7-5.「よく知っている場所だとは思うが、念のために学園の見取り図を送っておいたのだよ」

「よく知っている場所だとは思うが、念のために学園の見取り図を送っておいたのだよ」

 俺は自分のスマホを取り出すと、トシから送られてきた見取り図を開いた。カタカナのロの字のようなかたちをした囲町学園。真ん中にある中庭を校舎が取り囲むように建っている。ロの字の外周沿い東側には購買や保健室が、西側には職員室や校長室が、南側の中央には玄関と校門がある。俺たちがいる応接室は校門から見てちょうど対極にあたる北側の中央だ。二階に上がるための階段は四つ。そのすべてがロの字の角にある。まあ、建物の構造としてはわかりやすい構造だ。

「各部屋の把握も大事なのだが、もっと大事なのは監視カメラのある位置と撮影範囲の把握なのだ」

 トシは見取り図上に描かれたカメラのマークを指さしながら、自信満々に説明を始める。

「まず、この図に描かれたカメラ位置だが、自分がこの位置を特定するのには――」

 これは話が長くなるパターンだな。軽くため息をつきながら、横を見るとヒロムの眉がピクッと動くのがわかった。ここからはいつもどおりの展開だな、と俺が思った、そのときだった。

 応接室のスピーカーからノイズ混じりの音が聞こえた。

 全員が一切に息をひそめて、なにごとかとスピーカーを見上げる。女性の、合成音声で作られたかのような抑揚のない声が流れ始めた。

「ようこそ、パソコン部のみなさま。限られたプレイヤーだけが参加できる『アルティメット・ミッション・リアル』の舞台へ。みなさまには今日、この学園で行われるゲームに参加していただきます」

 なんだこれ?

 思わず、あたりを見回してみる。ジュンペーが表情をこわばらせたまま、ヒロムに目を向けた。

「ヒロムくん、これはいったいなんでしょうか?」

「ちっ」俺の隣にいたヒロムが一瞬で窓に駆け寄る。「大丈夫だ。この窓はまだ生きてる」

「逃げ出す、ですか?」「どう見てもワナだからな」「イチくんやトシくんはどう思うですか?」

 ジュンペーとヒロムの視線が、俺の正面と背中に突き刺さる。

「逃げるなら早い方がいい。応接室の窓自体が仕組まれていた可能性だってある」

 ジュンペーが小さくうなずくと、室内に風が入ってきた。ヒロムが窓を開けたのだろう。

「トシ、ちょっと手伝ってくれ」とヒロムが立ちつくしているトシに呼びかけた。

「無理なのだよ。オレたちは、もうこの学園に囲い込まれてしまったのだ」

「なに弱気なこと言ってんだ、てめぇ」ヒロムが毒づく。

「働き蜂が、もう準備を終えている。完璧に自分たちは出し抜かれたのだ」

 トシが握りしめていた自分のスマホを俺たちの方に向けた。応接室が静まり返る。トシのスマホには、俺たちがかつて夢中になって遊んだアルミの画面が表示されていた。四分割されたゲーム画面の中で四つの動画が再生されている。そのうちのひとつは、あまりにも見覚えのある風景だった。

 俺の家だ。

 同時に気づく。動画の左上に小さく書かれた『LIVE』の文字。録画じゃなく中継ってことか?

「……クソが。人質をとったってことかよ!」

 窓を激しく閉める音とともにヒロムが吠えた。分割されたゲーム画面に映る四つの風景は、つまるところ俺たち四人の家だ。固定されたカメラの前を同じ人物が何度も横切っているのがわかった。でもいつもどおりの平和な日常を過ごしている人たちが、彼らの存在に気づくそぶりはない。

「い、家にはお母さんがいるのです。……どうすればいいのですか?」

 ジュンペーが落ち着きなく目を泳がせる。トシはさっきから床に視線を落としたままだ。ヒロムが自分の拳を手のひらに叩きつける音が室内に響く。誰もが不安を隠せないでいた。

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