8-1.二回目の移動を始める前、俺はみんなに「前の人に二マス以上近づかずに移動する」ようにメッセージを送った。

 二回目の移動を始める前、俺はみんなに「前の人に二マス以上近づかずに移動する」ようにメッセージを送った。こうすればユウイチがチェックする三マスの範囲にふたりが同時に入ることはない。偶然に当たる確率を三分の一にするか、三分の二にするかでは大きく違うはずだ。

 二回目の移動で俺は四つ進み、七マス目に移動した。同時にトシが四マス目に、ヒロムがひとマス目に移動する。ジュンペーはまだスタート地点で待機をしたままだ。

 ユウイチは六マス目をチェックすると、今度はそのまま六マス目をハントした。

 “Failure”

 二回目の捕捉をやり過ごした俺は確信していた。ユウイチは先頭を進む俺に的を絞っている。俺を見失うことがあれば、こちらの動きに疑心暗鬼になって、あちこちチェックするだろう。その間に俺たちはゴールに向かって進めばいい。気をつけなければいけないのは、残りの移動回数だ。

 結局、俺の描いた筋書きどおりに三回目、四回目、五回目、六回目とユウイチは失敗を続けた。この間にチェックで捕捉されたのは三回目だけ。ユウイチは完全に俺たちを見失っていた。

 六回目の移動が終わった時点で、俺は二二マス目、ちょうど南東の踊り場にいた。後ろに続くトシは十七マス目、ヒロムは一三マス目、ジュンペーは一一マス目にあたる南西の踊り場にいる。

 最短九回の移動でゴールに入れるわけだから、俺がユウイチならそろそろゴール周辺のチェックを多くして、少しずつ狭くなる調査範囲の中で狐を追い込んでいく。

「ここから先はゴール前でのチェックが激しくなると思う。移動回数に余裕があるなら、無理に進まずにその場で立ち止まったり、戻ったりするのもいいかもよ」

『承知したのだよ』『わかった』『わかりましたなのです』

 俺が送ったメッセージにすかさず三人から返信がきた。案の定、ユウイチはチェックするマスをゴール前の十マス前後に切り替えてきた。必然的にチェックで捕捉される回数が増える。

 七回目の移動はやり過ごしたものの、八回目の移動でトシが捕捉された。ハントはされなかったもののユウイチの出方を警戒したトシは九回目の移動で二マス下がって様子を見る。

『ここは後ろ向きに前進なのだよ』というトシのメッセージは全員でスルーしておいた。

 一方、俺は九回目の移動を三〇マス目で終えた。だから八回目でトシを捕捉した二五マス目付近を凝視していたユウイチが、いきなり三一マス目をチェックすると言ったときには身がすくんだ。

 まさかユウイチはトシが先頭じゃないと読み切った?

『―三一マス目をハント』

 しんとしたユウイチの声が廊下に響いた。俺は思わず大きく息をつく。

 俺の息継ぎが聞こえたのだろうか。ユウイチは“Failure”の文字が画面に表示されるよりも先に舌打ちをすると、ノートに書いてあったなにかをぐしゃぐしゃと打ち消すようなしぐさを見せた。

 俺はそのまま十回目の移動でゴールへと飛びこんだ。スマホのスピーカーから安っぽいファンファーレが流れる。続いて異様なまでにはきはきとしたパペットマスターの声。

『チーム〈キセキの世代〉難波一くん。最初のゲームをクリアです。おめでとうございます!』

 おめでとうもなにも、まだ全員がゴールしたわけじゃない。それに今の放送でユウイチは、少なくとも先頭を進んでいた俺がひとりだったことを知った。残り移動回数も少なくなり、これから先は全員がゴール前に集まり始める。ゲームの流れがユウイチの側に傾きつつあった。

 あらためてメッセンジャーで全員の位置を確認する。今の先頭はトシだ。

『こちらは二七マスにいるのだよ。次は二九マスまで移動する予定なのだ』

『二四マス目。トシ、チンタラしてるとケツ蹴り飛ばすぞ』とヒロムが言って、トシが言い返す。

『今、ユウイチのパターンが見えた気がしたのだよ。少しは頭を使いたまえ』

『うるせえ』

『僕は二二マス目。ちょうど南東の踊り場にいるのです』最後尾のジュンペーで残りは十マスか。

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