見出し画像

【解説】Wikipediaの「バーチャルYouTuber」の定義は、いかにして書かれたのか

私は、普段「古月」と名乗り、音響関係のエンジニアやライター活動をしている。その一方で、Wikipediaでも活動しており、こちらでは「組曲師」という名で活動をしている。

さて、今回はその組曲師として書いた日本語版Wikipediaの記事「バーチャルYouTuber」の定義が如何にして現在の形になったのか解説しようと思う。

定義

バーチャルYouTuber(バーチャルユーチューバー、英: Virtual YouTuber)は、2017年末以降では主にインターネットやメディアで活動する2DCGや3DCGで描画されたキャラクター(アバター)、もしくはそれらを用いて動画投稿・生放送を行う配信者の総称を指す語として使用されている。

2016年12月に活動を開始したキズナアイがYouTuber活動を行う際に自身を称した事に始まる語である。

略語として、VTuber、Vチューバー(ブイチューバー)ともいい、2021年現在では活動の場がYouTubeに限定されない場合もあり、その際はVTuberの名称が使われることが多い。

(出所: ウィキペディア日本語版「バーチャルYouTuber」 CC BY-SA 3.0)

「2017年末以降」ではってなにさ?

そもそも、解説の中にもある通り、「バーチャルYouTuber」という言葉は元々キズナアイが使い始めた言葉である。最初はキズナアイしかこの「バーチャルYouTuber」という言葉を使っていなかったし、「バーチャルYouTuber」はキズナアイの代名詞であった*1。だから、他のバーチャルYouTuberと呼ばれる存在は最初存在しなかったのである。

実際、電脳少女シロは「電脳少女YouTuber」*2、藤崎由愛(YUA)は「次世代YouTuber」*3、ときのそらは「バーチャルJK」*4を名乗っていたように最初は殆どがバーチャルYouTuberを自ら名乗り出る者は初期ほぼいなかった。
(ただし、うるさい方の馬は除く。)

そこから2017年11月頃に入って、なぜかキズナアイの代名詞であったはずのバーチャルYouTuberという単語が、ミライアカリに波及しはじめる*5。
この後、キズナアイが怪獣先輩さんの読み間違いをやらかし、にゃらる氏の「キミは「バーチャルのじゃロリ狐娘Youtuberおじさん」を知っているか!?」がはてなブックマークが大ヒットした。この頃から富士葵、輝夜月、ときのそらがYouTubeで投稿開始。12月20日には「バーチャルYouTuber四天王」のワードが大バズり*6。

この少なくとも「バーチャルYouTuber四天王」という言葉が定着し始めた20日以降、バーチャル存在である活動者は専らバーチャルYouTuberと呼ばれるようになった。このため、私は2017年12月より前がキズナアイの代名詞であった事実を否定しないために、「2017年末以降」という一文を解説の頭に置いた。

「インターネットやメディアで活動する」の意味

VTuberは「バーチャルなのに~」と言われがちで、活動場所もYouTubeでなければならない、といった解釈がまだこの2021年に少なくとも残っているのが私にとってはとても悲しい。

だが、そこはWikipedia。出来るだけ実態を捉えた定義を情報源を基に書かないといけない。そこで編み出したのがこの一文。現在VTuberは活動場所がYouTubeにとらわれていない。そこがこの文のキモになっている。

というのも、VTuberは最初活動し始めるときからTwitterを使おうとするのはキズナアイの時点から珍しくなかった。既にこの事実から、「YouTubeを中心に~」と定義してしまうのは至極おかしな話だ。それに加え、SHOWROOMやニコニコ生放送(おもに公式生だが)などの既存プラットフォーム、REALITYやIRIAMといった新規バーチャルプラットフォームにSPOWNといったライブ用プラットフォームなど様々なプラットフォームで活動をそれぞれのバーチャルYouTuberがしているではないかという話だ。YouTubeに限定するのはすでに無理がある。そこでまず実態として書けるのが「インターネット」という単語だ。

では、次は「メディアとは何か?」という話になる。この要素にはインターネットに限らず、さらに様々なものを含められる。
例えば、雑誌。現在では様々なVTuberが『近代麻雀』という雑誌に関わっていたりするし*7、『PASH!』や『コンプティーク』などの雑誌は毎月のようにVTuber関連の記事を取り上げ、時にVTuberがインタビュー出演をおこなっている。
これだけじゃない。テレビにおいては、土曜の24時からというゴールデンタイムに時間を構えるようになった『ガリベンガーV』を筆頭に、ミライアカリの『女子会ですが?』、『22/7 計算中』などまだまだ番組制作は止まっていない。

これらの状況を統括することで、「インターネットやメディア」という指定をしている。

VTuberの定義は2つに分かれる

「バーチャルYouTuberとは何か?」というのは人によってまちまちで見解が異なる*1。特にVTuberの専門書、辞書にフォーカスすることで2017年12月以降ではその見解が大きく分けて2つあることがわかる。それが、「VTuberはキャラクター(アバター)である」というものと「VTuberは配信者である」というものだ。順を追って解説しよう。

2DCGや3DCGで描画されたキャラクター(アバター)とは何か?

この記事をご覧の方々がどれだけVTuberを長く見てきたのかはわからない。だが、昔を思い出せる人は思い出してほしい。

にじさんじが登場当時だっただろうか。あの時代は「3DCGのバーチャルこそがバーチャルYouTuberなんだ」という主張を行うものが2018年初頭から多数いた。これは当時バーチャルYouTuberの多くが3DCGで描写されたものばかりが筆頭に立って活動を行っていたからだ。だから、バーチャルYouTuber=3Dというイメージがたってしまい、今ではそんな話をすれば馬鹿にされるだろうが、本当に当時は大事になるほどに揉めた話題の1つだった。

しかし、当時のその後でバーチャルYouTuberに参入障壁の少し低い2D勢が多く参加し始めたところで、段々と2D勢の理解が深まったのか、現在では3Dか2Dかという話題で揉めることも少なくなったのは事実だ。むしろ、2Dからスタートして3Dモデルになったことを祝う……などといった気づけば伝統文化が出来上がっていたのは時代背景を考えれば、驚きすら覚えるだろう。

さてそんなCGで描画されたキャラクター(アバター)のことをこの文章では一度結論の1つとして定義づけているのだが、これはパーソナル・ペルソナの有無の話になる。我々はバーチャルキャラクターのイラストを見て、きっとほとんどの場合「あっ(バーチャルキャラクター)だ」と認識できると思う。だが、本来イラストにそのバーチャルのパーソンの魂は入り込んでいない。つまり、空同然だ。我々は空の状態でも同じものだと認識できるというのが特徴だ。だから、キャラクターを1つのバーチャルYouTuberを構成する根幹となるものであるような定義づけになっているのだ。

アバターも同様で、他の人が入っていたとしても同じVTuberとして認識できるなら、同じバーチャルYouTuberであるはずなのだ。それもあり、バーチャルYouTuberのまず定義はキャラクターもアバターも基本併記になっているのだ。

この一文だが、この定義では「ナギナミ」や「インビジブルたかし」などが含まれないのではないか? という懸念が持てるが、私はこの定義では両方問題ないと考えている。
まず、ナギナミは手から先をリアルな姿を出すXTuberであるが、そもそも彼女たちはアバターを使用している。なので、彼女たちはXTuberであり、VTuberの範疇にいれられるものだろう。

一方のインビジブルたかしは、「姿が見えない系VTuber」である。そう、姿が見えないだけだ。彼に「姿が見えない」というキャラクター性は存在するのだ。そのため、私はインビジブルたかしもVTuberの領域に入れることが出来ると考えている。

逆にこの範疇に入れられないものがある。内容の詳細はR-18なので、省くが、「ますかれーど」の実写配信である。これはアバターを使っていないので、少なくとも配信中はVTuberとはいえないだろう。

「もしくはそれらを用いて動画投稿・生放送を行う配信者の総称」の苦難

バーチャルYouTuberを定義する上で、「キャラクターそのもの」でない存在が入り込んでくる。それが、バーチャルYouTuberの少しメタ的な視点だ。「キャラクター(アバター)を使って配信をしている人」というのは確実にこの世界にいるわけで、我々は認識しているが、どう無視しようにも出来ない存在だ。定義をするうえで、キャラクターが行う行為・キャラクターの中の人が行う行為という線引きを少し曖昧にできればと思うが、流石に日本語の表現では難しかったので、今回はこれが限界だった。

過去、バーチャルYouTuberの最初期はその多くが動画投稿者だった。しかし、それが時が経つにつれ、バーチャルYouTuberが配信をするということが多くなり、従ってVTuber=ストリーマーといった印象が一部についてしまっている。これは今後編集する際の課題であると認識しているが、今回定義するにあたっては、動画投稿・生放送という範囲を絞る形になってしまった。本来であればバーチャル音楽活動家などさらに広い視野に目を置きたいが、一方で彼ら彼女らもYouTubeにミュージックビデオなどの動画投稿をYouTueにしていればその範疇に含まれるという解釈をすれば基本的に含まれるという見方もできる。なので、見方によってはこの一文によって多くの存在を含ませることが出来ると思う。

総括

このように、バーチャルYouTuberの定義はとても曖昧な者であり、定めるにあたっては考慮すべき事項が存在する。

この定義は人に伝わる文になっているはずだが、まだまだ定義としては考慮できていないものが多くあり、まだまだ課題を抱えていると考えている。VTuberそのものの定義が定まるにはかなり先になるだろう。だが、私はどうにかこれをうまくまとめて、多くの人を納得させる定義を書いていきたいと考えている。

先月にこの定義はアメノセイくんちゃんに引用していただきました。こちらも是非ご覧ください。

*1 = “特集=バーチャルYouTuber”. ユリイカ2018年7月号 (青土社) 50 (9). (2018-07-01). ISBN 978-4-7917-0351-7.
*2 = はじめまして、電脳少女YouTuberシロです!
*3 = 【次世代YouTuber YUA】10月4日からYouTubeで動画配信はじめます!【藤崎由愛】
*4 = 青柳昌行 (2018-07-26). 藤田崇平. ed. “Vティーク”. コンプティーク 2018年9月号増刊 (KADOKAWA) 36 (9).
*5 = ここは資料がないので完全に古参の記憶頼りですが、キズナアイが一度バズったあとにミライアカリがバズりました。この際に「同業者に間違えられた~」といった発言の流れでミライアカリがバーチャルYouTuberであると言われるようになった、と記憶しています。
*6 = バーチャルYouTuber 2018年簡易年表
*7 = 有閑喫茶あにまーれ・因幡はねる、専門誌「近代麻雀」にて4月より漫画連載スタート

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?