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満穂地区整備構想(案)ー愛媛県内子町ー

構想の説明 

ーどい書店 おかやまー

この構想は34年前の1988年に、愛媛の小さな村「満穂(みつほ)村」の村おこしのために作られた文書だ。内容をもとに景観と自治をテーマにした「村並み保存運動」が行われ、農村集落の持続的な自治運営を築くきっかけとなった。「村並み保存」という言葉が初めて使われた文書でもある。

本論の内容は30年以上前の内容だが、現代の田舎の衰退を食い止める手がかりになる。なるべく原文のままを載せた(当時の専門用語は注釈を入れ、レイアウト上、読みやすいように箇条書きの記号の統一などを行った)。

本文書を書いたのは元内子役場職員・岡田文淑さん。1975年から内子の市街地で行われた町並み保存運動の中心人物の1人だ。1987年から満穂村の中でも「石畳地区」で村並み保存運動を事務局的な立場から行った。

この文書は運動を進める上で、町外の専門家や大学の先生に協力を募る際に大いに役立ったという。彼が農村集落をどのように見て、ビジョンを描いたかを垣間見る資料として読んでほしい。

地名などがわからない人には読みにくいかもしれないが、自分の知っている田舎に地名を置き換えて読み進めてもらえたらより理解が深まると思う。

↓本構想の舞台となった愛媛の満穂村の中でも活動の中心となった「石畳地区」の場所はこちら。


↓「村並み保存」の説明はこちら。


満穂地区整備構想(案)ー愛媛県内子町ー

1988年2月10日

岡田文淑

 満穂は、小田川支流麓川流域に派生する旧集落である。風光明媚でありかつ自然が残り、肥沃した農地と生活文化の質は、内子町内で決して悪くはない。
 にも拘らずここ10年来の集落住民の所得の伸びは、他の旧村地区に比べて最下位である。その要因について種々考えられるが、このことにより生じる人口減少と高齢化は今後急速に進行し、さらに活力を低下させることが予測される。
 また経済成長期以来農村地域が農産物の生産基地と化し、コミュニティや文化活動、自然保護など農村社会が持つべき当然の機能までを失いつつある。このような状況を踏まえて、これからの「満穂地域づくり」を志向するとき、集落内に存在する資源のリサイクルと、農業振興を結合させることは、これからの重要な課題である。もちろん経済成長期のような即効的効果が期待できるものではない。地域住民の主体的意欲的活動を前提にして、今日的社会情勢の中で村落の活性化を図るには、「有資源の活用」を限界としながらも、21世紀を展望し、遅効的であっても次代の農業と農村地域を快適に形成してゆくことは不可能ではない。
 当面、考えられることは以下の通りであるが、住民の合意形成と「やる気のある人」次第で、その可能性は期待できる。さらに、地域集落の振興は単に満穂地域のみでなく、「ポスト・たばこ」を模索する全町的課題でもあることから、この事業をパイロットとして位置付け、21世紀を展望して具体的地王を図っていくものとする。

1.施策の考え方

 山村集落は、これまで種々の農業施策と環境整備によって、葉たばこ、果樹、椎茸等の主産地としてその形成を成し、農業振興に一定の成果をみることができた。しかし国内外の諸情勢は、農林業を生業基盤にする山村集落にとって、今後の展望を持てない大きな課題を投じている。内子町にとって懸案のポスト・たばこ、果樹の過剰生産と輸入、地域の高齢化t引き続く過疎減少など、いずれも地域の中では解決を見ることができない不安定な要因が生じている。
 このような状況の中で、これまでに培ってきた農林業の条件整備は、すでに飽和状態であり、21世紀を展望して新しい施策を打ち出す時期を迎えている。全国的には盛んに「むらおこし運動」が展開されているものの、状況が改善される事例は多くない。模倣ではなく地域住民の地力を基にして、地域を活性化させる実験とそのノウハウを身につけることは、今の内子町にとって重要な課題である。
 満穂地域整備に当たっては、農林業を第1次産業としてのみ捉えることなく、1.5次化から3次化までの可能性を模索すると共に、次代の地域住民のための資源づくりと環境整備を併せて考えようとするものであり、その実現を目指して、コミュニティから住民自治のあり方までを整備の対象として運動を展開することとする。(資料1、資料2参照)

なぜ、いま農村観光か

  1. 農産物の新規市場開拓は、既存の流通機構にのみ委ねる時代は終わりつつある。ー農林産物の低価格安定

  2. 新しい市場を創るには、農家自らが消費者との出会いのなかに、その糸口を見つける必要に迫られている。

  3. 高次元農業とは、農産物の付加価値を追求することであり、農業の加工化であるとすれば、その可能性は消費者(観光客)に学ぶことも重要である。

  4. 観光は、いい意味での都市と農村の交流の場であり、今日的な都市文化を「暮らし」のなかに求める格好の事業である。


2. 満穂地域を選択する要因

 満穂地域は内子町の西北にあたり、大洲市、双海町、中山町に隣接し、その三方を800~900メートルに及ぶ山林に囲まれた地形的閉鎖地域である。牛の峰(895.4m)を発する水は、麓川となって下流域の産業と文化を育み、800年の歴史を築いてきた。満穂地域は色々な意味で他の集落に比して、農村集落としての典型的要素であり、「山と川と人」を資源とし、新たな視点から地域振興を模索するには格好の地域である。

※具体的な選定理由
・所得水準が低い?
・未開部分が多い・・・・自然が豊富?
・農地等の大規模開発が困難?
・少量多品目生産に適している?
・有能な人材が豊富?

※考えられる資源
自然:鳥越峠、黒山、仏峠、牛の峰、麓川、山桜、紅葉、大清水渓流
産物:椎茸、わさび、蕎麦、淡水魚介類、山菜、鳥獣、炭やき、観光農園、保存食品(加工)
文化:山里、まつり、信仰、民話、村並保存、天然記念物
歴史:隠れキリシタン、村のおい立ち、お堂巡り
史跡:弓削神社、満穂神社、黒山城址
生活:有機農法と暮らしの表現(ホーム・ステイ)
自治:コミュニティ

3. 整備の方針(当分の間)

※ 極め付けの名物名所を創ること。

※「満穂村」の具体的なイメージを創る

考え方のフロー・チャート

考え方のフロー・チャート

①資源実態調査・・・地域素材を拾い出し、その管理と活用を考える。
②学習・研究・・・先進地事例を知り、地域資源の活用を考える。
③実験・考察・・・研究の成果は具体的実験に移し、可能性と問題点を模索整理する。
④トレーニング・・・ノウハウ養成。
⑤事業化計画・・・住民と行政による実施計画策定。
⑥実施・・・行政施策の中で。

4. 住民組織の再編強化

 この計画は、地域住民をベースにした既存の社会活動とは異なった視点で行動することが必要であり、地域自治がコントロールできる住民組織が求められる。これまでの官製型住民組織の欠陥を徐々に見直し、自立した住民組織に再編することを副題として、運動推進の過程でクリエイトする。
①仮称「満穂地域振興協議会」(民間ベース)を組織し、自立型の運動(ミニミニ共和国)を目指す・・・先進地から学ぶ

※行政依存型の運動体では意味が無い。
※満穂は内子町の一部ではなく、「満穂村」(旧村の意味でなく「村落共同体」として)であるべき。
※果たして、満穂地域の人々に関心が生ずるか、あるいはそれだけの説得力(行政能力)があるか。

5. 事業の進め方

事業の進め方

6.仮称「満穂村地域振興協議会」構成図

仮称「満穂村地域振興協議会」構成図

※当分の間は、ボランティア・サークル活動として運営する。
※論田、河内、石畳を個別の「自治公民館」として位置付ける。

7.事業の概要

1)核とする当面のプロジェクト

①アカノ渕公園整備計画

ア、 地域住民の合意形成
イ、 地籍(調査済み)、植生の概況調査ー大学委託
ウ、 整備のための基本構想・計画策定ー委託

  • ※落葉樹による緑化修景

  • ※川岸への取り付け道の暫定整備

エ、 当面する行動計画策定
オ、街頭地区の部分的公有化


② 下地野尾川キャンプ場設置計画

※キャンプ場の既存イメージを替え、3シーズン利用型とする(杉、檜のロッジ20棟)
※視野の修景・・・ハゼ畑他による
※野趣料理の開発
※エンジョイ・システムの開発

ア、 地域住民の合意形成
イ、 地籍、植生等の概況調査
ウ、 整備のための基本構想・計画策定
エ、 当面する行動計画策定
オ、 該当地区の公有化

③古橋地区水車邑計画

ア、 地域住民の合意形成ー水車実態調査
イ、 整備のための基本構想・計画策定
ウ、 当面する行動計画策定

  • ※モデル事例の設置

2)満穂地区整備計画に係る補助的調査事業

※名物・名所を創るための基礎調査

①麓川流域生活文化調査

ア、川と暮らし、河野変化方満穂の実態を学ぶために。
・飲料水・生活用水。灌漑用水(堰と水田)
・川と魚と食糧
・橋と交通
・遊びと暮らし12月
・ETC(寺、神社・・・)

イ、生活学的視点で調査することにより、地域開発の今日的あるいは将来的可能性を探るために。

ウ、調査の性格上、斯道の専門家に委託する。(2年次計画)
エ、地域住民の中にワーキング・グループを組織して、協働調査にしたい。

②資源調査

ア、「知られざる満穂」を発見するための基礎調査である。
・古い写真の収集
・民家、名木、景勝地、植生、魚介、動物
・堂宇、記念碑、塔
・生活民具の収集
・郷土料理他

イ、地域住民の実践活動を中心に実施する。

3)内子双海線・牛の峰林道沿道修景事業

①地域全体の景観形成の一環として位置づける。
・空き地利用の「花いっぱい運動」
・紅葉樹の植栽(酪農指導所跡地の紅葉移植)
・ハゼ畑復原計画策定(予定地取得・ハゼ種の決定、育苗委託)

②地域景観保全、自然保護運動の一環でもある。

③子供、婦人、老人の地域活動として実践する。

4)農村整備のための学習活動

①学習のテーマ
→農村、農業、農家の今日的在り方
→自然保護と地域活性化を求めて
→核となる事業に関して

②定期学習会として10-15回のプログラムとする。(3年計画)

③学習会後のアクション・プログラムを実施する。

④対象を全町とする。ー知的農村塾との競合?

⑤視察研修を実施する。

⑥具体的計画は、地域住民が策定する。


5)運動を進めるための組織化について

①担い手集団の組織化

②公的団体からの認知(公民館、議会、その他各種団体)

③コミュニティ活動としての位置付け

④機関誌の発行(レター・ニュース)

6)財政計画

 財政計画は、地域における事業実施にかかる確定要素が固まった時点で策定することとし、当分の間は自主財源で先行投資する。

7)行政対応の在り方

 新しい農村政策の試みに対応する行政の有り方は、これまでの保護政策に依存することはやむを得ないことであるが、農業政策と必ずしも一致しない要素を持っている。タテ型行政の矛盾と、行政自体が担う事務分掌を整理し、地域社会形成のための組織改革への実験として対応したい。

①運動の主体は、地域住民であること

②住民運動を支えるための強力なバック・アップが必要

③タテ型行政の矛盾を克服するための合意形成が必要。
※事務分掌の見直しが必要である。
※建設課、総務課、町並保存対策室、生活環境課、教育委員会、東公民館、産業振興課による調整会議の在り方について
※地域内に係る公共事業の景観整備へのコントロールを誰が指揮するか

④振興計画の中での位置付けをどうするか。

⑤農協、森林組合との連携をどうするか。

以上のことを、当事業(運動)推進に係る課題として、急ぎ対処することとして提起する。

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資料:1 「産業を興すためのソフト・プロジェクト」

ー※マスコミの話題になるような活動の中で。

資料:1 「産業を興すためのソフト・プロジェクト」

資料:2 自然と風土を大切にし、住まい「満穂」を創出するための事業。

資料:2 自然と風土を大切にし、住まい「満穂」を創出するための事業。

資料:3 麓川流域地区別整備課題一覧 

※内容未検討

資料:3 麓川流域地区別整備課題一覧 


おわりに

どい書店 おかやま

『満穂地区整備構想(案)ー愛媛県内子町ー』の内容は以上となる。この計画書は

・人を巻き込んだプロジェクトがしたい人
・田舎をどうにかしたい人
・行政関与のプロジェクトをしたい人

にとっての参考資料となる。とはいえ、内容がわかりにくいものでもあるので、気になった方はコメントやメールなどでご連絡ください。

原文のダウンロードもできるようにしておきます。

また、岡田文淑さんの活動については以下の書籍をおすすめする。

筆者「どい書店 おかやま」の自己紹介

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