懐かしのギリシャ料理
アフリカ系の人、アラブ系の人、アジアの人などなど、フランスはまさに移民の国だと思う。
同じ白人でもお隣のイタリアやスペインから随分前に移り住んで、フランス国民になっている人もたくさんいる。
だから、家庭料理1つ取ってみてもフランスの地方料理だけにとどまらず、さまざまな国のエッセンスが散りばめられた美味しいものがたくさんある。
懐かしい味
さて、友人ニコラの話をしよう。
おじいちゃんがギリシャ人でフランス人のおばあちゃんと結婚をしてお父さんが生まれ、お父さんもフランス人と結婚してニコラが生まれた。
そうするとニコラの体の中には1/4のギリシャの血が入っていることになる。
ニコラのお父さんは特別ギリシャに傾倒している方ではなかったようだが息子は違った。
ニコラにはギリシャに対する強い憧れのようなものがあった。
ある日、彼はギリシャで兵役をやりたい、いや、やる!と言い出した。
フランスは二重国籍が認められているので、ギリシャの血が入った彼は当時ギリシャでの兵役の選択肢があったのだ。
彼がギリシャへ行って1年後、帰国の知らせとともに私たち友人は彼の最近引っ越した家に招かれた。
狭くて急な階段を登っていくと小さなドアがあった。
ドアをノックすると、ニコラが満面の笑みを浮かべ私たちを迎え入れてくれた。
屋根裏部屋のこの空間は、広くはないけれど窓から優しい光が差し込んでいる。
中二階がベットになっていて、狭い空間をうまく使ってある。
部屋の中にはすでに美味しそうな匂いが漂っていた。
朝から腕によりをかけてニコラが色んな料理を準備してくれていたのだ。
まずタコの赤ワイン煮で乾杯。
タコは煮ると固くなると言うけれど、これは柔らかい。
タコはある時点を通り過ぎ、さらに煮ると柔らかくなるという。
なんかの葉っぱで巻いたものもあった。
お肉が巻いてあるのかと思っていたら、中身はお米だった。
中には干し葡萄や松の実も入っている。
葉っぱは葡萄の葉っぱで『ドルマス』という料理だそうだ。
私が好きな味だった。
この料理は時間がなかったので、どこかで調達してきたらしい。
そしてその日のメインはムサカ。
ナスと挽肉のグラタンのようなものでギリシャを代表する料理の1つだ。
私たちはギリシャのワインを飲み、ギリシャで出会ったニコラの彼女の話をお腹いっぱいに聞かされながら、久しぶりの再会を喜んだ。
ニコラの料理はどれもおいしかったけど、私にとって一番おいしかったのは何か。
ニコラには悪いけど、彼がどこかで調達してきた『ドルマス』だった。
異国のものを初めて口にし、色んな驚きがあったからだ。
まず、葡萄の葉で巻いてあると言うこと。
葡萄の実は食べるけれど、葉っぱも食べるんだと思った。
次は具について。
何かを巻くとか詰めるのは、私の中ではお肉だった。
それがお米である。
そのお米の中には干し葡萄と松の実が入っている。
干し葡萄の自然の甘さがちょうどいいアクセント。
ここへ松の実のコクも混ざり合う。
さらにオリーブオイルの緑の香りがプラスされている。
私にとっては全てが斬新だった。
ギリシャのドルマとイェミスタ
あれから数十年が経つ。
私は今日本で暮らして、時々こうやって昔のことを思う。
今、ニコラはどうしているだろうか。
つい最近、ある本を読んでいたら『ドルマス』のことが出ていた。
『ドルマス』だと思っていたら最後のSはどうも発音しないらしい。
だから正式には『ドルマ』だろうか。
このドルマは中央アジアから北アフリカ一帯で作られている料理で、香辛料で味付けをしたお米やお肉をキャベツや葡萄の葉で巻いたり、或いはナスやパプリカ、スッキーになどに詰めて調理する料理のようだ。
一般的にはお肉を詰めたものは温かい料理として、お肉が入らないものはオリーブオイルで調理して冷菜として食べられる。
トルコ語が語源となっているドルマは『詰める』とか』『詰められた』と言う意味があるそうだ。
ギリシャでは野菜の葉っぱで巻くタイプをドルマ(ドルマダキ、ドルマデス)と呼び野菜をくり抜いて具を詰めるタイプを『イェミスタ』と呼ぶらしい。
以前からずっと気になっていた料理、ドルマ。
葡萄の葉っぱの調達は難しいので、パプリカやズッキーニで作ってみることにした。
野菜をくり抜いて詰めるので、正式には『イェミスタ』と呼ぶべきだろう。
いつかギリシャへ行って、本場のドルマやイェミスタを食べてみたいと思う。
今は昔の記憶を辿りながら、私なりのイェミスタを作ってみる。
『イェミスタ』の作り方
<材料:>
パプリカ2個、トマト4個、ズッキーニ1本、玉ねぎ大2個、セロリ1本、お米2合、松の実大さじ2、レーズン大さじ3、コリアンダー小さじ2、カルダモン小さじ2、イタリアンパセリ、ミニトマト、ニンニク2かけ、ドライトマト3枚ほど
<野菜の下準備>
*パプリカ、トマトは上部1cmのところで切り、中の種を出す。
(くりぬいたトマトの中身は別に取っておく)
*ズッキーニは5cm位の高さに切り、底が抜けないように中身をくりぬき、中身は細かく切り別に取っておく。
*くりぬいたパプリカ、トマト、ズッキーニの内側に塩を振っておく。
*お米は洗ってザルにあげておく。
<詰め物の準備>
1. みじん切りにした玉ねぎとセロリをオリーブオイルでじっくり炒める。
2. 塩を入れて炒め続ける。
3. お米を加えしばらく炒め、ズッキーニの中身を加え炒める。
4. トマトの中身、ドライトマト、レーズン、コリアンダー、カルダモン、ニンニクを入れて炒める
5. 途中水を加えながら炒める(50ccから100cc)
6. 松の実を加えて、塩味を整える
<いよいよイェミスタを作る>
1. パプリカ、トマト、ズッキーニの入れ物の中に、お米のフィリングを詰める
2. パプリカとトマトに切り離した上部の帽子を被せて、ズッキーニと共に耐熱皿へ並べる
3. 耐熱皿の隙間にミニトマトを詰める
4. オリーブオイルを上から回しかけ、180°のオーブンで40分ほど焼く。
5. お皿に盛り、パセリなどを上から散らし、オリーブオイルを一振りしていただく。