【小説】媒介 その三

コーヒーカップを仕事デスクに置くと、慌ててベランダに飛び出る。
きょろきょろと辺りを見渡すと、子供どころか人っこ一人いない。
あれは夢?
彼女の声でふらふらと居間に行ったような。
いや、これが夢?
ついに彼女に強力な睡眠導入剤をいれられ、自分は居間で気を失った?
はて誰があの子をなだめたのか。もしくは黙らせたのか。
答えが出ない時はついブツブツと声に出して、事実を確認してしまう性分。 
自分「……たしかにあの階段の前に……小学生くらいの男の子が」
指を指しても、もちろん男の子も自転車に乗った主婦さえ通り過ぎない。
平穏な公園と混乱した中年。
そこへ与えられた刺激。
彼女「夕方には帰るからー! お腹空いたらパンでも食べといてー!」
返事をしては駄目だ。わかった、で済んでしまう。
今はこっちの答えを優先すべき。
運良く彼女からも返事はない。
意外と自分は頭の回転が早い方だ。
でも事態を飲み込めないでいる。
一旦、落ち着こう。
子供は泣き止んで、家に帰ったとすると……。

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