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『よいひかり』三角みづ紀

タイトル、装丁、
帯に書かれている「フライパン」の
詩の一節にひかれて手に取りました。

生活の何気ないひとこまが、
三角さんの目を通して静かに詠われていきます。

食卓のトースト、窓にさす朝のひかり、
コーヒーやスープの湯気、
オムレツの黄色、雨の匂い、
恋人との会話・・・。
三角さんが感じた風の音まで、
聞こえてきそうな気がしました。

どこにも奇を衒ったところがなく、
体から心からそっとあふれてきた言葉が
真摯に紡がれていることが伝わってきます。
ひとつひとつの詩が、こころの深いところへ
染みわたっていきました。

立ち止まってよく見れば、
いたるところに「よいひかり」は
降りそそいでいることに気づかせてくれます。
そして、なんてことのない日常が、
とても愛おしく感じられます。

何度でも読み返したい大好きな一冊です。


路面電車が夜をかきわける音
パトカーが喧しく通過する音
ヒーターがあたためている音
それらを
手足まで
浸透させながら
かすかな灯りで
本を読む

いつのまにやら
眠りにおちても
かすかな灯りは
眠っていない部屋を照らしてる
真夜中に目覚めた ひとびとが
心細くならないように
かすかな灯りは
夜を照らしてる

あたりがあかるくなったら
小さな灯りは
息をひそめて
ようやく
眠りにつく
ああ 朝だ

ひとつひとつ消えていき
台所がにぎやかになっていく

「間接照明」79-80p


『よいひかり』
三角みづ紀
ナナロク社
2016.8

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