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千早茜「赤い月の香り」感想~好きな香りはなんですか?~
・好きな香りはなんですか?
フローラル系に柑橘系に、それとも石鹸のかおり...。
あっ!ガソリンのにおいが好きって人もいますよね。
私は、本の匂いが好き。
印刷されたばかりのにおいもいいですが、やっぱり古本のにおいが好き。
ちょっぴりアーモンド系の香りがしませんか?
クンクン嗅いでみてね(^_-)-☆
コロナ禍のマスク生活で、外で溢れる匂いに遠ざかっていた。
四季の木々や花々のかおり、焼きたてパン🥖の香り、コーヒーショップ☕の香り...。
その中で交わる体臭や柔軟剤の香り。
雑多に交わるにおいは記憶にもつながるので私は好き。
でも嫌いな人もいる。
自分の好きなかおりが、他者も好きとは限らない。
香りってなんだろうね。
望む香りを作り出してくれる天才調香師、小川朔が帰ってきた。
・簡単あらすじ
🔖天才調香師は、人の欲望を「香り」に変える――。
直木賞受賞第一作。『透明な夜の香り』続編!
「君からはいつも強い怒りの匂いがした」
カフェでアルバイトをしていた朝倉満は、客として来店した小川朔に、自身が暮らす洋館で働かないかと勧誘される。朔は人並外れた嗅覚を持つ調香師で、その洋館では依頼人の望む香りをオーダーメイドで作り出す仕事をしていた。
朔のもとには、香りにまつわるさまざまな執着を持った依頼人が訪れる。その欲望に向き合ううちに、やがて朔が満を仕事に誘った本当の理由が分かり……。
・感想
前作では、繊細で神聖な主人公のイメージだった朔さんが、少し人間味が出て親しみが持て近づいてくれた感があった。
それは、本作で朔さんの過去を知ったからだろうか。
怒りの匂いを持つ朝倉満が洋館の新入りとして働くようになる。
彼を軸に物語は動き出す。
🥀🥀
本書の中で、柑橘にクローブを刺しスパイスをまぶして作る、香りの魔除けポマンダーが登場する。
中世のヨーロッパは悪臭に溢れていた。ポマンダーで悪臭という邪気を退けたそうだ。
「悪臭は健康を蝕む。一般的な悪臭だけじゃない。嫌悪する匂いに晒されていると心身にストレスがかかる。そして、人はあんがい自分にとっての悪臭を認知していない。」(本文より)
この行を読み、場の空気も、『におい』ではないのか...と。
自分はこのにおいが大丈夫でも、他者も大丈夫とは限らない。
本書の中に、場の空気に似ているお話も出てくるので読んでほしい。
そして、どんな香りも作り出す朔さんが依頼を受けたのに作らなかった香りがある。
その香りは、水の膜が張ったような世界。
水の膜の張った世界が、どんな香りかは読んでからのお楽しみ。
朔さんのたとえが心に落ちるから。
香りこそが膜なんだろうか...。
あの洋館にただよう瑞々しい草花や樹脂の香り、小川朔が纏う、凛とした孤独を感じさせる静かな香り。(本文より)
読み終え、この作品から受け取った香りは、遠くから草花の香りが風に流され聞こえてくるような...付かず離れずの距離感が私は好きだった。
みなさんは、この作品からどんな香りを受け取りますか?
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