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言霊ってあるんだよ。

仕事に行く電車の中で、わたしは友達とメールのやり取りをしていた。

電車が地下に潜る時、窓に映る妖怪に驚いた。

それがまさか自分の顔だと気づいた時には、ぴえんこえてぱおんだったけど、当時はまだそんな流行り言葉はなく

メールを打つ携帯も、スマホではなくパカパカする二つ折りの青い携帯電話だった。

友達はメールの中でわたしに聞いた。

「七夕だけど、お願い事どうする?」

その日は七夕の前日。だけど、そんなことはすっかり忘れていた。

仕事が忙しく、NOが言えない日本人のわたしは会社にどんどん飼い慣らさせて社畜と化していた。

人件費を削るためには、バイトを使うより社員である星野ががんばるしかないと言われ
出勤日数も時間も増えていった。

本社からの応援も、本社の人に負担がかかるから断るようにと仕向けられて

一ヶ月ほぼ休みなく、かなりのオーバーワークな日々。

わたしは少しだけ、洗脳されていたのかもしれない。

星野が来てから、ここは良くなった。
ありがとう。と言う社長の顔に騙され、かわいい猫のように喉をゴロゴロと鳴らしていた。

そんな日々を送るわたしは友達とのメールの続きに戻り、返信する文章をぽちぽちと打った。

「願い事かぁ。仕事を長期で休みたい。でも今は休めないから、体調を崩したい。そしたら自信持って休めるからね」と返信する頃には、

最寄りの駅に着いていて、いつもの一日が始まった。

午前中はまだご機嫌に仕事をしていたけれど、お昼を過ぎる頃からお腹の様子がおかしくなった。

ご飯も食べれず、冷や汗をかきながら仕事をするかトイレにいるかのどちらかだった。

涙目で、「おなか…いたい。願いが叶ってしまった」とトイレで思うあの日の景色をわたしは忘れない。

いつもなら、10時から大体23時頃まで仕事場にいたけどその日は夕方で帰らせてもらい

翌日も良くならなければ病院に行ってから出勤すると言っていた。

帰りの電車の中で携帯を見ると、友達からの返信が入っていた。

「そんなこと言わないで、普通に休みもらえるようにちゃんと交渉しな」

そうだね、そうすることが1番だった。
冷静になってやっと気付く。遅かったけど。

本当なら元気な体で休みたかった。


短冊に書いたわけでもない、ただの友達へのつぶやきの願い事を叶えてくれた織姫と彦星は

優しさで働きすぎたわたしを守ってくれたに違いない。

一夜明けて良くなるどころか悪くなる一方で、明らかに良くない症状まで出たことを病院の先生に相談した。

検査の予約を取って、仕事に行き、ふらふらになりながらも一日働き

検査の日だけはお休みをもらうことにしていた。

検査の結果は、あまり良くなかった。
告げられた病名は、一生付き合っていかなけらば行けないもので。

薬と食事管理と生活環境で、良くは出来ると言われたことがせめてもの救いで。

そこから、生活態度を一変させることを誓ったのだった。

あんなに洗脳されていたわたしは突然目を覚まし、短冊に願ったとおり、一週間もお休みをもらった後に仕事を辞める段取りをした。

何故だか周りの人の態度も急に優しくなり

きっと、その今の環境を訴えられたりしたくなかったのだろう。

大丈夫、わたしにはそんな勇気はなかった。

一ヶ月後に、円満に仕事をやめ少し自分を見つめ直す時間を作った。

言霊ってあるんだと気付いた、あの七夕前日。

「体調を崩したい」なんて
思うだけにして、願わなければよかった。


それからのわたしは、悪いことを口にするのはやめることにした。

とは言え、なかなかの自己肯定感低めなわたしはうっかりしているとすぐマイナス思考になってしまうので

そんな時は、頭の中で

「言霊ってあるんだよ」という合言葉を言うようにしている。

悪い未来はいらない。
出来れば、良き未来だけやってきて欲しい。

そうしていくうちに、

宝くじは当たったことないけど、ガチャガチャ運がなぜか上がった。

欲しい景品を見つめ指をさし、
「これが出る!」と言うとそれが出てくることが多くなった。

ね、やっぱり言霊ってあるんだ。

ガチャガチャで語ることとはちょっと違うかもしれないけど。

今は生活を見直し、完全ではないかもしれないけれど寛解を保っていられるので大丈夫。

食べられないものはあるけど、それ以上においしいものも食べられるし、お腹も時々しか痛くない。

むしろ、体調を崩してからの方が健康面に気遣っているので逆に健康体を手に入れたかもしれない。

今年もまもなくやってくる七夕の日。

お願い事はもう決まっている。


短冊に書くことは

「元気があればなんでも出来る」

これ一択。気付けてよかった。

自分が壊れてしまう前に救ってくれた
織姫と彦星が今年も素敵なデートができるように、わたしは前日からてるてる坊主を作る。

そして、てるてる坊主にこう言うんだ。

「七夕は晴れるよ」

とは言え、曇る日も多いけど。

これからもわたしは、良き未来に出会えるような日々を送りたい。

自分を守れるのは、結局自分しかいないから。

思い通りにばかりは行かないけれど
なるべくそうなれるように、ね。

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