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令和2年7月21日最高裁判決を読む 〜写真の無断リツイートによる著作者人格権侵害〜


はじめに

 ニュース等でも話題になっていましたが、2020年7月21日、twitterで無断アップロードされた写真をリツイート(RT)した場合における氏名表示権等の侵害に関する最高裁判決が出ました。

 社会の重大関心事について最高裁の判決が出るたびに、判決文を読まずに論評をされる方もいらっしゃったりしますが、最高裁の判断は感情的言論で動くものではないため、最高裁がどのようなロジックで結論を導き出したのかをまず正面から理解し、その上で判決に関する議論をすることが大事だと考えています。

 もっとも、前提知識なしに判決文を読んでも、最高裁判所が一体何を議論しているのかわからなくなることもあると思います。そこで、本稿では、議論の前提となる知識を整理しながら、判決文を読んでいくということを試みたいと思います。一読して思ったところを書いていくので、あとから修正・追記等するかもしれません。

 なお、判民型や民商型などでの詳細な判例評釈は、いずれ大学の先生方が緻密なものを書かれるでしょうから、ここでは学術的な形式美にはとらわれず、速報性を重視しながらある程度サクサクと読める感じで書いていきたいと思います。

判決全文

最高裁判所の判決はこちら(https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89597)から読むことができますが、全体像を掴まずに一番最初から読んでいくと心が折れます。

そこで、私の方で、次のように判決全文を1枚にまとめてみました。

夫婦別姓訴訟概観

判決全文を1枚にまとめると文字が小さくなってしまうので、拡大してご覧頂けましたら幸いです。こちらからダウンロードできます

今回の最高裁判決、一言で言うと?

とはいえ、たとえカラフルに整理して全体像を把握しても、あいかわらず文字だらけですから、もっと簡単に分かりやすく説明してほしいというニーズもあるかと思います。

そこで、今回の判決を一言で言うと、次のようになるかと思います。

プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求訴訟において、「第三者が無断でアップロードした、クレジット表記ある写真を、RTしたことにより、当該RT者によって氏名表示権が侵害された」という写真家の主張が認められ、発信者情報の開示が認められた事案

一言でまとめようとしてみて改めて思いましたが、やっぱりこの事案は簡単に説明することが難しいですね…。というのも、この判決には、次のような注意ポイントがあるからです。

注意ポイント

①発信者情報開示請求訴訟であるということ

本件は、「権利を侵害したからお金を払え」という不法行為に基づく損害賠償請求訴訟ではありません。RT者に対して損害賠償請求をしたいが、請求の相手方の氏名や住所が分からないため、twitter社に誰がRTしたのかという情報の開示を求める、発信者情報開示請求訴訟です。

その根拠となるプロバイダ責任制限法の条文は次のとおり(あとで判決文の中でも出てきます)


特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成十三年法律第百三十七号)←略称:プロバイダ責任制限法

(発信者情報の開示請求等)
第四条 特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者は、次の各号のいずれにも該当するときに限り、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下「開示関係役務提供者」という。)に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の開示を請求することができる。
一 侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき。
二 当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき。

本件が発信者情報開示請求訴訟であるがゆえに、次のような2つの注意ポイント(②③)も出てきます。

②被告はtwitter社

前述のとおり、本件はRTをした者に対する損害賠償請求をするための前準備の段階で、twitter社に対して情報開示を求める訴訟なので、RT者が訴えられたわけではありません。したがって、被告はtwitter社となっていて、RTをした者は、本件訴訟の直接的な当事者ではありません

③RT者が損害賠償義務を負うかは分からない

前掲のプロバイダ責任制限法4条1号では、「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」に、プロバイダ等に対して情報の開示を請求することができるとされています。

本件では、開示請求が認められたため、本件訴訟の審理の過程においては、RT者による原告写真家への権利侵害は認められたことになります。

しかし、日本法の下において、著作者人格権(氏名表示権含む)の侵害に基づいて損害賠償請求をする場合には、民法709条を根拠とすることとなり、①権利侵害の他に、②故意・過失(ないし違法性)、③個々の損害、④因果関係(、⑤賠償範囲)といった他の要件が必要になります。

ですから、本件判決で開示請求が認められたからといって、必ずしも、各RT者が損害賠償としてお金を写真家に払わなければいけないということにそのまま直結するものではないのです。

(もっとも、これは原告写真家とtwitter社との間での訴訟です。厳密な法的議論をすれば、発信者情報開示請求訴訟と不法行為訴訟とでは訴訟当事者が異なりますし、判決理由の一部ですから、①権利侵害自体、写真家とRT者との訴訟で改めて主張立証する必要があるものと思われます(民事訴訟法114条参照))

④いわゆる「著作権」侵害ではない 〜氏名表示権に関する本件事案の特殊性〜

注意すべきポイントの最後ですが、本件では、いわゆる「著作権」の侵害が認められたわけではないということです。

最高裁が権利侵害を認めたのは、あくまでも「氏名表示権」です。

氏名表示権は、著作者人格権の一種なので、本件判決も「リツイートによる著作者人格権侵害」などと書かれることがありますが、ついつい「人格」という字を見落としてしまいがち。

著作権法は、17条1項で次のように述べて、「著作権」と「著作者人格権」を明確に区別しています。

著作権法

(著作者の権利)
第十七条 著作者は、次条第一項、第十九条第一項及び第二十条第一項に規定する権利(以下「著作者人格権」という。)並びに第二十一条から第二十八条までに規定する権利(以下「著作権」という。)を享有する。

氏名表示権
第十九条 著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。

なぜ今回は、「氏名表示権」が争点となっているのでしょうか。

それは、本件裁判の原告の方のブログ(http://housendo.jp/hokkaido/park/suzuran-gunraku.html#suzuran-white-pink)で、問題となった写真をご覧頂くと分かるかと思います。

今回は、普段私達がtwitterにアップロードする写真とは異なり、写真に「クレジット表示」がされていたものでした。

例として、私が撮影した写真を使いますが、本件で問題となった写真には、次のように、著作者の氏名が明示的に表示されていたのです。

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しかし、それがTwitterで投稿されると、次のようにクレジット部分(氏名表示部分)が切れてしまいRTをした際もその状態でタイムラインに表示されてしまっていたのです。(なお、実際には1枚の写真ではなく複数枚を1ツイートで投稿していた様子)

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※これに対して、「でも、写真をクリックして拡大すれば、切れた部分も見れるじゃん」という反論は、誰しもが思うことでしょう。この点については、最高裁も考慮しています。そのことについては後で解説します。

つまり、本件は、普通の写真ではなく「クレジット表記がされた写真」が、twitterの仕様によりクレジット部分が見えない状態でRTされたという特殊な事案なのです。

ですから、本件判決の射程が、別の「リツイートによる「著作権」侵害」の事案まで及ぶか否かについては、個別具体的な事情を踏まえて慎重に検討する必要があります。

なお、一部の解説で、「引用RT」により、もとのツイート画像よりも小さくトリミングされてしまったという説明をされている方もいらっしゃいますが、最高裁の判決文からすると、そのような考え方は誤りです。最高裁はあくまでも、「Twitterのサーバー上に保管された元画像」と「RTにより表示された画像(トリミング画像)」との関係を見ています。(実際に、単なるRTだったのか引用RTだったのかは、裁判記録の謄写をしてみないとわからないので、今度見てこようかと思います)

判決文を読む

さてさて、前置きが長くなってしまいましたが、本稿の当初の目的である、判決文を読むという作業を進めていきましょう。

まず、そもそもどういう構成で本件裁判が行われたのかが冒頭で示されています(裁判官は、本来判決文の最後に示されていますが、便宜上冒頭に持ってきました)。

裁判情報

上の記述から分かるのは、本件裁判は大法廷判決ではなかったということです。今回は、判例変更が必要な事案でもないですし、直接的には憲法訴訟でもないので、小法廷で行うという事自体は通常の処理です。

ちなみに、戸倉裁判長と林道晴判事は生え抜きの裁判官、林景一判事は外交官出身、宮崎判事は弁護士出身、宇賀判事は大学教授出身(行政法)です。

主文

次に主文を見ていきます。

主文

本件は、知財高裁でも原告(写真家)の開示請求が認められていました。最高裁でも、知財高裁と同様、原告の主張を認めていますので、上告を棄却するという主文になっています。なお、前述のとおり被告はTwitter社ですので、訴訟費用を負担するのは、RT者ではなくtwitter社となります(果たして本当にtwitter社が負担すべきか?という疑問はありますが、少なくとも現行法に基づく処理としては仕方のない処理です)

第1 事案の概要等

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判決理由の第1では、本件事案の概要が示されています。

前述のとおり、本件は、
 ①原告写真家(紫)
 ②被告Twitter社(青)
 ③原告の写真を無断でTwitterにアップロードした人(赤)
 ④③のツイートをRTした者(緑)
といった多くの当事者が出てきますので、混乱しないようにそれぞれ色分けしました。

色々と難しい言葉遣いをしていますが、要するに、②Twitter社の提供するTwitter上で、①原告写真家の写真を無断で③がツイートし、③のツイートを④がリツイートしたということです。

この中で面白いのは、最高裁判所はリツイートを「第三者のツイートを紹介ないし引用する、Twitter上の再投稿」と定義づけていることです。原審の知財高裁では、特にリツイートを定義づけていなかったので、これは、最高裁が行った定義として注目すべきポイントかと思います。

確かに、技術的な側面を見れば、リツイートをそのように定義することもできるとは思います。しかし、Twitter利用者の多くは自分の「再投稿」というよりは、他人が投稿している内容を自分のフォロワーにお知らせしている意識でリツイート機能を使っているのではないかとも思うのです(このあたりが、最終的に別訴における不法行為の成否に影響するかもしれません)。

このあたり、リツイートの定義については、いずれ、橋下徹さんに関連する「リツイートと名誉毀損」の事件に関する高裁判決などと比較しながら検討してみたいです。

また、判決文の中には「インラインリンク」という聞き慣れない言葉が出てきますが、これは、ブログなどを書かれている方々ならおなじみの、画像をURLで引っ張ってくる行為のことです。自分で写真をアップロードせずとも、誰かがどこかのサーバーに保存した画像のURLさえわかれば、自分のHPなどにインラインリンクの形で引っ張ってくることができます。Twitterで画像つきツイートをRTするときは、Twitterのサーバーに第三者が投稿した画像へのインラインリンクを設定することでリツイート画面に画像を投稿するということになります。後述しますが、最高裁判所は、このようにインラインリンクで画像を引っ張ってくる行為についても、著作者人格権侵害を構成しうるという立場のようです。(つい先日、Instagramの運営側が「埋め込み機能を使っても著作権侵害になりうる」というような声明をだしていましたが、このあたりとの関係も気になるところです。本稿では脱線しすぎてしまうので、別の機会に)

さらに、裁判所としては、画像を投稿した際のトリミングが、Twitterの仕様により自動で行われるということも認識しています。

それ以外の事情については、既に上の「注意ポイント」等で説明したことの繰り返しになります

第1では、判断の基礎となる事実が整理されましたが、具体的な判断理由については第2と第3で具体的に示されます

第2 氏名表示権の侵害について

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第2では、本件RT行為による氏名表示権侵害の成否という、本件判決の核心的部分について判決がなされています。

上の判決文での色付けに注目していただけると分かるのですが、ここでは、②Twitter社の上告理由に基づいて、④RT者の行為について議論が展開されています。

ここでは主に2つのことが議論されています。

1つ目は、2(1)。リツイート行為自体が、その行為によって新たに、第三者のタイムライン上に表示させる行為(著作権法19条「著作物の公衆への…提示」)であるから、適切な処置を行わない場合には、リツイートの際にも著作者の氏名表示権侵害を構成しうるということを述べています。

著作権法 19条1項
 著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。

2つ目は、2(2)です。ここでは、前記「注意ポイント④」で述べた「でも、写真をクリックして拡大すれば、切れた部分も見れるじゃん」という疑問に関する、裁判所の判断です。

これに関する判断が、今回の最高裁判決のポイントの1つですが、最高裁は「本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば,本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるとしても本件各表示画像が表示されているウェブページとは別個のウェブページに本件氏名表示部分があるというにとどまり,本件各ウェブページを閲覧するユーザーは、本件各表示画像をクリックしない限り、著作者名の表示を目にすることはない。また、同ユーザーが本件各表示画像を通常クリックするといえるような事情もうかがわれない。そうすると、本件各リツイート記事中の本件各表示画像をクリックすれば、本件氏名表示部分がある本件元画像を見ることができるということをもって、本件各リツイート者が著作者名を表示したことになるものではないというべきである」と述べています。

つまり、たとえ、画像をクリックして全体を見ればクレジットが表示されるような場合であっても関係なく、タイムライン上でクレジット表示が見えない状態のものをリツイートした場合には氏名表示権侵害になるというのが最高裁の考え方です。

しかも当時は、Twitterの仕様が現在と異なり、タイムライン上の画像を全体表示するためには、「右クリック→新しいタブで画像を開く」という手順を表示する必要がありました。

現在は、タイムライン上の画像を左クリックすれば、全体表示されるようになっています。

具体的には、タイムライン上の表示画像↓をクリックすると

スクリーンショット 2020-07-21 21.20.04

次のように表示されます。

スクリーンショット 2020-07-21 21.20.30

もっとも、最高裁としては、タイムラインページと、右クリックした上で表示するページとが、連続性のない別々の表示であることを前提に、どこかのページで、氏名表示がなされていない状態が生じているのであれば、氏名表示権侵害になりうるという判断をしているようです。

上の画像でもそうなっているとおり、現在の仕様でも、画像をクリックした際のURLと、タイムライン上のURLは別々になっているので、これについても最高裁は別々のページであると扱う可能性があります。(これについては、別途、情報法の分野においては、「ウェブ記事の見出しだけで名誉毀損を構成しうるか。それとも、名誉毀損を構成するかどうかはリンク先の記事内容も考慮して判断すべきか」というような議論も展開されているところ、それとも少し連関しそうです。もっとも、名誉毀損と氏名表示権は、それぞれ違う考慮要素ともなりうるので、そこの考え方が直結するわけではないと思いますが…)Twitterのユーザーからすると、画像をクリックした際の表示とタイムライン上の表示が別々のものとはあまり意識していないと思いますので、ここのあたりの裁判所の認識と、一般的な認識が乖離している感じがあります。

なお、もうひとつのポイントとして、最高裁判所の判断が面白いのは、2(2)1段落目のカッコ内です。ここでは、「本件各表示画像はトリミングされた形で表示されることになり本件氏名表示部分が表示されなくなったものである(なお、このような画像の表示の仕方は、Twitterのシステムの仕様によるものであるが、他方で、本件各リツイート者は、それを認識しているか否かにかかわらず、そのようなシステムを利用して本件各リツイートを行っており、上記の事態は、客観的には、その本件各リツイート者の行為によって現実に生ずるに至ったことが明らかである。)」と述べています。

つまり、リツイートする側としては、あまり、他の人のタイムラインにどのように表示されるかどうかということは意識せずにリツイートを行うわけです。今回も、RTによって、フォロワーのタイムラインでどのように表示されるか、写真のクレジット表記がトリミングされた状態で流れるかということは、よく分からない状態でRTしたものと考えられます。しかし、本件は、あくまでも、発信者情報開示請求訴訟であり、そこで考慮すべきは「権利侵害」という客観面のみ故意・過失といった主観面については、考慮要素ではないということで、最高裁はRT者の意識は、発信者情報開示請求の成否に影響しないものとして扱っているものと考えられます

第3 「侵害情報の発信者」該当性について

次に、判決理由の2つ目「第3」を見ていきます。

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ここでは、④RT者らが、プロバイダ責任制限法の開示請求対象者に該当するかということが議論されていますが、第2で議論したのと同様の考え方で、これも肯定されています。

第4 結論

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ということで、結論として、原告の請求を認め、被告の上告を退けました。

最高裁判事の補足意見・反対意見

この判決には、戸倉判事の補足意見と、林景一判事の反対意見がついています。

意見

個人的には、Twitter利用者の感覚に近いのは、多数意見ではなく、林景一判事の考え方なのではないかなとも思うところです…。興味のある方はお読み頂けると面白いかと思います。

私からのコメント

最高裁判所の判断は、裁判で認定された事実に基づく議論として、たしかに論理的です。しかし、「リツイート」を「再投稿」と厳格に考えたり、タイムライン上の画像とクリックした際の画像を厳格に分けて考えるという裁判所の認識が、Twitterの一般利用者の感覚とずれているのも事実

Twitterの通常の利用者なら、タイムライン上で流れている画像が、本来の画像の一部だって分かって利用してません? そもそもTwitterを利用したことがないであろう最高裁判事も多くいらっしゃるはずで、そのような方々の出した判決が妥当なのかなというのは誰しもが思うことでしょう。ただ、最高裁判事が、判決を下すにあたり、自分でTwitterを使ってみて、その感覚を判決に反映するというのは逆に怖い面があります…(弁論主義的な意味で))

このズレがこのまま是正されないと、Twitter利用者は思わぬところで不利益を被ることになるかもしれません。

現実問題、誰かが投稿した画像付きツイートををRTしたら、それが氏名表示権侵害となり、誰かに氏名・住所がバレてしまうというのは、RT行為を萎縮させ、情報流通を阻害する要因ともなりえます。

ひとまず、現状としては、RTする際は、画像の隠れた部分にクレジット表記がないかということを確認した上でRTしないと、身バレの危険性があるということになります。なお、前述のとおり、本件は氏名表示権に関する最高裁判決ですが、もともとは、氏名表示権以外にも、著作権(複製権、公衆送信権、公衆伝達兼)のほか、同一性保持権、名誉声望保持権といった権利の侵害も主張されていました。これらのうち、知財高裁では同一性保持権侵害を肯定していますが、現実問題、RTするツイートの写真がパクリでないか(権利者に無断でトリミングされていないか)ということまで厳格に確認することはできませんから、ひとまずは氏名表示(クレジット)の部分だけチェックするということになるでしょう。

また、判決文では、「同ユーザーが本件各表示画像を通常クリックするといえるような事情もうかがわれない」「本件各リツイート者は,本件各リツイートにより,新たに本件各アカウントの各タイムラインに本件氏名表示部分のない本件各表示画像を表示させ,本件写真について被上告人がしていた著作者名の表示をしなかった以上,本件氏名表示権を侵害したものといわざるを得ない。」と述べています。そこで、どうしてもクレジット表示のある写真付きツイートをRTしたい場合には、「写真をクリックしてください」という表示を付けておくか、自ら引用RT機能を使って、氏名表示をツイート部分で行うといった対処をすると、別の判断になるかもしれません(もちろん、これで100%安全とは言い切れません)

(まだ、裁判所の判決文しか公開されておらず、上告理由書などを読めていないので分かりませんが、どうして最高裁は同一性保持権侵害について言及していないのでしょう…? 上告理由書が公開されたら追記します)

傍論1:発信者情報開示請求訴訟が抱える構造的問題

今回はtwitter社が上告までして熱心な訴訟対応をされましたが、一般に、自らが直接の利害を有するわけではない発信者情報開示請求訴訟において、被告(プロバイダ、プラットフォーマー)が熱心な訴訟活動をすることは期待できません。

それなら、開示の対象者が訴訟に参加(補助参加ないし独立当事者参加)して自らの権利を守れば良いのではないかと思われるかもしれませんが、現行法上、匿名での訴訟参加は認められていません。訴訟参加をする際には、発信者情報開示を求める原告を含む当事者に、氏名等が明らかにしなければなりません。自らの氏名や住所が開示されることを防ぐ目的で、自らの氏名や住所を開示した上で訴訟に参加するとは、本末転倒です。そこで、現在、匿名訴訟に関しても省庁で議論が進められているところですが、今後の展開は不透明です。

傍論2:匿名表現の自由

今回の判決と関連する議論に「匿名表現の自由」という論点があります。個人的に、匿名でなければ表現できないような特別な事情のある場合を除き、あえて匿名表現を切り出して、匿名表現の自由を憲法21条で保障されていると考えるのはどうなのかなと思っています。ただ、前述のとおり、気軽にRTしただけで身バレしてしまうということでは、情報流通を萎縮させてしまうのも確かです。

最近は、誹謗中傷関連でも、発信者情報開示のハードルが下がっている(し、政府もさらに緩和しようとしている)状況ですので、twitterのアカウント名が本名であってもなくても、匿名性は確保されないという覚悟でTwitterを利用するのが望ましいのではないかと思います。

補足Q&A(随時追記予定)

1 写真にも著作権法が関係するの?

著作権法2条「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」に該当すれば、写真でも著作権法による保護を受けます。有名な裁判例として、「みずみずしいスイカ」という、構図等を工夫して撮ったスイカの写真に著作物性を肯定した例があります

2 引用RTが問題で、普通のRTは問題ないの?

一部の解説で、「引用RT」により、もとのツイート画像よりも小さくトリミングされてしまったという説明をされている方もいらっしゃいますが、最高裁の判決文からすると、そのような考え方は誤りです。最高裁はあくまでも、「Twitterのサーバー上に保管された元画像」と「RTにより表示された画像(トリミング画像)」との関係を見ています。したがって、普通のRTをする際にも今回の判決の考え方が及ぶことになります。


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