7-9.ところどころ音声が途切れるので、はっきりとは聴き取れなかったけど中継音声はたしかにそう言った。

 ツ・シ・マ・ユ・ウ・シ。ところどころ音声が途切れるので、はっきりとは聴き取れなかったけど中継音声はたしかにそう言った。なんだこれ。なんなんだこれは?

「クソ。どうしてあいつが、ユウシがあそこにいるんだよ」

 怒りと困惑が入り混じったヒロムの押し殺した声に、俺ははっと気づいて、もう一度画面を見た。

 スマホの画面越しにこちらを見ている男は、たしかにユウシによく似ている。本人だと言われても信じてしまうだろう。でも俺たちは病院で眠り続けるユウシの姿を見てきた。あの姿もまた現実だ。そして、なによりも、この男は名前が違う。

「ユウシの名前は最後のひと文字が、弁護士の士、サムライとも読める字だ」

 俺は目を細めてスマホを見た。画面に映る祐市の文字。でも俺が知っているのは祐士だ。

「つまり、こいつはユウシであってユウシじゃねえってことか?」とヒロムがスマホを指して言う。

「まあ、証拠なんてどこにもないけどな」

「あ! 証拠はあるのです。ちょっと待ってくださいなのです」

 俺の言葉を遮ってジュンペーが自分のスマホを操作し始めた。ニセユウシの姿はバックグラウンドに追いやられ、その代わりに昨日、ユウシの家で撮った写真が画面に映し出される。ジュンペーは撮りためていた写真を次々に送ると、ある写真を二本の指でぐいっと拡大した。

「これはユウシくんの卒業アルバムに挟まっていた住所録の写真なのです。ここ、見てください」

「対馬祐市と書いてあるのだよ!」頭の上からトシの声が降ってきた。

 おそらく小学校で配布されたであろう住所録。備考欄に兄として、その名前があった。ユウシとは同じ学年で別のクラス。先生が読み方に困ったのだろうか。名前には丁寧にルビが振ってある。

 ツシマ ユウイチ――

「これが本当だとすれば、なぜユウイチはユウシと名乗っているのだよ?」

「それは……」俺は返答に詰まってしまう。

「なんだっていいじゃねえか。どんな理由にせよ、あそこにいるヤツが俺たちの知りたいことを知ってる黒幕ってことだ」

 ヒロムがぴしゃりと言った。たしかにユウイチが、ユウシの事故やこれから行われるゲームについて、なんらかの真実を知っていることはまちがいない。

 スマホを見つめる俺たちに向かってユウイチが薄く微笑んだ気がした。

『チーム〈キセキの世代〉のみなさん。最初のフロアへようこそ。僕は今、きみたちもよく知っている学園のコンピュータールームからこの映像を届けている』

 ユウイチは原稿を読み上げるニュースキャスターみたいに冷静な声で話し続ける。

『最初のゲームは、このフロアを使った〈狐狩り〉だ。今、みなさんがいる北西の踊り場をスタート地点として、南西方向に続く廊下にマス目が描かれているのが見えるだろうか。そのマス目は、そのまま南西の踊り場から南東の踊り場を経由して、最後は北東の踊り場へと校舎をぐるっと回るように続いている。たとえるならUの字のようなかたちだ』

 言われてみればビニールテープを使って等間隔に引かれた線が廊下で鈍く光を反射している。

『みなさんには〈狐〉としてマス目を通ってゴールである北東の踊り場に移動してもらう。一回の移動で移動できるマスは最大で四マス。四マス以内であれば進んでも戻っても立ち止まっても構わない。マスの数は全部で三二マスあり、スタートとゴールのマスは含んでいない。一六回目の移動終了までにゴールにたどり着くことができれば、みなさんの勝ちだ』

「全三二マスを最大四マスの移動で割れば八回。つまり最短ゴールは九回の移動でできるのだよ」

 すかさずトシが計算する。ジュンペーが「なんで九回なのです?」という顔をしたが、あとでフォローすることにして、今はスマホから流れるユウイチの説明に耳を傾けた。

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