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表層の下に流れるものを掴む努力

熱波に焼かれそうな昼下がりは外にいてはいけない。
こんな時は衰えかけた脳みそをかき混ぜ、酸素を補給する好機だ。

図書館で百年文庫という新書版のシリーズが並んだ棚をみつけた。
月、この文字にひかれて手に取ると、アイボリーの表紙には

百年文庫
33

ルナアル
リルケ
プラトーノフ 

いたってシンプルな文字が並んでいた。

Jules Renard 1864-1910
代表作「にんじん」

Rainer Maria Rilke 1875-1926
20世紀を代表するドイツ語詩人

Andrey Platonov 1899-1951
ロシアの作家

作家名は知っているが、多分読んだことも手に取ったこともない。

ルナアル 岸田国士訳
「フィリップ一家の家風(Les Philippe)」(1907)
リルケ 森鴎外訳
「老人(Greise)」(1897)
プラトーノフ 原拓也訳
「帰還」(1946)

ルナアルは自然と自然の中に生きる人間を愛し、田舎を歩き回って、
目で見、耳にした微細な事々を、できるかぎり正確で簡潔な言葉で
表現することを目指した。
この作品について芥川龍之介は文芸評論「文芸的な、あまりに文芸的な」の中で「一見未完成かと疑われる位である。が、実は『善く見る目』と
『感じ易い心』とだけに仕上げることの出来る小説である」と、
その詩的世界の奥行きを語っている。

プラトーノフは政府の鉄道技師として働きながら、文筆活動を続けた。
本作品は政府当局から「ソビエトの家庭を描くことは、潔白な手と
潔白な良心をもった作家にのみ許されるべきでる」と猛烈に批判された。
翻訳者原拓也氏がロシア革命後の最も重要な作家はプラトーノフであると
ワシーリイ・アクショーノフから聞かされ、古書店を渡り歩いて本を探し、
日本に紹介した。彼の作品には人類の未来と、真の社会変革とにかける夢が込められており、20世紀ロシア文学で最も優れた特異な作家であると
1992年の岩波文庫「プラトーノフ作品集」の解説で述べている。

リルケの作品は、一言で言って味わい深い。
ショートショート並みの短篇なのでなんども読み直してみたい。

これら3篇のどれも多分昨今の日本人には面白くないだろう。
何を書きたかったのかもわからないだろうし、「だから?」と
最後に言いたくなるような作品ばかりだ。
余韻を楽しんだり、余白を自分の力で埋める感性が不足している人が多い。空気を読むという言葉ができていながら、空気を読めない人が増え、いや、読んだつもりになっている、読んだふりをしている輩ばかりになっている。白黒はっきりしないものを嫌う傾向も根本に流れるものは同じようだ。

誰かに作品解説をしてもらい、これは正しいと誰かに決めてもらい、
ここがいいお店だよと薦めてもらい、これが今の流行ですといってもらうことに慣れ過ぎている。
自分の頭で考え、自分で善悪を判断し、自分の感性でいいといえるように
脳みそが腐りそうな暑さの中、ちょっと本など読んでみた。

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