一木けい「悪と無垢」感想~千の仮面を持つ女~
役になりきり役柄と完全に同一化する憑依型で、千の仮面を持つと言われる天才女優の北島マヤ。(←ガラスの仮面)
憑依型の千の仮面を持つのは天才女優だけではない。
悪意なく歌うように嘘をつく女。
その名は英利子。
ある時は自称イタリアンレストラン勤務らしき息子の理解ある母親になり、ある時は海外で暮らす優雅なマダムになり、ある時はドイツの血を引くハーフと名乗り、ある時はいじめを助けるやさしい中学生...。
月影先生もびっくりな、千の仮面で嘘をつく女。
連作短編集で、悪女の英利子が作品の核であるはずなのに1話ではがっつりではなく、ハンカチと左手の犬にかまれた傷の情報のみで挨拶程度に不穏さを纏わせ登場させる。
読み進めるていくと、じわじわとハンカチと左手の犬にかまれた傷の意味が明かされていき、最初は主役じゃないと思っていた英利子がー!
ミステリーもいけるんじゃない?一木さーん。
散りばめられた伏線に、えっ?
そうだったのー!
驚きを隠せないわたし。
ゆえに、英利子にターゲットにされた者がどうなっていくのかが読みどころでハラハラドキドキし、次が気になりページをめくる手も早まる。
息をするように歌うように悪意なく嘘をつく英利子。
よく右上を見ていると嘘をついているといわれるが、英利子なら鼻で笑うだろう。
人は何かを隠したいことがあったり、注目を集めたかったり、知ったかぶりしたかったりで嘘をついてしまうことがあるけど、英利子は何が目的で嘘をついているんだYOー!
目的のわからなさが不気味さを倍増させる。
千の仮面を持つ嘘をつく女。
おそろしい子!
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