見出し画像

【次世代ガバメント】多様化する「困った」を解決できる行政の作り方。

次世代ガバメント 若松恵(編)
2019年12月9日 日経BP
【要旨】
これからの行政のあり方は、最低限のコストで最大限のニーズに応える「小さくて大きい政府」にある。このため、現在の大量生産型である行政のOSを、デジタルテクノロジーによってアップデートする必要がある。

 これからの行政を考えるための指針になり得る本だと思います。一市民として、どう関わっていくのか、どう協力していくのか、再考するきっかけとなる本です。

 生産年齢人口の増加の見込みがない日本で、行政は多様化するニーズに適応できていない現状があります。SDGs、働き方改革、地方創生、循環経済、、、などに対する「公共」の存在感はますます薄れています。

 そのブレイクスルーとして、デジタルテクノロジーによる行政OSの大型アップデートを本書では挙げています。これまでも言われてきたことですが、本書はとてもわかりやすく、そしてアップデートしたことによる社会をポジティブに表現しています。

 とりわけ公務員の可能性はとても大きいです。本書では「戦う公務員」と定義しています。これまで通り、配給型の行政OSの考え方で仕事をするか、戦う公務員として市民の課題解決を目指してユーザー視点で仕事ができる環境にするか、分岐点に差し掛かっていると思います。

 以下、本書の内容を紹介しますが、この他にもたくさんのコラムが本書には掲載されています。

本書の内容

 これまでの行政のあり方

 大きな政府、小さい政府ともに多様化する「困った」をインクルージョンできないという課題がある。特に日本はOECD加盟国の中で最も公務員の割合の低い国家であり、ニーズの多様化に対応できていないのが現状である。

 日本の労働人口に対する公務員の割合は5.9% (2015年) と低水準かつ、公務員の残業問題も深刻である。
 *地方:約20時間 / 月
  国家:約70時間 / 月

(参考)
*大きな政府:政府が経済活動に介入し、公共の一切を管理運営
  ・メリット→国民がある程度平等に社会福祉を享受可能
  ・デメリット→財源が不足、サービスの質や効率の低下
 小さな政府:政府が最低限の公共のみ管轄、公共サービスを民営化
 ・メリット→競争原理でより良いサービスをリーズナブルに提供
 ・デメリット→儲かるビジネスのみ生き残り、不平等が生じる


 これからの行政のあり方

 ニーズの多様化に対して、これからのガバナンスイノベーションは「小さくて大きい政府」として、少ない財源で大きく公正なシステムを作る仕組みが必要。このため、現在の大量生産型である行政のOSを、デジタルテクノロジーによってアップデートしなければならない。

 *大量生産型の行政OS
  ・メリット→同じものを大量に生産することによる低コスト化
  ・デメリット→多様化したニーズに対応できない


 インフラストラクチャーとしての行政

  小さくて大きい政府の目的である「誰も排除されないインクルージョンな社会」を達成するために、デジタル空間の中に公共性の高いインフラを構築することが必要である(デジタルインフラの構築)。

 デジタルインフラの構築のために、全国民を1つのインフラ基盤に乗せる必要がある。

マイナンバー(デジタルID)
 ・税金の支払い
 ・医療データの管理
 ・ビザ申請
 など一括管理。行政のスリム化、国民による政府や政治家の監視が可能。

オープンAPI(Application Programming Interface)
 行政府が用意した「規格」で、使用したい人が自ら実装可能(GaaS)
 →ビジネスで、公共インフラを自発的に導入するよう誘導
  G to B to C(ガバメント to ビジネス to 市民)の体系へ
  デジタルインフラ上で市民ネットワークを有用化


 次世代の公務員の役割

 公務員の役割は「コミュニティーマネージャー」(新しい公民連携)
 → 起こしたい変化の設定
 → 必要なアウトプットの仮説検証(スモールスケール)
 → 繰り返す
 *地域レベルで「困った」を解決していく(シビックエコノミー)ことで
  多様化する「困った」をインクルージョン可能。

◾️公務員をコミュニティーマネージャーとして活用するための課題

・テクノロジーの導入による自動化
 →現在の公務員の仕事の90%をカット
 →市民の課題解決に取り組む時間の確保

・ユーザー視点を徹底
  サービス供給者の都合に合わせる形ではダメ(逆算思考)
  サービスが目的でなく、変化を指標にする(アウトカム)
   → 変化のために必要なサービスは?(アウトプット)
   → そのために必要な活動は?(アクティビティ)
   → その活動に必要な原資は?(インプット)

・課題と答えをセットに
  受益者(市民)の課題を理解する必要がある
  スモールスケールで実地実験し、仮説検証を繰り返し精度を高める

◾️その先のシビックエコノミー(市民サイドの問題を市民で解決)

・IT技術を利用したスモールビジネスの促進
  行政によるプラットフォームを利用
  ITインフラを利用した低コストで低リスクのスモールビジネスを振興

・配給型から循環経済へ
  外部にお金を吸い取られない方法を模索(輸入置換)
  →地域のサステイナビリティ(自分たちで調達可能な物は?)


おわりに

 私はいちサラリーマンですが、行政には可能性を感じていますし、行政にしかできないことはたくさんあります。

 しかし、ニーズが多様化している現在において、行政が一括で管理するという現行のシステムには限界があるのかな、とも思います。そのため、行政が整備するインフラのもとで、個別のサービスを民間に委ねる必要がある、という本書の提案にはとても説得力があります。

 以上、とても良書でした。



ヘッダーは、愛媛県新居浜市の「みんなのコーヒー」でテイクアウト。お店の裏の海岸から。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?