4-19. 突然のことに状況がうまく飲み込めていなかった。

 突然のことに状況がうまく飲み込めていなかった。でも、ヒロムはおかまいなしだった。いきなり左手ひとつで俺の襟首を締め上げると、その体勢のまま、改札横の壁へ俺をぐいぐいと押し込む。にぶい音とともに背中から壁に叩きつけられた俺は、口から空気の塊を吐き出した。

「ま、待った、ヒロム。ここじゃマズいって」

 いくら周囲の人が無関心を決め込んだところで、駅員までもが職務を放棄するとは思えない。

「そんなことをいって、また逃げるつもりじゃねえだろうな」

「みんなに話したいことがあるんだ。逃げやしないさ」

「……そりゃあ良かった。こっちも聞きたいことがあるんだ」

 ヒロムが俺の目を見すえたままで言う。俺もヒロムから視線をそらさずに小さくうなずく。

 伝えなくちゃいけない。たしかめなくちゃいけない。

 俺はヒロムの横を通り抜けると、駅前から続く路地へと入っていった。

 お互いに三分ほど無言で歩き、路地裏にある小さな公園に入る。ベンチと水飲み場がひとつずつしかない公園は、入り口を除いて俺の頭の高さほどもある生垣に囲まれている。まだ、陽は高いはずなのに、生垣が西日をさえぎっているため、公園はすっかり陰に覆われており、誰もいないうらさびしい空気と合わさって、ここだけ見捨てられたかのような雰囲気が漂っている。

「……ユウシがな、『チームを解散する』って言いやがったんだ」

 ヒロムは、地面に打ち捨てられていた空のペットボトルをクツの裏で踏みつぶしながら言う。

 俺は、予想もしていなかったユウシの発言に困惑してしまう。あんなに「みんなを守る」ことに自信満々だったのに、どうして「チームを解散する」なんて話になったんだ?

「……俺と話しているときには、解散なんてひとことも言わなかった」

 肺の奥に溜まっていたドロドロとした空気が、言葉とともに流れ出す。

 ヒロムは「わけがわかんねえ」とつぶやいて、首を振った。

「俺が立ち去ったあと、ヒロムたちはユウシとどんな話をしたんだ? 教えてくれないか」

「……ユウシは最初、おまえがアルミをやめるからチームを抜ける。そう言った」

「それ以外は、これまでどおりにアルミを続ける?」

「ユウシの考えはそうだった。でも、おまえとユウシの言い争いを聞いていた俺たちにして見れば、なんの説明もなく、はい、そうですかとは言えなかった」

 あのときのユウシの言葉を思い出す。みんなと一緒に頂点に立とうと願う強い意志。それを達成できるという自分への絶対的な自信。

「でも、ユウシは説明しなかった」

「ああ。だから、納得したわけじゃねえんだけど、俺とトシはひとまず、ユウシとミッションに取りかかることにした。マジな話、ランクもガンガンに下がっていたしな」

 アルミリークスの話を知らなければ、その選択肢は充分にありうる。つまり――

「非常ベルを鳴らすミッション、やっちまったのかよ!」

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