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レモン味の個性

レモン味が好きだ。
小さな頃、サクマドロップスやペコちゃんの棒付きキャンディーなどを四六時中舐めていたが、決まって
レモン味から無くなった。それは甘ったるいくどさが無くて、爽やかで清潔な味だ。

友達同士で飴を交換し合う時も、レモン味(だと思われるもの。たまに間違えてパイナップルやハッカ味にあたった)を迷わずもらったし、逆に友達がレモン味を選ぶと、お気に入りが取られてしまったと内心しょげていた。
飴だけでなく、ガムでもシャーベットでも他のお菓子でもレモン味が選ぶようにしていたが、かき氷だけは例外で苺味を選んでいた。
レモン味では、唇と舌が赤く染まらないから。着色料で赤く染まる唇を見て、まるで口紅を塗ったようだ、大人になったようだと感じて嬉しかったのだ。

大人になった今はもう、飴やかき氷は食べないけれど、レモン味は変わらず好きだ。
私はお酒が好きで、ほぼ毎晩晩酌するが、ビールにはレモンを絞る。なので、コロナのようなレモンと相性の良いライトビールを好んで飲むが、ライムは入れない。コロナ生産国であるメキシコの人たちはレモンではなく、ライムを絞るらしい(ライムをたくさん生産しているから、値段も安い上に同じ土地で生まれたもの同士マッチするのだろう)が、私は絶対にレモン。絞ると、たちまちビールが健康的で、清潔な味になると思う。

言わずもがな、レモンは調味料としても万能だ。
例えば牡蠣にレモンをギュッと絞り、そのまま冷たい殻に唇をつけて、実もエキスもすすり尽くす。
あぁ至福!何と素晴らしい組み合わせ。
牡蠣を頼むとレモンの他にチリソースなど調味料が付いてくるがそちらには見向きもしない。(たまにソースだけを少し舐めてみて、やはりレモンが一番だと再確認はする。)
牡蠣以外でも、レモンはあっさりした白身のカルパッチョにも脂の多いトンカツなどの揚げ物にも合う。レモンを絞るだけで、何というか、料理そのものの格が上がるのだ。

料理にソースや醤油をかけたり、七味を振ったり・・嗜好は様々であっても、私はレモンが料理やお酒に添えてあると無条件にときめく。
太陽の光をいっぱいに浴びたみずみずしい果実はそれだけで特別だ。だって良い時期が限られている。
料理に添えるためだけに新鮮なものを買い求め、
皿を出す直前にナイフでカットするというところにも、相手を思う一手間を感じて、特別感を感じるのかもしれない。

タバコ、チョコレート、アイスクリーム、嗜好品はもちろん人それぞれだが、いずれにせよそれらは人生に彩りを与えてくれ、それぞれの個性までを縁取ってくれる。
甘いチョコレートが好きな〇〇ちゃん。苦いコーヒーが好きな△△さん。のように、嗜好品はその人の人格のイメージすら作っていると思う。
私にとってのそれが、レモンなのだ。
子供の頃、周りの女の子たちが、苺やぶどうなんかの甘いキャンディーやアイスクリームを選ぶ中、レモン味を好んで選ぶ自分を、内心こっそりと誇っていた。(私の周りにはレモン味を好んで選ぶ友人が少なかった。)
中性的な色。無骨な形。果物だけどそうではない独立的な感じ。選ぶ人が少ないマイノリティーさ。
レモンは私の果物だと思う。

レモン味の個性。それは未だに、ふとした瞬間に頭をもたげ、私を形づくり、支えてくれている。

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