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聴き語りtr.5:B'z 「コブシヲニギレ」 - ワイはこれからお前を殴る

曲を聴いてひたすら語るシリーズ、トラック 5。


洋楽に影響を受けつつも、ここ日本でヒット・メーカーとして活動し続けているミュージシャンの音楽は大体が面白いです。何故なら、"洋"のインプットがありながらも楽曲はあくまで"J"として出力する必要があり、そこに謎のフィルターが必ず通される、つまり謎の調味料を加えた化合物が創造されるからです。

今回取り上げる「コブシヲニギレ」はB'zが最もヘヴィな音に傾倒していた時期、2000年作『ELEVEN』に収録された楽曲です。「言うてもB'zっしょ?」という人にこそ聴いてほしい。

ぜひイントロから再生してください。開始1秒でカピカピに干からびたファンクギターと明石昌夫&黒瀬蛙一によるクッソ重いグルーヴが展開され、突然90年代後半のラップメタルよろしくハードなリフ※1に流れこむ。なんつったってまずドラムの録音が不愛想すぎる。この曲の半年後に「ウルトラソウル」のあのヤバ打ち込みリズムを繰り出してるの、創作における複眼がすぎる。

どう考えても日本で100万枚売れる音じゃないが何事もなく100万枚売れている。なんなら同盤には木村拓哉主演ドラマ主題歌「今夜月の見える丘に」も収録されている。このへんの歪さがB'zやミスチルを聴く時の面白さであり、音楽ファンに幅広い魅力が伝わりづらい厄介さでもあります。

さて明らかに当時のミクスチャー的な音楽性を目指した楽曲ですが、ボーカル・作詞家たる稲葉浩志が見事にその音を"J"の場末へと"いな"します。この関係性が面白いんです。見ていきましょう。


- 犯行にいたるまで -

ドヘヴィなイントロを引き継いで始まるAメロにて、稲葉浩志はおどけるようなカタコトでこんな具合に歌い始めます。

シッテル・キミがいつも
陰で僕を・笑いものにしてる
グウゼン・聞いちゃったヨ
ゆうべおんなじ・部屋にいたヨ

憎たらしい笑い声が響く
ハッハッハ……

本曲はSSW的に見ると「ムカつく奴が自分の陰口言ってるところに偶然出くわしたからブン殴ろうとする(コブシを握る)」曲です。最高の歌詞テーマですね。

「ハッハッハ……」と笑うあたりは、バーで一人グラスを片手にカラカラ揺らして苦笑いしている、そんなシーンが浮かんでくる。タバコもふかしてそう。仮にこの主人公を稲葉浩志としましょう。

「スゥーーッ、ハァー・・・」

ため息ひとつつき、2番に向けて稲葉浩志がおもむろに立ち上がる

・・・・・

2番はリズムセクションが変わります。エイトビートに寄って前のめりなリズムへの変化。稲葉浩志の前進です。千鳥足で相手との間合いを詰めながら、脳内で相手が責め立てられていく。

イイヒト・ぶって皆に
好かれ誰も・君を責めやしない
何でも・手に入れてき・ただろ転落・なしの人生

大きくフラついてのBメロ「傷ひとつ無いままにィ・・・」で相手の背中を捉え、「生きるの?」でその背にもたれ掛かる。

そして相手の耳元で囁く。

「そうやって笑ってなよ……」

Bring It Oooooooooonnnnnnn!
逃げるなLet's Do Iiiiiiiiiiiiit!!!

完全にヤ(殴)りましたねこれは。現行犯です。

グランジの静から動への爆発に「暴力」のイメージを乗せるのは王道ですが、本曲のAメロからサビに至るまでの流れはもう、アンガーマネジメントでいう6秒経過後さらに深呼吸をひとつしてから突如フルパワーでブン殴る、そういうキレた動きです。


■楽曲について少しマジメに語る

B'zは基本的に整頓された(揺れが少なく分かりやすい)リズムを提示してきます。しかし本曲はかなり生々しいグルーヴが際立っている。特に1サビ終わりからハープソロに至るまでのドラム演奏はライブ録音と感じられるほど"間"の緊張感に満ちていて、ここだけ取り出すならスロウコア的ハードコアの演奏美学すら見い出せます。そこにへばりついていくベースのスライドのニュアンス、逆にマシーンのようにカッティングを続ける松本さん、と当時の編成のグルーヴの凄みが良く収められている。

ブルーズ進行的なAメロでハープソロをとる稲葉さんも狂おしいほどカッコよく、いっぽう奇怪なBメロの進行をツインギターにてダブルチョーキングとエフェクターでグチャグチャに塗りつぶしていく松本さんもキレキレで、一切手加減がない。

いや実際、ネタみたいな書き出しで始めましたが本当にロックバンドとしてかなり"強い"楽曲だと思います。まず稲葉浩志のボーカルが凄すぎますしね・・・と思ったらソロ明けで稲葉さんがカマしてきます。

     このままうまくバックレようなんて
     世の中そんなに甘くないんだよ・・・

Bring It Oooooooooonnnnnnn!
逃げるなLet's Do Iiiiiiiiiiiiit!!!

ここ最初聴いた時笑っちゃいました。Led Zeppelinみたいなブレイクにこんな小芝居じみた台詞を挟むことある?そしてもう一度コブシが放たれる。しかも執拗に。ABABサビ間奏サビサビ、あのころヴィジュアル系の王道曲構成ですね。

とはいえ本楽曲は実際に殴りに行っては(たぶん)いません。最後に「さぁ目を覚ませ」と結ばれるように、「お前こんなんでいいのか!?目を覚ませ!」とあくまでも正のエンパワーメントの方向で着地するのが稲葉節であります。


締め

ファンの間ではよく、前作『Brotherhood』が80年代ハードロックの再解釈、そして本作『ELEVEN』が90年代メタル・ミクスチャーの再解釈と捉えられています。本曲もその系譜にあるでしょうが、そうした文脈の中でどこまでこの曲が評価されうるのか門外漢の自分は分かりません。特に「本場(ある文脈上)と比べてどうか」という評価ラインにおいて、B'zは"J"(稲葉浩志)で"いなす"ことで正統派とは少し異なる出力になるため、評価しづらい(むしろ反感を買いかねない)所もあるとは思います。

でも、最終形として「どんな楽曲になっているのか」で言えば自分は間違いなく面白い楽曲だと思います。ある文脈にさらに何が加わって・引かれているのか?そういう構成成分や構築から捉えなおして評価ラインを引きなおすのも音楽を聴く面白さじゃないか、と思うのでした。

ところでWIkipediaには「シングルにしようと思っていた」なんてエピソードが紹介されていますが、正気を疑います。でも、それだけロックバンドとして自信を持った一曲だったのは聴いてても理解る。特に人気が高い楽曲でもないですが、B'zの面白さが詰まった1曲だと、そう感じた人がいるとこの記事に残しておきたい。

さてさてこの曲の次に間髪入れず流れてくるのは隠れ名曲「Thinking of You」でこちらは滅茶苦茶シンプル超良い曲で、アルバム『ELEVEN』自体がだいぶ歪で面白く……オレ「RING」のことSyrup 16gくらい好きで……とまだまだ話は尽きませんが今回はこの辺で。

みんなもB'z聴こうぜ!



関連記事や注釈など

※1. ところでこの歪ませた方のリフ、EmからB♭(Emの減5度)が出てくるフレーズはメタルの王道ではありますが、このE(m) G A B♭の並び、よくよく見るとBlankey Jet Cityの名曲「ガソリンの揺れ方」と凄い近いんですよね。リズム含めてかなり発想が似ている。これは元ネタがどうと言いたいんじゃなくて、ブランキーはロックンロールの作法から、B'zはメタルの作法からこのリフに至ったと思っているので、その辺の道が偶然交差したことに人知れず唸った……という雑談でした。


ロック方面でなくシティポップ方面のB'zの魅力に迫った記事。あらためてシングル13連続ミリオンセラー時代の音楽性の幅広さは素晴らしい遺産をJ-POPという巨船に残したと思うのです。

B'zの音楽性と稲葉浩志の言語感覚にふれた記事。そうなんです。普通ハードロックをカバーしても"こう"ならないというのがB'zの面白さ(あるいは本場肌の人からしたら"ヌルさ"なのかもしれませんが……これこそ"味"だと断言します)。


前回の記事はこちら。


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