4-22. ヒロムは立ち上がると、ずかずかと公園の出口に向かって歩いていく。

 ヒロムは立ち上がると、ずかずかと公園の出口に向かって歩いていく。

「おまえ、明日学校で余計なことを言うんじゃねえぞ。言ったら、力いっぱい、ぶん殴るからな!」

 嵐のようにまくし立てると、ヒロムは駅の方に向かって歩き始めた。暗闇から「マジだからな。覚えとけよ!」というお約束のようなセリフが響いて消える。

 明日はトシやジュンペーとも話さなくちゃな。あ、その前にスマホの充電か。ひとり公園に取り残された俺は、そんなことを考えながら、家に向かって歩き出した。

 次の日の昼休みは、教室ではなく屋上に集まることにした。前日、スマホの充電を終えてから、大量の未読メッセージとメールを読んで寝不足気味の目に、夏の太陽がまぶしい。

 ユウシは今日も登校していなかった。メッセンジャーでみんなに聞いてみたけれど、誰にも連絡はない。

「ご両親から、体調を崩したと連絡はあったが、気がかりだな」と、シイナ先生は期末試験まであと六日と赤ペンで書き込まれたカレンダーを見ながら言った。

 アルミリークスの復元(トシの言葉を借りれば、サルベージというらしい)には、俺のスマホのブラウザに残された記録が必要らしく、朝からトシが格闘している。

「お、お待たせしましたのです。あれ、みんなは?」

「まだ、誰も来てないよ。というか、ジュンペー、おまえ走ってきたの?」

「……え? あ、いや、まあ、その」

 ズボンのポケットから取り出したハンカチで、ジュンペーは汗をぬぐう。その背後に背の高い影がヌッと現れたと思った次の瞬間、ジュンペーがひざからカクンと落ちた。小学生かよ。

「ほらほら、ジュンペー。入り口に突っ立っていたらジャマなのだよ。すぐにどくがいいのだ」

「ト、トシくん、いきなり、なにをするですか」

 オドオドと抗議するジュンペーを長い手で押しのけて、トシが俺の前に立った。ノートPCを右手に抱え、左手をズボンのポケットにだらりとつっこみ、少し体を傾けて立つ一八三センチの長身ハッカーほど、夏の青空が似合わない男はいない。

 トシは、ズボンのポケットから俺のスマホを取り出して、ひらひらと振ってみせる。

「アルミリークスのサルベージ、終わったのだよ。完全には無理だったのだけどね」

「……それで、どう思った?」スマホを受け取りながら、俺はそっとたずねる。

「ん? まあ、たしかにこれは楽しいものではないのだ。それよりも相談があるのだが、どうせ話し合うならクーラーの効いてる教室に戻らないかね? 人より太陽に近いところにいるから辛いのだよ」

 それなら、まずは右手に抱えている放熱物質をなんとかすればいいんじゃないだろうか。

「アスファルトの照り返しが強い都心では、むしろ背の低い方が暑さは厳しいのです」

「そういう問題じゃねえだろ。他の人間に聞かれそうなところで話してどうすんだ、バカ」

 トシとジュンペーの背後から、するどくつっこむヒロムの声がした。ヒロムは、ふたりの意見などなかったかのように、後ろ手で屋上と教室をつなぐ扉を閉めると、給水塔が作る濃い陰の下に入る。

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