7-4.『―あの、どうして誰も応接室まで来ないのです? ひとりで待っているのは不安なのです』

『――あの、どうして誰も応接室まで来ないのです? ひとりで待っているのは不安なのです』

 なぜか取り残されたかたちになっているジュンペーからのメッセージを見て俺は息をついた。どこか張り詰めていた部分があったのかもしれない。昼メシの賭けについてはあとで考えるとして、今は応接室から校内に入ってアルミのゲームサーバーを調べることが最優先だ。

 同時にユウシのことも。

 根拠はないが、ゲームサーバーを調べる過程にユウシが残したなにかがある、と感じる。そして、それは俺たちの知らない真実を明らかにしてくれるはずだ。

 応接室の前に向かうと、ヒロムが慣れた手つきで窓枠に手を添えたところだった。

 息を呑んで見守っていたジュンペーが、俺とトシの足音に気づいてこちらに振り向く。

「あ、イチくんとトシくんが来たのです」

「東側は、どの窓もがっちりカギがかかっていたのだ」

「僕たちが調べた西側の窓も同じなのです」

 ふたりの話を合わせれば、入りやすそうな窓は、この応接室の窓だけということになる。俺は地面から一五〇センチほど上にある腰高窓と、その窓をゆっくりと持ち上げるヒロムを見た。

「トシ、この窓には防犯センサーはついてないんだよな?」

「自分が調べた限りではついていないはずなのだ」「わかった」

 ヒロムは持ち上げた窓を軽く落とした。一回、二回……。たまに左右に窓枠を動かしてみては、そのまま五分ほど窓を落とし続ける。

「……開いたぞ」

 ヒロムが軽く力を入れて窓を左に動かすと、鈍い金属音がして窓がわずかに開いた。トシが言ったとおり、防犯センサーはついていないみたいだ。ヒロムは、そのまま静かに窓を開けていく。

「窓って、こんな簡単に開いてしまうものなのですね」

 ジュンペーがぼんやりと窓を見ながらつぶやいた。まったくだ。これじゃ防犯にはなりゃしない。

「ドアをつけておけば安全。などとマイクラみたいにはいかないのだよ、現実は」

 トシは窓のレールに手をかけると、両腕でぐいっと自分の身体を持ち上げて壁に足をかけた。

「室内はクリア。このまま侵入するのだ」トシの身体が窓枠の向こうに消える。

「ジュンペー、次はおまえだ」ヒロムが両手を組んで、足場を作る。「ほら、早くしろ!」ヒロムの手に足をかけたジュンペーをトシが上から引き上げる。

「おまえ、もう少し自分でのぼる努力をするのだよ」「ど、努力はしているのです」

 足をバタバタさせながらジュンペーが窓枠の向こうに消えると、ヒロムがちらっと俺を見た。俺はうなずくと、ヒロムの手に足をかけて一気に窓枠を越えた。

 初めて入った応接室は、中央に革張りの立派なソファーセットと天板がガラスになったローテーブルが置かれ、壁沿いには重厚な木製キャビネットが三台が並んでいた。キャビネットの中身は、ギラギラと輝くトロフィーや皿、賞状の入った額といった記念品ばかりだ。

「どこを探すにしても、まずはこの部屋がスタート地点になるわけだ」

 背後で声がしたので振り返ると、ひとりで窓枠を越えてきたヒロムが窓を元どおりに閉めていた。

「なにかあって外へ出なくちゃいけない場合は、できるだけこの部屋の窓を使え。さっき見てきたように他の窓は警備も厳重そうだ。用心するにこしたことはねぇ」

 俺たちは無言でうなずく。続けてトシが自分のスマホを操作した。全員のスマホが軽く振動する。

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