6-11. 実際のところ、世間では「原因不明」とか「動機が定かではない」という事件が、毎日のように起きている。

 実際のところ、世間では「原因不明」とか「動機が定かではない」という事件が、毎日のように起きている。そのうちのいくつかがアルミに関係しているかもしれないと想像してみるといい。もしきみたちが、それをリアルに感じられればプレイヤー側、誇大妄想だと笑えるのであれば一般側だ。

 話を元に戻そう。僕は、これらの仮説をたしかめるとともに、パペットマスターの実態に近づくため、アルミの、特に裏ミッション実行時のまわりの動きを調べてみた。幸か不幸か、僕の兄もかなりの高ランク・プレイヤーだったので、彼が裏ミッションに手を出せば、機会は容易に手に入った。

 ここで重要なのは、ピラミッドの底辺でゲームの準備を手伝っている働き蜂じゃない。必死になってパズルのピースを運んでいるプレイヤーでもない。複雑なパズルが少しのズレもなく組み上がるように、ミッション全体をリアルタイムでコントロールしているゲームデザイナー的な人物の存在だ。

 少し考えてみてほしい。各地で同時多発的に行われているミッションをパペットマスターがひとりでコントロールできるだろうか。非合法な仕事の成功を目的とする裏ミッションを不安定なプレイヤーの行動に任せきりにするだろうか。僕の予測では、どちらもノーだ。アルミの運営構造や、成功を目的とする裏ミッションの存在を考えると、ピラミッドの頂点と最下層の間にプレイヤー以外の存在、プレイヤーを束ねる役割を持ったゲームデザイナーがいると考えるほうが合理的だ。

 つまり僕は、裏ミッションに参加しながら、裏ミッションそのものをコントロールしているゲームデザイナーを探していたといってもいい。そして、ゲームデザイナーはミッションが行われる場所の近くにいるはずだ。不測の事態に対応するには、ネットワーク経由よりも実際に動くことができる環境のほうがいい。失敗が許されないミッションであれば、なおさらだ。

 また、アルミのゲームサーバーの所在地も、ゲームデザイナーにとっては重要だ。知っているとは思うが、ゲームサーバーが実施地域よりも遠い場所にあると通信の遅れが発生する。リアルタイムで進行するミッションをコントロールするのに、この遅れは致命的だ。もちろん、視聴者が集中する人気チームのミッションであれば、サーバーにかかる負担はさらに増える。

 ようするにアルミは、ゲームをコントロールするゲームデザイナーも、それを運営するゲームサーバーも、一定の地域ごとに分散して設置されている、と考えていい。そこまで推測できれば、僕の地域をコントロールするゲームデザイナーと、ゲームサーバーの場所は、すぐに特定できた。

 これから僕は、ゲームサーバーを調べに行く。僕の動きに釣られて、この地域のゲームデザイナーも、パペットマスターもなんらかのアクションを起こすはずだ。きみたちが、このメールにたどり着いた理由が、僕の身に起きたなにかに起因するものだった場合に備えて、僕からきみたちにひとつだけ、忠告をしておく。

“おまえが長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくおまえを見返すのだ”

                                 七月二一日 対馬 祐士


「ユウシくんは、ゲームサーバーを調べに行った次の日に事故にあったのですね」

 俺たちの席だけを取り巻く重い空気を思い切って破ったのは、ジュンペーだった。

「ユウシくんは、ゲームデザイナーを見つけられたと思うですか?」

「さあな。どっちにしても俺たちが、先に進むとすればユウシの足跡を追うしかねえ」

 ヒロムが腕組みをして俺を見た。

 ユウシの足跡を追うには、ゲームサーバーのある場所を特定しなくちゃいけない。データ通信に適した環境があり、都心から交通の便が良く、なによりも多くのプレイヤーがアクセスしやすい場所。

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