櫛木理宇「少年籠城」感想~児童虐待問題を提起する作品を緊迫のサスペンスミステリで描く一冊~
☆お菓子だけ置いて三歳の娘を放置し死亡させた母親。
☆義父に肋骨を折られ、体中痣だらけで死亡した幼女。
☆母親と内縁の夫から暴行を受け虐待死させられ、雑木林に埋めれた幼女。
これらの事件の背景には、児相は見守り中や、近所の人が子どもの異常な泣き声に警察に通報するも夫婦喧嘩だと返答され放置された事例もある。
また、転居しても届を出さず小学生になっても入学せずに居所不明児童になってしまう子もいる。
いずれの事件も、亡くなったことにより明るみに出て悲惨な現状を知る。
その事件になった子どものことは知るが、事件になっていない子たちもいるはずなのに…そこには目を向けていないのでは?
おい、知らんぷりするなよー!
ちゃんと知ろうよー!
一番怖いのは無関心な社会なのではないかと問いかけてくる作品だった。
立てこもり犯の少年は無実なのか?
だったら他に犯人はいるのか?
ミステリーとしても、えぇーー!驚きの展開へと誘われグイグイ読まされエンタメとしても面白かった。
だが軸になるのは、ネグレクト、ひとり親家庭の貧困、居所不明児童、小児性愛...なる社会問題。
児童虐待問題を提起する作品は多いが、本書は拠点を温泉街にしているのが説得力があって、よりリアリティーを感じた。
温泉街で働く人は事情を抱えている人が多いので詮索されることがない。
突然消えて気にされることもない。
立てこもり犯の少年も仲間も、また人質となった子たちも温泉街で暮らしている。
子ども眼前で母親を強姦する父。日常的な暴力。肉体だけでなく、精神的にも経済的にもおこなわれたDVの中で育っている。
立てこもり犯の少年の描写が狡猾でイライラして腹立たしいが、
貧困も虐待も連鎖する。
そこがホントに悔しいし悲しい😢
連鎖を断ち切るには、犯罪に対し無関心でいないことだと考えた一冊だった。