8-2.俺はスマホに映る一挙一動を見のがさないように注視する。

 俺はスマホに映るユウイチの一挙一動を見のがさないように注視する。

 ユウイチは一〇回目のチェックに今度は三〇マス目を選んだ。でも、そこには誰もいない。

『自分の読みが正しければ、ユウイチが次にチェックするのは三一マス目なのだよ』

 トシはそう言って一一回目の移動を二九マス目で終えた。次の移動でゴールに入ることができるギリギリのマス。そしてトシの読みが正しければチェックに引っかからないマス。

 そしてユウイチは三一マス目をチェックした。トシの眼鏡が向こうでキラリと光った気がする。

『自分は九回目のチェックからユウイチはゴール前を固めることに決めたと読んだのだよ』

 一二回目の移動が始まって、すぐにトシが言った。

『九回目のチェックは三一マス目。一〇回目は三〇マス目。一一回目は三一マス目』

 つまりユウイチはゴール前の一定範囲をカバーするように交互にチェックするマスを切り替えている、というのがトシの言い分だった。

『この移動が終わったときに二九マスにいたら、あいつのチェックに引っかかるってことかよ?』

 三回続けて二マスずつの前進を強いられてきたヒロムが、今度は二マス以下の移動になるかもしれないと知っていらだちを見せる。

『あくまでも安全策を取るならばの話なのだよ』

 トシはそう言いながらゴールへ入ると、パペットマスターのセレモニーを無視してさらに続けた。

『わかっているのは、二九マスより先に進めば次のユウイチのチェックにかなりの確率で引っかかるということなのだよ』

『僕もここは慎重に進んだ方がいいと思うです。ゲームオーバーまであと四回移動できるのです』

 ジュンペーの言葉にも後押しされたヒロムは『わかったよ』と言って移動を終える。

 ヒロム、二七マス目。ジュンペー、二四マス目。ユウイチのチェックは三〇マス目だった。

 そして一三回目の移動。ヒロムは二九マス目、ジュンペーは二六マス目でストップ。ユウイチは三一マス目をチェック。残る移動回数は三回。

 ようやく俺のいる踊り場から教室ひとつ半ぐらいのところにジュンペーの姿が見えた。

『ユウイチくんの次のチェックは、やっぱり三〇マス目なのです?』

『今までの流れで言えば、そうなるのだよ。もっとも』トシが眼鏡に手を添えて言う。『ここで二九マスをチェックして、二八マスから三〇マスを確認することも可能性としてなくもないのだ』

 ユウイチが残りの移動回数を考えて、ゴールより少しだけ手前のマスをチェックする。トシが言ったのはそういう可能性だった。もちろん、もっと手前のマスをチェックする可能性もある。

『よし決めたのです! 次の移動はひとマスだけ進むのです!』

 メッセージを送ってきて、すぐにジュンペーが両手を振った。あくまでも慎重策。でも悪い判断じゃない。俺たちはOKと返信をする代わりに、ジュンペーに向かって軽く右手を挙げた。

 一四回目の移動。ジュンペーは予定どおりひとマスだけ移動して二七マス目で足を止める。

 そのときスマホの中でユウイチが微笑んだ……気がした。

『二九マスをチェックで』

 少しだけ手を変えてきたユウイチだったけど、慎重策を取ったジュンペーは網にかからなかった。

 残りの移動回数はあと二回。ゴール前を指定してくるだろうユウイチのチェックを一回避けることができれば、残る一回はゴールに入るだけになる。

 俺がノートに描いたマス目の図を指先で数えながらヒロムが言った。

『ゴールするためには二九マスから三一マスのどのマスで移動を終えるかがカギだな』

『トシくん。ユウイチくんは三一マス目をチェックするのではないのです?』とジュンペー。

『その可能性は低いのだよ。さっきのチェックで二八マス目に誰もいなかったとユウイチは知ったはずなのだ。そしてそれは今回の移動で三二マス目に誰も移動できないということなのだよ』

 だから一四回目の移動ではどうやってユウイチのチェックを避けるのかが課題。でも、なにかが俺の中で引っかかっていた。本当にそれだけなのか?

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