見て女の子かと思った」と言われて、いや一応女です……と会場をお葬式みたいな空気にしたこともある。男女どちらともとれる名前ですみません。

そんなことが頻発するともうなんとも思わなくなったが、中学に上がってすぐの頃、学校帰りに近所のバス停を通りかかったとき、2人組のおばあさんに「ねえあなた、ここで待っていれば駅に行くバスは来るかしら?」と話しかけられ、来ますよ、と答えて去ったとき、後ろから「ねえあの子……」「えっやだ!」という声が聞こえた。なんだろ何かおかしなこと言ったか?と後ろを振り返ると、「スカートはいてる!女の子よ!」「やだホント!男の子かと思った!」と大きな声で言われたことがある。いやもう少し小さな声で話してくれませんかねえ……。

この時はソフトボール部に所属していて、確かにだいぶ髪は短かったけど、制服を着ていて男の子に間違われるとは……スカート見てなかったとしてもリボンしてたし……と、そこで久しぶりにちょっと落ち込んだ。ちなみに帰宅して母にこのことを話したら「あんたwwスカートはいてるのにwww」と爆笑していた。

思えば、さすがにもう少し女の子らしくした方が良いのだろうか、と考えたのはこの時かもしれない。別に性別がどうだとかどうでも良いが、いちいち訂正するのがめんどくさい。あと、周りの女子の興味はかわいい服やメイク、恋愛の話に向いていき、私にも中学生の頃は一応好きな人がいたので、その人に女の子として見られないのはちょっと悲しかった。

しかし、クラスの女子の話によれば男女の友情は成立しないらしい。どっちかがどっちかを好きになって終わりなんだよ。と、彼氏持ちの友人は言う。そんなに難しいものなのか。でも、好きになるかどうかは置いておいても、男女の間になんとなく壁があるのは理解できる。私が女の子になってしまったら、今いる男友達とはもう遊べなくなってしまうのだろうか。それは嫌だった。

そんなことを考えていた時、ふとした会話の中で、保育園から一緒の男友達Cに「お前女じゃねーもんな」と言われていつもと違う気持ちになった。今まで何度も何度も言われてきた言葉だった。いつもなら、うるせーな、とかそうだね~とか適当に返せていたのに、何も言えずに黙ってしまう。急に会話が途切れて、Cが不思議そうに私を見ている。何か返さなければ、とは思うけど、いつものように流せない。その日はそのまま、何とも言えない空気の中別れた。

次の日、校庭で部活をしていると、隣の野球部でCが練習しているのが見える。昨日のこと謝らなきゃな、と思いつつ忙しく時間は過ぎ、部活は終わりの時間になった。部活道具を片づけているとき、昇降口で野球部の一団とすれ違う。おつかれ~とあいさつを交わしている中に、Cもいる。目が合ったな、と思ったけど、すぐにそらしてしまった。何故か私の前に立ったままのCの後ろから「おい」とCの背を叩く音と、声が聞こえる。背の小さい、これまた小学校から一緒の友人Dだった。

「昨日こいつとケンカした?」Dが私に声をかける。ケンカ……ケンカではないと思うけど、と返すと、なんて言われた?とまっすぐ目を見て聞かれる。あ、これはたぶん知っているな、と思ったので、女じゃねーって言われたけど……と正直に返した。すると、Dは、前に立つCを思い切り蹴とばす。いでっ!とCから本気の声が上がった。野球用のトゲがついたスパイクのまま蹴られたらそりゃあ痛いだろう。

「お前小学生みたいなこと言ってんなよマジで」DはCを睨むと、私の方を見て笑った。「ごめんね。謝らせるからコイツに」ニコッとした愛嬌のある笑顔は小学生の時のままだったが、声変わり前独特の声色や雰囲気が違う。この人も少し前までCと同じように私を女の子扱いなんてしてなかったのに。足を抱えて座り込んだCの方を見ると、恨めしそうにDを睨んでいる。相当痛かったのだろう。ちょっとかわいそうだった。

「ちゃんと謝れ」Dの言葉に、Cが渋々「ごめん……」と謝った。Dは満足そうにうなずくと、じゃ!また明日!とCを引きずって去っていった。なんかごめんC……と思いながら2人の後姿を眺めていると、一部始終を見ていたらしい野球部の別の友人Eが影からひょっこり出てくる。Eは中学に上がってから話すようになった友人である。私と同じようにCとDの背中を見つめると、「お前あいつらと仲良いの?」と不思議そうな顔をしていた。確かに、ただの同じクソ山奥の小学校出身というだけなのに、中学に上がれば、男子2人と話しているだけで他の小学校出身の女子の目が痛い。これも女の子らしくしたくない理由の1つ。小さい頃からの友人達と私をそんな風に見てほしくなかった。

まあ、小学校一緒だから、と答えると、ふーん、と興味なさそうにEが横に座った。何か言いたげだが何も言わないので、帰ろうとすると、なあ、と呼び止められた。なんだよ、と振り返ると、「女とか男とか関係あんの?」とEが本当に不思議そうな顔でこちらを見ている。少し前にクラスの女子が恋バナをしていたとき、Eが、俺好きとか好きじゃないとかよくわかんねーわ、と言っていたことを思い出す。「友達は友達じゃん」どっちでも良くね?とEに言われて、私は何も答えられなかった。

結局1番性別にこだわっていたのは私だったのかもしれない。面倒だと思っていたことは、そんなに面倒じゃないのかも。そう思ったら気が楽になって、体がすっと軽くなるのがわかる。女子とか男子とかじゃなく、自分の好きなようにすれば良い。Eに、そうかもね、と答えると、私の為に怒ってくれたDと、不器用だけど昔と変わらず接してくれていたCのありがたみに気付いてなんだか笑ってしまった。


そうは言っても人の意識ってそんなに簡単に変えられるものではなかったらしく、女の子らしくすることを長年拒否していた為に、久しぶりにスカートをはくのも、髪を伸ばすのも、メイクをするのも最初はかなり抵抗があった。今でこそ好きなものを着て好きなメイクをして、女性寄りの思考も男性寄りの思考も気分によって使い分けられるようになったけど、中学生の頃にたくさん悩んだあの時間と、夕方の昇降口でのできごとは、私の中で大きな事件だったように思う。

ちなみに今でも5年に1度くらい男性に間違えられることがある。それこそスカートをはいていても。人間の意識なんてそんなもんなのかもしれない。