7-6.俺はポケットからシャープペンシルを取り出して指先で軽くはじく。

 俺はポケットからシャープペンシルを取り出して指先で軽くはじく。こんなことでもしていなければ、急に口を開けたどす黒い闇に飲み込まれてしまいそうだった。

「ゲームのルールは?」

 自分の声がなんだか遠くに聞こえた。みんなが一斉に俺を見るのがわかった。

「俺には、やつらがなんのために俺たちをゲームに参加させるのかはわからない。ただ、このゲームには離脱はなさそうだ。そして、あらゆるゲームには勝ちもあれば負けもある」

 唾を一回、飲み下すと、スピーカーと、その向こうにいるであろう誰かを凝視した。

「どうせ悩む時間もくれないんだろ? だったら―」俺はクルクルと回していたペンを強くはじくと、そのまま強く握った。「ゲームを早く始めてくれないか?」

 みんなが息をついた。ジュンペーは小刻みに何度もうなずいた。トシはスピーカーに顔を向けて眼鏡を押し上げた。ヒロムはもう一度、拳で手のひらを叩いてニヤリと笑った。

「やるもやらないも選択肢がないんじゃあ、やって正面突破するしかねえよな」

 再びゲームへの参加を決意した俺たちは、じっとパペットマスターの言葉を待った。この応接室以外の状況はまったく把握できない。パペットマスターは、どのぐらい俺たちの家族のことを知っているのだろうか。もしかしたらアルミの映像は、ただのはったりじゃないだろうか。

 わずかな沈黙がいろいろな妄想をかき立てる。耐えきれずに、からからに渇いた喉から声を絞りだそうとしたそのとき、かすかなノイズとともにスピーカーからパペットマスターの声が聞こえてきた。

『とても賢明な判断です。なお、わたくしどもの体制はご存じかと思いますが、この学園内でのみなさまの行動は校内の監視カメラや、わたくしどもが独自に設置したウェブカムによって把握されています。ひとりでも不必要な行動をした場合は、然るべき対応を行います。わかりますよね?』

 俺たちはあらためてお互いの顔を見回すと、小さくうなずいた。

『すばらしい。では早速ルールを説明しようと思いますが、その前にもし既にアルティメット・ミッションのアプリをスマホから削除している方がいれば、今ここで再度インストールしてください』

 俺は自分のスマホを取り出すと、パペットマスターの指示に従った。ヒロムもジュンペーも自分のスマホを取り出して操作している。インストールを終えると、前に使っていたアカウントでログインしてみる。俺たちのページは、俺たちが断ち切ったときのまま、俺たちを待っていた。

『ゲーム中の細かな指示はアプリを通じて行います。落としたり、壊したりしないよう、いつもどおりスマホを肌身離さず持ち歩くことをおすすめします』

 次の瞬間、手の中でスマホが震えた。アルミの画面にウインドウがポップアップしている。『ルール説明を始めます』という文字を確認した俺は、大きく息を吸うと、OKと書かれたボタンをタップした。ほかの三人も俺と同じようにスマホの画面をタップする。

『全員の参加を確認しました。ではルールを説明します。チーム〈キセキの世代〉のみなさまには、チーム〈ジェミニィ〉と各フロアで行われるゲームで対戦していただきます。ゲームはサバイバル形式で行われ、勝負に敗れるたびに負けたチームから一名の方に脱落していただきます』

「脱落ってのは、なんだ?」すかさずヒロムが聞き返す。

『言葉どおりの定義ですよ。可及的速やかにゲームから離れていただく、ということです』

 ペナルティなしでゲームから離れるだけ? まさか?

「ならば、いきなり四連敗してゲームから降りるのもありなのだが?」

 眼鏡のフレームを指先でトントンと叩きながらトシがつぶやいた。

『今回のゲームは、対戦相手のチーム〈ジェミニィ〉が問題を用意し、チーム〈キセキの世代〉のみなさまが挑むというかたちで行われます。ですから、わたくしどもとしては、みなさまに全力でゲームに取り組んでいただくことを強く希望するのみです』

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