見出し画像

(ネタバレあり)映画「君たちはどう生きるか」感想

作品は、観る人ごとに違う感想があると思います。特にこの映画は、他の方のレビューをみても、さまざまな「読み」が可能な映画のようです。映像が説明されないまま差し出されるので、イメージの連なりをそのまま観ている感じになり、まるで自分自身の夢(眠ってみる夢)のように、直接身体に染みてくる。だからこそ、自分自身の物語と響き合う体験をした人はきっとたくさんいて、観た人の数だけ読み方がある。そしてたとえ自分の読みを言語化できなくても「何か自分にとって大事な、素晴らしい映画だった」と感じるのではないでしょうか。
そんな感触の中で、私の「読み」を書いてみようと思います。
 
私にとってこのお話は、少年が母という人を捉え直し、成長する話だと思いました。
映画の冒頭、主人公・マヒトは入院中のお母さんを火事で亡くし、失意のまま新しい義母・ナツコさんの実家で暮らすことになります。
このナツコさんは、ひたすら色っぽく描写されます。きれいなくるぶし。つややかな唇。たおやかなしぐさ。義母というより、父に愛されたい一人の女性。
主人公はお母さんの死を整理できないまま、相当混乱したのではと思います。
そんな中で、塔の中へ消えたナツコさんを助ける決意をするマヒト。下の世界へ導かれ、キリコさんと出会います。
キリコさんはたくましく彼を導き、この世界を教え、アオサギと仲直りさせ、主人公が先へ進めるよう背中を押します。
別れ際、キリコさんに抱きつく主人公。あたたかく抱きとめるキリコさん。
それからヒミ。彼女は同年代の少女として、マヒトの前に現れます。マヒトを導き、共に冒険します。才気溢れ、明るく元気な少女。

映画の冒頭で出てきた「お母さん」の姿は、優しくはかない女性、というぐらいの描き方しかされていないように見えました。それに比べ、ナツコさんやキリコさん、ヒミのなんて人間的なこと!美しい外見の裏で孤独と不安に押しつぶされ、塔へ入ってしまうナツコさん。しっかりと船を漕ぎ、魚の内臓をものともせず捌ききるキリコさん。ヒミなんて、ペリカンに食べられるのを防ぐためとはいえ、炎で一定数のワラワラを焼いてしまったりします。
これらはすべてもしかすると、マヒトのお母さん・ヒサコというひとりの人間の中にあった、いろんな側面だったのではないでしょうか。

小さな自分を守ってくれる温かくて優しいお母さん、というイメージの中に埋もれていた、ひとりの人間、ヒサコ。ヒサコに助けられ、導かれ、最後マヒトは自分の弱さや卑屈さ、世界のままならなさと向き合いながら、希望を持って現実の世界で生きることを決断し、今度こそお母さん(義母であり、ひとりの人間としてのナツコさん)を自身の手で取り戻すことに成功した・・・。
そういうお話だと感じました。

一方で、お父さんの存在もすごく重要で、塔の中で精神的な作業が行われている間、お父さんが外の世界の現実的な処理をちゃんとしている。学校への対応などずれたところもあるけれど、戦時中なのに事業で稼げているのは、現実的な算段に秀でているからだと思います。このお父さんが現実世界でしっかりやっていることが重要で、お父さんまでこの精神世界に引き込まれてしまったら、とても危険なことになっていたと思います。(そして、そんなお父さんだからこそ、彼は塔で起こったことを、最後まで理解できないだろうと思います。)
以上が、私の中の物語と響き合ってできた「読み」です。
 
※映画を観た後、Youtubeで「おまけの夜」さんのレビューを観て、とにかく感動しました。
本を介して親子が時空を超えて互いを癒やし、希望を持って生き抜く話。ミレーの「種をまく人」。
ああだから、私は主人公に救われたと思ったんだなあ。
確かに、自分の撒いた種が育っていくのを見届けたら、ああもう大丈夫、と思うなあ。
そんなことを思い、胸が熱くなりました。
よければぜひ観てみてください。
 
おまけの夜さんレビューはこちら↓
https://youtu.be/Mtgra3hSjxA
 

#映画感想文

この記事が参加している募集

#映画感想文

67,817件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?