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一木けい「悪と無垢」感想~千の仮面を持つ女~

役になりきり役柄と完全に同一化する憑依型で、千の仮面を持つと言われる天才女優の北島マヤ。(←ガラスの仮面)

憑依型の千の仮面を持つのは天才女優だけではない。

悪意なく歌うように嘘をつく女。
その名は英利子。

ある時は自称イタリアンレストラン勤務らしき息子の理解ある母親になり、ある時は海外で暮らす優雅なマダムになり、ある時はドイツの血を引くハーフと名乗り、ある時はいじめを助けるやさしい中学生...。

月影先生もびっくりな、千の仮面で嘘をつく女。

彼女は無邪気に、優雅に、意味もなく、他人を不幸に陥れる。

「逃げなきゃ。この女のそばにいるのは危険すぎる」
新人作家、汐田聖が目にした不倫妻の独白ブログ。ありきたりな内容だったが、そこに登場する「不倫相手の母親」に感情をかき乱される。美しく、それでいて親しみやすさもある完璧な女性。彼女こそ、聖が長年存在を無視され、苦しめられてきた実の母親だった。ある時は遠い異国で、ある時は港の街で。名前も姿さえも偽りながら、無邪気に他人を次々と不幸に陥れる……。果たして彼女の目的は、そして、聖は理解不能の母にどう向き合うのか?

連作短編集で、悪女の英利子が作品の核であるはずなのに1話ではがっつりではなく、ハンカチと左手の犬にかまれた傷の情報のみで挨拶程度に不穏さを纏わせ登場させる。

読み進めるていくと、じわじわとハンカチと左手の犬にかまれた傷の意味が明かされていき、最初は主役じゃないと思っていた英利子がー!

ミステリーもいけるんじゃない?一木さーん。
散りばめられた伏線に、えっ?

そうだったのー!
驚きを隠せないわたし。

ゆえに、英利子にターゲットにされた者がどうなっていくのかが読みどころでハラハラドキドキし、次が気になりページをめくる手も早まる。

息をするように歌うように悪意なく嘘をつく英利子。
よく右上を見ていると嘘をついているといわれるが、英利子なら鼻で笑うだろう。

人は何かを隠したいことがあったり、注目を集めたかったり、知ったかぶりしたかったりで嘘をついてしまうことがあるけど、英利子は何が目的で嘘をついているんだYOー!

目的のわからなさが不気味さを倍増させる。

千の仮面を持つ嘘をつく女。
おそろしい子!

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