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誰かの幸せが誰かの不幸に、そしてまた誰かの人生に繋がる/湊かなえ『サファイア』、『ガーネット』

素敵な短編作品を紹介したい。そう思って「短編はいいぞ」というマガジンを作成したはいいものの、全然更新していない。しかも最近あまり趣味の本を読んでいない。でもなんか更新したい。

そんなことをぐるぐる考えて、とりあえず過去に読んだ作品から何か記事を書いていくことにしようかな、と。

「短編はいいぞ」マガジンの前回の更新はマンガ作品だったので、今回は小説を。

湊かなえさんの『サファイア』と『ガーネット』。

どちらも『サファイア』(角川春樹事務所)に収録されている短編。確か大学生のときに友人が「面白いよ」ってすすめてくれたから読んだんだったかな……(記憶力が悪くてうろ覚えです)。

湊さんの作品は他にもいくつか読んだことがあるけれど、『サファイア』が一番好き。

前半は大学生カップルの少女マンガみたいな恋模様が描かれる。人に何かをねだることはもちろん、物をもらうこと、何かをしてもらうことも苦手な主人公の「わたし」が彼と偶然出会い、仲を深めていく。彼からのプレゼントに素直に喜べるようになって、今度は彼のことを考えて誕生日プレゼントを贈る、という丁寧な心境の変化が読んでいて微笑ましい。

よくよく読むと携帯電話がまったく出てこなかったりと時代設定が一昔前だなとわかる。けれどそうした時代のギャップを感じさせない自然な描写で、中学生からケータイを持っていた私みたいな人間でもストレスなく読めるのが結構良い。

とまあ、ここまではありがちともいえる恋愛小説なのだけど、主人公が二十歳の誕生日のプレゼントに指輪がほしいと言い、誕生日の前日に彼と待ち合わせる、というところから不穏な雰囲気になってくる。

その後は嘘やろ……とつぶやきたくなる意外な展開。悪い方向に進んでいく話に、あのときこれを言わなければ、これをやらなければと思わず想像してしまい、読みながら主人公と一緒に私も後悔の気持ちに襲われてしまった。でも別に主人公も彼も、悪意を持ってその言葉を発したわけでもそんな行動をしたわけでもない。どんなに誠実に生きていても偶然に偶然が重なってどうしようもないことも起こるものなのだなと悲しくなる。

最後はもやもやとした後味の悪さで幕を閉じ、やっぱり湊かなえだったか……と思う話。でも私は中途半端なバッドエンドが好物なやばいオタクなので、こういう話は大好きですね!(満面の笑み)

だけど私と違って「バッドエンドは嫌だ~!」という人は、ぜひとも『ガーネット』も読んでほしい。『サファイア』の続編になっていて、後味の悪さを和らげてくれる前向きな終わりになっている。

ちょっとだけ中身に言及すると、社会人になった主人公は会社員を経て小説家になっている。描写の数々に垣間見える主人公の人柄や書いた小説の作風や評価が、どことなく湊かなえさん本人っぽいのが面白い。あくまでも「ぽい」だけで本当に本人がモデルなのかは知る由もないけれど。

主人公が作家になってから出会ったりする人が、『サファイア』の時期の出来事と関わりがあって意外な事実が明らかになる。『サファイア』はひとことで表すと「偶然に偶然が重なった結果の不幸」だけど、『ガーネット』は「偶然に偶然が重なった人と人との繋がり」だ。しかもちょっとあったかくて、主人公の心を救ってくれる切ない繋がり。

そういえば両作品とも、主人公がたびたび彼の出てくる夢を見るという不思議なシーンが出てくる。もしかすると「偶然」ではなくて彼の念というか想いみたいなものが、夢を通して主人公が幸せになれるように導いたのかもしれない。『ガーネット』のほうは特に。


以上、2作品セットで読んでほしいなという『サファイア』と『ガーネット』でした。何気ない言動が回りまわって、良くも悪くも誰かの人生を変えている。『サファイア』は「悪くも」の部分を、『ガーネット』は「良くも」の部分を表しているのかなと思う。そういう2対の物語。

それにしても短編をネタバレなしで紹介するのって難しい。極力ぼかしたけど展開が読めてしまった勘の良い人はごめんなさい。逆にぼかしたおかげで何書いてるかわかんねえよという人もごめんなさい。

あと私はバッドエンドも好きだけど普通にハッピーな終わり方の話も好きなので、緒霧って病んでるやべえやつなんだなとか思って引かないでくれ!なにとぞ!

それでは。



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