7-7.ようするに手を抜いてわざと負けるような行動をすれば然るべき対応がされるということか。

 ようするに手を抜いてわざと負けるような行動をすれば然るべき対応がされるということか。俺たちの沈黙を自分の意図が理解されたと受け取ったのか、パペットマスターは話を続けた。

『なお、対戦相手であるチーム〈ジェミニィ〉は一名での参加となります。このためチーム〈キセキの世代〉のみなさまの勝利条件は、その時点でのチーム全員で問題をクリアすることです。さしあたり、このあとに始まる最初のゲームでは四名全員がクリアできれば、みなさまの勝利となります』

 考えたもんだ。このルールならかならず四ゲームで決着がつく。アプリの向こう側でゲームの推移を見守っている飽きっぽい観客でも、三時間ぐらいならギリギリ耐えられるだろう。

「そ、それにしても僕たち四人に対して、たったひとりだなんて。チーム〈ジェミニィ〉の人も巻き込まれてしまったのですかね。そうだとすればプレッシャーは僕たち以上だと思うのです」

 ジュンペーが固い表情で言う。

「巻き込まれたのであれば、そうかもな。でも、もし自分から望んで参加しているとしたら……」

 俺は苦い唾を飲み込み、スマホに目を落とした。トシの声が俺の思考をフォローする。

「自分の実力に自信があるのだろうな。無論、その自信に見合う結果も出してきたはずなのだ」

「そういうことになるよな」

 俺は首をすくめた。アプリの片隅、俺たちがこれから参加するゲームの視聴者数を示す数字がもの凄い勢いで跳ね上がっていく。さっきパペットマスターが言ったとおり、今回のゲームを盛り上げるのであれば、対戦相手は俺たちと同じか、それ以上の実力者だろう。

『チーム〈ジェミニィ〉の準備もできたようです。それでは、さっそくゲームを始めましょう』

 スピーカーからの声にはっと我に返る。どちらにしてもゲームを終えなければ現実には戻れない。

『チーム〈キセキの世代〉のみなさまは、アプリからの指示に従って行動してください』

 パペットマスターの言葉が終わると同時にアプリ内の画面が新たなものに切り替わった。

〈参加プレイヤーの入場です〉

 ゲームを中継している動画の上に、そんなテロップが重なっている。うんざりするほど悪趣味なエンタテインメント主義。視聴者からの投稿欄に「88888」という文字が流れては消える。

 少し間を空けて、ジュンペーのスマホが二回、震えた。

「チーム〈キセキの世代〉は、呼び出された者から応接室を出て、北西の階段から校舎の二階に向かえ、だそうです。……そして最初は……僕からみたいなのです」

 俺は顔を上げて、ジュンペーを見つめる。

「大丈夫だ。なにかあったらメッセンジャーで知らせてくれ」

 気休めだとわかっていた。そもそも、なにが大丈夫かなんてわかってもいなかった。俺は自分に気合いを入れるように、ジュンペーの肩を軽く小突いた。ヒロムとトシも俺に続く。

 ジュンペーは笑顔を引きつらせながらも、意を決して応接室から出ていった。

 アプリ内のテロップが切り替わる。

〈志村順平・私立囲町学園一年生・これまでの獲得スコア―〉

 応接室を出たジュンペーを捉えたカメラ映像に、これまでのアルミでの実績が重なる。ジュンペーは自分の入場シーンが中継されているとも知らず、周囲を警戒しながら慎重に階段を上っていった。

 ジュンペーの姿が見えなくなると、すぐにトシのスマホが震えた。トシは俺たちと目を合わせると小さくうなずいて応接室を出ていった。廊下に出たトシは、スマホを片手になにかを確認しながら階段へと向かっていく。立ち止まった位置から考えると、トシは自分のデータベースになかった中継カメラの位置を加えているのだろう。こんなときでも冷静なトシはさすがだと思う。

 次にゲームに呼び出されたのはヒロムだった。ヒロムは俺の肩を一回、小突くと学生ズボンのポケットに両手を突っ込んで出ていった。背中を丸めた少し前のめりの姿勢で黙々と階段へと向かう。

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