記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

「ルックバック」のタイトルが意味するものとは? 映画「ルックバック」を振り返る

先日、藤本タツキさん原作の映画「ルックバック」を観てきました。主人公の藤野は、小学4年生で学生新聞に4コマ漫画を連載している才能豊かな少女。ある日、同じ学年の不登校少女・京本の漫画が新聞に掲載されることになり、卒業式の日をきっかけに二人は漫画への情熱でつながっていく……というストーリーです。

ネタバレ無しの映画のあらすじ・感想については三浦誠大さんのnoteがわかりやすかったのでそちらをおすすめします。

(※以下、ネタバレを含むのでご注意ください)

2つの大きな疑問

「ルックバック」はとてもいい映画だったと思う反面、正直すぐに全部は消化できず、観終わった後、もっとこの作品について考えてみたい、理解したいという気持ちが残りました。特に、以下の2つの大きな疑問が私の中に残りました。

  1. なぜ京本は死んでしまったのか?

  2. タイトルの「ルックバック」の意味とは?

「look back」の二重の意味

英語で「look back」というイディオムには二つの意味があります。

  1. 振り返る、過去を回顧する

  2. 後ろを見る、背後を確認する

この二重の意味が、作品のテーマと密接に結びついているように感じました。

京本の死:何を意味しているのか

京本の死は物語の大きなクライマックスとなっています。よく考えてみると、この「死」には象徴的な意味があるように思えてきます。

京本と藤野は二人で「藤本キョウ」という一人の漫画家でした。これは、作者の藤本タツキさんの自伝的要素を反映しているという説とも結びつきます。

  • 藤野:自信に満ちた表の顔

  • 京本:内なる不安や繊細さ

この解釈に基づくと、京本の死には以下のような意味が考えられます。

  • 象徴的な死:漫画家藤本キョウの中にあった「もう一人の自分」がなくなったことを表している。

  • 成長の過程:不安や自己懐疑、同時に創造性の源でもあった部分が、成長とともに自信のある自分に統合された。

  • 独立への一歩:藤本キョウが一人の創作者として独り立ちすることを表している。

「ルックバック」の意味するもの

「look back」の英語に2つの意味があるように、タイトルの「ルックバック」には、複層的な意味が込められているように感じました。

  • 過去への回顧:作者の藤本タツキさんの立場から過去を「振り返って」、この物語に反映されている。

  • 失ったものへの回顧:成長する中で、失っていくものへの想いが込められている。

  • 「背中」を通じた他者との関係性:「背中を見る」「背中を見られる」という行為を通じて、他者との関係を築いている。背中を見ている人の先には、背中を見られている人がいる。

特に印象的だったのが、作中に登場する「背中を見て」というタイトルで京本が描いた四コマ漫画です。これも「ルックバック」と呼応しています。

日本語は文法があいまいなところから、「背中を見て」の意味が「please look back(あなたの背後を振り返って見てください)」なのか、「please look at my back(私の背中を見てください)」なのか、「while I'm looking at your back(私があなたの背中を見てるところ)」なのかがはっきりと分からないところではありますが、おそらく最初の2つかなと思いました。

  • 「あなたの背後を振り返って見てください」の場合
    「振り返ってみてください。私があなたの後ろにいます」という意味かもしれません。これは、誰かが常に自分を支えてくれている、または見守っているということを示唆しています。

  • 「私の背中を見てください」の場合
    京本の部屋で藤野が振り返り京本(が来ていた半纏)の背中を見ると、「藤野歩」のサインが目に飛び込んできます。自分が相手に残した影響や痕跡、また相手が自分に残した影響や痕跡も表れているように感じました。

「ルックバック」は1時間弱という短さを感じさせない深い映画で、観終わった後も心に残り、考えさせられる作品でした。ほかの方の考察も読んで、また映画を見返してみたいと思います。

この記事が参加している募集

記事が気に入ったら、いいねやコメントをしてもらえると嬉しいです。