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アイスネルワイゼンを読んで(ネタバレ含む)

 アイスネルワイゼン 三木三奈 文藝春秋を読み終えたので、感想を書いていこうと思う。この本には、表題作アイスネルワイゼンとアキちゃんが収録されている。


アイスネルワイゼン

アイスネルワイゼンは、ピアノ講師琴音(ことね)が主人公である。
現在はフリーランスで活動をしている。
登場人物は、ピアノを教えている生徒と親、仕事を紹介してくれる友人、クリスマスイブに呼んでくれる友人家族、仕事先の女性とその息子、電話で話す母親、彼氏などがいる。
全体として会話が多い作品である。

琴音の行動はある意味正直ではあるが、理解できないことも多い。
彼氏に相当する人物は、たぶん不倫相手だった男性のことを指しているのだろう。ここは読者によって捉え方が違うと思う。もうすでに関係を終えて、新しい男と出会ったのか。もしくはズルズルと関係が続いているのか?

 イブに呼んでくれた友人家族を描いたのは、琴音の不幸せと対比するという意図があったと思う。この幸せそうな家族の描き方は非常に上手いと感じた。そこの中で、琴音が自分のことを嫌いになってほしいと友人に告げたのは、「自分のような性格の女と一緒にいるとあなたも不幸になるから離れて欲しい」という想い、もしくは「あなたの前では、私のような性格の女だって正直になれるんだよ。だから本当の友達だから」と言いたかったのかもしれない。

 終盤の展開は、琴音自身が崩れていく姿を描いている。
思い通りにいかない人生の儚さ、もがきながら生きていく女性の姿を描いた作品だったと思う。

アキちゃん

 この作品は、主人公ミッカーの小学生時代の回想から始まる。
ミッカーと同じクラスのアキちゃんの関係がひたすら書かれている。
ミッカーのクラスメイト達、怪しい宗教にハマっている友人、アキちゃんの兄が主な登場人物である。
主人公がなぜアキちゃんをそんなにまで憎んでいるのか?
その憎しみの原因とだんだん明らかになる意外な事実がある。
読者に対して、読み続けたいと思わせる好奇心を引き出すのが上手いと感じた。誰もが経験していると思われる小学校生活、印象に残っているクラスメイトの事を思い出させてくれた。
終盤では、主人公は大学生となりクラスメイトと偶然遭遇する。
そこでアキちゃんがどんな学生生活を送ったか知る。
主人公が抱いた感情に対して、私は「確かにそう思うだろう」と共感した。
また、アキちゃんという存在に対して、現代社会が取り組んでいくべきものであり、個人個人の捉え方や考え方の違いがまだまだあるので難しい問題でもある。

両作品に共通すると感じたこと

 私がアイスネルワイゼンとアキちゃんを読み終えて、三木三奈さんは人間の内面、とくにドロドロとした部分を描くのが好きな方なのかもしれないと思った。私自身も人間は綺麗なものじゃないと思っている。もちろん、見た目が綺麗な人、心も綺麗な人も大勢いる。
しかし、ほとんどの人が心の中にドロドロしたものをたくさん抱えていると感じている。私自身も心の中にドロドロが常に溜まり続けている。
だからラジオにメールを送ったり、人と話すこと、またこうやってnoteを通して書くことでスッキリしている。

 この2つ作品に対しては評価がかなり分かれると思う。
分かりやすくてハッピーエンド系が大好きという方は苦手だろう。
一方、ドロドロやスッキリしないのも大丈夫という方は安心して読める。
私は基本ハッピーエンドを好む方だが、不可解なものやドロドロとしたものだって自分が読みたいと思えば読み切ることは可能だ。
私は三木三奈さんの次回作が発表され次第、進んで手に取ってみようと思う。


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